第3話



カリン姉さんが部屋を後にした後、俺はしばらく眠っていた。


昼が過ぎたのだろう。

和室に入り始めた日光を浴びて意識が覚醒していく中、俺は柔らかな感覚に身を包まれていることに気づいた。

この感触はカレン姉さんだな。

双子でも抱き着かれたときの感触に微妙な違いがあって、寝相が悪い姉さん達によく抱き枕にされている俺はその感覚に冴えていた。

目を開けると、すぐ横に気持ちよさそうに眠っているカレン姉さんの顔があった。

俺、一応体調を崩して寝込んでたんだけどな……。

きっと、インフルエンザでもない限り完全に離れてくれることはないのだろう。

そのことに、嬉しさと思春期の男子らしく少しの煩わしさを感じながら、俺はゆっくりと体を起こした。


「みゅ~ん……ユウジ、起きたのね……」


俺が動いたことに気づいたのか、変な鳴き声を発しながらカレン姉さんも体を起こし始める。

俺はカレン姉さんの顔にかかっていた髪をよけてあげながら、声をかけた。


「うん、おはよう、カレン姉さん。あのさ、俺、一応風邪を引いて寝込んでたんだけど……」


「……そうそう、だからお昼ごはんを持ってきてあげようかと思って覗きにきたのよ。そしたらすやすや眠っているんだもの。そして、そんなユウジを見てたら私も段々眠くなってきてね。だから、仕方ないのよ」


「そっか……」


「それで、体調はどう?」


「ああ、うん。だいぶ楽になった気がするけど、一応もう少し寝てようかな。お昼ご飯はまた夜にでも食べるよ」


「それなら、気にしなくていいわよ。ユウジの様子を見てからにしようと思って、まだ作ってなかったから」


そう言いながら、カレン姉さんは立ち上がろうとして、途中で止めた。

そして、姿勢を正すとやや緊張した表情で声を発した。


「……ねえ、ユウジ」


「ん?」


「……カリンと私、どっちが好き?」


なんだ、その質問は。

カリン姉さんとカレン姉さんを比べてどちらが好きかなんて、答えらえるわけがないじゃないか。

俺にとってはどちらも大事な大切な姉で、それでいえば母さんや父さんとだって比べることはできないだろう。

だから、俺はこう答えるしかないのだ。


「どちらかなんて、選べないよ。二人とも大切な俺の姉さんなんだから」


「……そう。変なことを聞いてごめんね」


そう言って、カレン姉さんは笑いながら、それでもどこか残念そうな表情を浮かべながら、退室していった。




「ユウジ、体調は大丈夫か?」


「うん、母さん。もう大丈夫」


夕方まで寝ていたら熱も完全に下がったので、リビングに向かうと母さんが帰ってきていた。

エコバッグを持っているので、今から買い物に行くところなのだろう。

リビングには姉さん達もいて、一緒になって何かの雑誌を読んでいるみたいだった。


「そう。なら、母さんは今から買い物行ってくるわ。カリン、カレン。あんたたちも暇ならついてきなさい」


「えー」

「仕方ないわね」


そういって、母さん達は出かけて行った。

さっきまで姉さん達が読んでいた雑誌を見てみると、カラフルな表紙に大きく『長野旅行』という文字が載っている。

そう、来週は長野へ家族旅行に行くのだ。

具体的な行先はよく知らないが、前に父さんが受験生である俺に配慮して、旅行はやめておくかと尋ねてきたことがあった。

その時、俺の都合でせっかくの家族旅行をふいにするのは申し訳なかったし、何より俺自身が楽しみなので行きたいと返答したのだ。

というのも、うちの両親は共働きで、互いの休みが被らないときも多く、旅行に行ける機会は貴重なのである。

俺はそんな機会を逃すつもりはないし、勉強だってそれをモチベーションにして頑張れるというものだろう。

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