第14話瑠花お嬢様を守る男について(直人視点)

直人が瑠花と出会ったのは直人が15、瑠花が10の時だった。


高橋家は代々紡績で儲け、今では世界有数の企業までになった家だ。

そんな高橋家直系は男子が全てを相続するという古臭い慣習がある。

だが直系に生まれたのは瑠花お嬢様一人だけだった。それにがっかりしたのは

祖父の孝雄様や祖母の淑子様ではなかった。瑠花お嬢様の親。父親である孝公様

母親であるアイ様だった。二人とも娘が生まれた時点で一気に娘に興味をなくした。

娘を育てたところで、直系がもらう恩恵を全て貰えないからだ。


孝雄様も淑子様も幾度も幾度もお二人に注意をした。

親というものを親の愛情が子供を豊かにするということを。

孝公様は実際お二人の愛情を一身に受けて育ってきたではないか?

それなのになぜ娘にできないのだろうか?

莫大な権力というのは愛情をどうも簡単に凌駕するらしい・・。


ある日。孝雄様と淑子様が一週間旅行で本家を出ることがあった。

その時を見計らって、孝公様とアイ様そして五歳になった瑠花様を連れて本家を出てしまった。

子供の扱いに関しては最悪だが、それ以外は孝公様もアイ様も人並み若しくは人並み以上の良さがある人間だ。

お二人は、孝雄様と淑子様が瑠花様を見つけるまで5年間、必要最低限の生活を瑠花様に与え、それ以外は全部自分の生活のために過ごした。


孝雄様と淑子様が瑠花様を見つけた時は、子供らしくないく昏い目をしていたらしい。

その目を見た時、孫の悲惨さとなぜあの時私たちが旅行に行ってしまわれたのかと後悔に苛まれたというのを聞いた。

そこから、お二人は分家筋から瑠花お嬢様を守る人選をするようになり、分家の末端である俺が瑠花お嬢様のお守り役として配属されるようになる。


孝雄様と淑子様のおふたりが俺に託したのは数点。

①瑠花様が幸せになるよう道筋を立てること。

②瑠花様が成人するまで、お二人のことを内緒にすること。

③瑠花様の身が危険になるようなところから守ること。

④瑠花様の周りの人間を選別すること。

⑤瑠花様が独り立ちできるように力添えをすること。

⑥罷り間違っても、瑠花様に恋をしないこと。

⑦瑠花様を守りつつ俺自身も幸せになること。

俺自身が幸せになるためにはどんな援助もすると孝雄様淑子様は仰ってくれて実際そうなった。


こうして、俺は瑠花様を10の時から守ってきた。瑠花様が塁さんと親友になり、瑠花様がファッションを好きになりバイトするようになった時も、家賃三万のアパートで一人暮らしを始める時も(あの時は流石に自分もどうやって守ればいいか、孝雄様と淑子様に連絡した時、お二人は爆笑しながら、色々と手を打ってくれた。)

家賃三万から6万のアパートに引っ越した時(この時ばかりは塁さんに感謝した。)

瑠花様が成人し、孝雄様と淑子様に初お目通しした時の瑠花様の呆然とした顔。

瑠花様が月一のお買い物をした時にまさか異世界へ転移するとは・・。

そして、俺は今。自分の役割が終わったのだと目の前の男を見て思うのだ。


「直人さん・・。今までルカさんを守ってくださりありがとうございます。」

リーノは俺の話を聞いてそっと頭を下げた。

くそ!なんていいやつなんだ。

「リーノさん。これからは瑠花様のことをお願いいたします。」

俺も頭を下げる。自分の直感がこいつを逃したら一生瑠花様の恋人が現れないと告げてる。


「ただいまー!!」

ああ瑠花様が明るい笑顔で帰ってくる。

その笑顔を見た時、瑠花様はこの土地でうまく生活をしているのかと確信した。

孝雄様と淑子様に安心して報告ができる。

「瑠花様お荷物お持ちいたします。十分に重かったでしょう。」

「ありがとう直人。えへへ・・。みんな来たから張り切って買ってきちゃった。

あ!リーノさん。お肉屋さんが今度の魔物討伐でマイルドアのお肉があったら欲しいと言っていましたよ。」

「マイルドアのお肉ですか!?わかりました。魔物討伐の時に片隅に入れておきます。」

ああー。魔物討伐あるのかあ・・。俺はこの言葉で異世界を激しく痛感した。

「マイルドアのお肉ってどんなお肉なんですか??食べてみたいかも。」

「ルカさんは天然魔物の肉って食べたことないですものね。普段食べてるお肉は家畜されてるお肉ですしね。」

「普段食べてるお肉家畜されてる魔物なんですか!!それは初めて聞いたかも!!」

いやいや瑠花様!魔物の肉を食べてるんですよ!!何でそんなに受け入れてるんですか??順応力高すぎですよ!!

そうだった。瑠花様の順応力は高い方だった。

俺は瑠花様の逞しさを垣間見て、改めて守り役から手を離れたんだと実感した。


「ねえ・・。直人さん。」

じっと私をみていた塁さんが私のところに近づいてきて囁く。

「瑠花の守り役から今度は私の守り役になってくれませんか?」

俺はその囁きに塁さんの顔を見る。塁さんの顔は真っ赤になっている。

自分からやっと言えると思っていた告白をどうやら先越されてしまったみたいだ。

だから俺も塁さんの耳元で囁いた。

「俺でよければ喜んで。」

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