枯れ葉を踏みつぶして歩き回る
ナダラに手を引かれ、近くの公園に逃げた。公園は滑り台とブランコと砂場くらいしかない狭いところ。夜なので当然誰一人としていなかった。
公園内にはかなりの量の枯れ葉が散らばっていて、僕とナダラが歩くたびにめしゃめしゃと音を立てて散り散りになった。
ナダラにブランコまで連れていかれて、2つあるブランコにそれぞれ座った。まだ涙が止まらなかった。
ナダラに抱きしめられた時に気付いた。人に受け入れられるなんて初めてのことだったと。家族にも受け入れられず、それでもやってこられたのは僕が非日常という偽りの愛にもたれかかっていたからだろう。
だがその非日常が徐々に日常になり、僕の心は完全に壊れた。善悪の判断がつかなくなり、タガが外れたように非日常に走った。
ナダラに受け止められていなかったら僕はどこまでも突っ走っていたのだろう。ナダラには本当に感謝しないとな。
気持ちの整理をしていたおかげでだいぶ心が落ち着いて、涙も収まってきていた。
「ナダラ、いろいろ迷惑かけたな…、すまない」
「大丈夫ですよ。もう落ち着きましたか…?」
「ああ」
ナダラのなんでも受け止めてくれるこの安心感。やはり僕にはナダラが必要だ。さっきあんな安易に絶縁を受け入れようとした自分が許せない。
「やはり私は知っておくべきだと思います。なんでミチルが非日常に異常なまでに固執する理由を。前、バスの時に言いかけたことがあったじゃないですか。昔にある出来事があったことがきっかけだって」
「そんなこともあったな…。前は適当に濁していたっけ」
「ミチルの非日常狂いは日常生活に支障が出ています。無理に欲望を押し潰したせいで今回は暴走しちゃったので、私は根元から治すべきだと思います」
「たしかにそうかもな…」
非日常が好きだという感情が僕のすべてだと思っていたが、ナダラに受け止められた時、偽りの愛だということに気が付いてしまった。こんな感情は根っこから治すべきなのかもしれない。
「ナダラには話しておくよ…。なんで非日常が好きになったのか。だいぶ昔の話になるんだけどね、いいかな」
「大丈夫ですよ」
「僕の家族はあまりいい家族といえるような人じゃなかったんだよ。一緒にご飯を食べに行ったり、遊んでもらったり、みたいな仲のいい家族ではなかった。そのうえ家のルールは厳しくてさ、おもちゃとかも買ってもらえなかったし、遊びに出かけることも叶わなかった。」
僕は目の前に広がる暗闇を見つめながら喋っていた。そんな僕に対してナダラはうんうんと相槌を打ちながら聞いていてくれた。
「そんな家庭だから愛情を与えられずに育ち続けてどんどんおかしくなっていった。ある時そんな現実に嫌気がさして家出したんだ、夜中に。初めて軛から解き放たれてみた夜の街の輝きはあまりにも美しすぎた。結局その日のうちに家出は終わったんだ、父親に見つかって。叱られるかと思ったけどあまり面倒をかけるなの一言だけだった。やはりここでも愛は感じられなかったよ」
「そんな…」
「でもその日に見た夜景、非日常が忘れられなくてさ。生きる気力がなかった俺には眩しすぎて、脳裏に焼き付いて離れなかった。空っぽの心を満たすにはあまりにも十分すぎた。それからは非日常だけを追い求めて生きるような人間になった。けれど親の目もあってなかなか外出できる環境でもなかったからさ、ずっとこんな家にはいられないなと思って。なにかこの家から出ていける方法はないかなと考えたとき、遠い学校に通えば逃げられると思いついたんだ。勉強という建前があったから親からは文句も言われなかった。それで今のような生活をするようになったんだ」
「なるほど…、そんな理由があったんですね…」
「まぁあまり面白い話でもなかっただろ?なんか悪いな、こんなに話しちゃって」
話がどんどん暗くなって、ナダラにいい思いをされていないのではと思い、急いで取り繕った。
「そんなことないですよ!今まで辛かったですよね…話せる人もいなくて。辛かったらいつでも私を頼ってくださいね!」
屈託のない笑顔でナダラは言う。なんて優しいのだろうか、ナダラという人間は。また泣きそうになってしまう。僕の心はいまボロボロの状態で、ちょっとしたきっかけで泣きそうになるくらい脆かった。
「でも困りました。非日常狂いを根元から治す方法はそう簡単に思いつくものでもなさそうですね…」
「今まで治そうなんて思うこともなかったからな…」
非日常に依存した生活をやめる、か。非日常は僕にとって全てだ。人生そのものといってもいい。ただこのままでもいいとは思えなくなってきた。法に抵触し始めているから、やめざるを得ないだろう。
「非日常狂いを治すといっても、完全には断ち切りたくないな、僕は。生活に影響しない程度には今まで通り楽しみたくはあるよ」
「それはそうですよね。非日常がミチルをミチルたらしめているみたいなものですからねぇ」
解決策を考えているうちに時間はどんどんと進み、気温がかなり下がってきた。何も考えずに外に出てきているからかなり肌寒い。
「なぁナダラ。少し寒くなってきてないか?」
「そういえばそうですね、ミチルの服じゃかなり寒そうです」
「とりあえず今日はお開きにして、また今度話さないか?」
「それもそうですね、今日中には思いつかなそうですし。ではまた後日話しましょうか。私も解決策を考えてくるので」
「悪いな、僕のためにそこまでしてもらって」
「いいですよ、全然!私も今まで受けてきた恩がありますから」
「僕なんかナダラにしてあげたっけ…」
「色々ありますよ。まぁ今日は帰りますかね、駅までは一緒に帰りましょうね」
「ああ」
ナダラと適当なことをしゃべりながら駅まで送って、別れた後は家に帰った。
なんだかいろいろなことが起きた今日だったが、床について終わらせることにした。僕は深い眠りに誘われていった…。
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