第2話
「ねえユウジ、大丈夫?」
「何かしてほしいことはない?」
ここ─和室に繋がる扉越しに姉さん達が声を掛けてくる。
俺は今、自分の部屋から持ってきた布団の上で横になっていた。
朝起きたら体が妙に怠く、体温を測ったら熱があった。
原因として思い当たるのは、昨日の水風呂しかないな……。
あの後の記憶はぼんやりとしていて、気が付けば30分も浸かっていた。
その後は、冷たさに慣れていたのと、当然のように姉さん達が体を洗い始めるものだから、急いで風呂から出てしまった。
夕食後に改めてシャワーを浴びはしたものの、すぐに体を温めなかったのがいけなかったのだろう。
俺は風邪を引いてしまった。
受験生なのに、なにをやってるんだよ……。
「カリン、カレン。ユウジの邪魔をするんじゃないよ。じゃ、行ってくるからよろしく」
「了解」
「いってらっしゃい~」
そう言って、母さんが仕事に出かけていった。
ちなみに、父さんはもっと早くに家を出ている。
なぜ俺が和室で寝ているのかというと、俺たちの部屋のエアコンが故障中だからだ。
冷房の需要が真っ盛りの今、なかなかすぐには修理できないらしい。
そんなわけで、普段は特に使われることのない和室で俺は療養していた。
「ユウジ、入るわよ」
そう言って、部屋に入ってきたのはカリン姉さんだ。
ちなみに、カリン姉さんとカレン姉さんを見分けるのはとても難しいらしい。
当然、俺達家族は見分けることができるのだが、視覚というよりも雰囲気で判断している感じだろうか。
俺達が通っていた小中学校では見分けられる生徒や教師がほとんどいなかったため、とりあえず俺たちの名字である『
まあ、基本的に二人はいつも一緒にいるから、適当に呼んでも反応が返ってこないという事態にはならないが。
そんなことを考えているうちに、カリン姉さんが俺の傍にやってきた。
手に何かを持っているようだ。
「ユウジ、リンゴを切ってきたわよ」
どうやら俺のために果物を用意してくれたらしい。
皿に入ったリンゴは皮つきで、ウサギになっている。
これはまた
「食欲はある?」
「うん、食欲は普通にあるよ」
「じゃあ、あーん」
カリン姉さんはリンゴの刺さったフォークをこちらに差し向けてきた。
普通、こういう状況では羞恥心を覚えて抵抗するのかもしれないが、俺は誰も見ていないなら別にいいかと、それを受け入れる。
こういう時の姉さん達は強情なので、抵抗するだけ無駄なのだ。
「さっき100円〇ーソンで買ってきたやつなんだけど、どう?」
流石100円〇ーソン。
昨今珍しくなってきた24時間営業に加えて、生鮮食品も取り揃えているのだから凄い。
「ああ、おいしいよ。わざわざありがとう、カリン姉さん」
「別にいいのよ」
そういって、カリン姉さんもリンゴを食べ始めた。
あ、それ全部俺にくれるわけじゃないのね。
カリン姉さんとリンゴを食べ進めていると、突然こんなことを言ってきた。
「ユウジ、ごめんね」
「どうしたの急に」
「私たちがわがままを言わなければ、ユウジが風邪を引くことはなかったもの。ユウジは受験生なのに」
「気にしないで。別に、俺も姉さん達と遊ぶのが嫌なわけじゃないし。たまには息抜きも必要だよ」
「ユウジは優しいわね」
「ふふ、そうでしょ」
俺が元から優しかったのか、姉さん達と過ごしていく中で寛容になっていったのかはわからないけどね。
そうしてリンゴを食べ終わった頃。
「じゃあ、安静にしているのよ」
「ああ、わかったよ。リンゴありがとう」
カリン姉さんは退室していった。
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