枯れる、枯れる

ナダラと非日常を巡ってから1か月。ナダラは最近忙しいらしくあれから1回も会っていなかった。


その間、同じような日々を毎日毎日繰り返していた。──それもつまらない毎日を。


朝起きて、学校に行って、帰宅。散歩とかをしてみるが非日常なんて一切起こらない。


朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。朝起きて、学校に行って、帰宅。


他の人間が営むような、ありふれていて退屈な毎日。僕の一番嫌いなものだ。


こんな毎日が続くなら生きている価値さえ分からなくなってくる。非日常がないなんて、こんなの僕じゃない。


別人が僕の中でうごめいているようで、いつか乗っ取られてしまうような気がして。非日常を僕から抜き出したら空っぽだ。何にもない空虚な人間。


ただただそんな人間になるのが怖くて仕方がない。すぐにでもボロボロと瓦解してしまいそうだ。


「ぐるしい……が…ぐぐ…」


僕の嗚咽が部屋に響き渡る。


…もう限界だ。


今日は火曜日でいつも通り学校がある。でももう学校に行っている場合なんかではないな、コレは。


すぐさま学校に休みの連絡を入れると、外に飛び出した。


「非日常…非日じょォ…」


ゾンビのようなうめき声をあげて非日常を探し求めた。僕の心を揺さぶるような非日常を求めて。


電車に乗って30分くらいの少し遠い場所まで行って探したりした。隅々まで探し回った。日が暮れ始めると走って探したりした。


何かを求めて狂ったように走りまわる僕を見て、変だと思うやつもいるかもしれない。でもそんなことはどうだってよかった。非日常さえ見つかるなら。


でも、日が暮れるまで見つかることはなかった。結局そこにあるのはただの日常。僕の心は1mmも動くことなんてなかった。


遂に僕は諦めることにした。いや、諦めさせられた。そんな感じだった。


家に帰るために電車に乗りながら、非日常を見つける方法を考えていた。


今まで感じた非日常。ファミレス、電車、ユードリナ、バス、コインランドリー、駐車場。もう僕の食指は動こうともしなかった。


もっと刺激が強いものじゃないと。眩しくて仕方がないくらいの非日常。明日はそれを探そう。


家に帰ると僕はギラギラと開く目を閉じて無理やり眠った。




■□■□■□■□




また今日も学校を休み、1日中非日常を探し回った。けれど結局何も見つからなかった。


とぼとぼと帰宅しているとき、ふと思いつく。


今までの非日常はもう興奮しないと思っていたが、まだ残っているじゃないか。閉店後のユードリナ。前回は警備にばれていられなかったが、もう1回だ。


もうそろそろ閉店するユードリナに走って向かう。閉店15分前に滑り込みで到着した。ユードリナの中はとても暖かかった。もうすぐ閉店してしまうので急いで隠れる場所を探しまわった。


僕が目を付けたのは3階のゲームコーナー。クレーンゲームの間にある窓だ。そこから外に出ると、少し出っ張った場所があったのでそこにぶら下がって、閉店するのを待った。


冷たい風が僕を吹き付ける。手はかじかんで落ちてしまいそうだ。それも楽しそうだが、今はユードリナだ。あと少し耐えれば閉店後のユードリナを見ることができる。


1時間くらい耐えてから窓から侵入した。


中は真っ暗だった。普段はあんなに楽しそうな音を出しながら光るクレーンゲーム達も沈黙を貫いていた。


すごい。閉店している。僕は久しぶりの非日常を味わっていた。どんどん満たされていく。これだよこれ。


真っ暗なユードリナの中を走り回って楽しんでいた。2階に降りると、大量の服を突き抜けるように走った。ばささささと音を立てて服が揺れる。


楽しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!


最高だ。これは。エスカレーターの手すりで走ったり、店のカウンターでパルクールみたいなことをして遊んだりした。


あまりに音を立てすぎたのだろうか、警備員が2階に上がってきてしまった。


──まずい。ここでばれたら絶対に通報されるだろう。不法侵入とかそのあたりだろうか。いや今そんなことを考えている場合ではない。何としても避けないと。


しかし近くに隠れる場所などなく、すぐに警備員に見つかった。


「誰だ!!!そんなところで何をしている!!!」


静かだったユードリナに怒号が響き渡った。空気がピリピリと振動しているのが伝わってくる。


ただ暗いおかげで顔はばれていない。逃げよう。逃げるしかない。


エスカレーターの手すりに乗り全力で走って3階に上がる。ダンダンダンと大きな音を立てて走った。


警備員も走って追ってきていた。逃げるならあそこしかないな。


3階に着くとゲームコーナーをめがけて走った。そこにはさっき僕が侵入した窓が開いていた。


そこの中に飛び込むように窓から出た。──が、ここは3階。普通に落ちたら骨折だ。おそらく9mくらいあるんじゃないか。


猫とかがやる5点着地とかなら助かるかもしれないが、あいにく僕はできないから他の方法だ。


ふと目に入ったのはさっきぶら下がってた出っ張り。それは3階のみではなく2階、1階と同じような構造が続いていた。これだ。


その出っ張りを手で経由して落下の衝撃を殺し、2階、1階と降りた。


多少手のひらの皮が擦りむけたものの、大した傷もなく着地に成功した。


3階からは


「おい!待てー!!!」


と警備員の怒号が聞こえてきたが、警備員が窓から飛び降りるなんてことはしなかった。さすがに恐怖を感じたのだろう。


追いつかれる前に逃げないと。さすがに大通りに出たら人目に付くだろうから裏道から逃げよう。とにかくユードリナから離れるべきだ。


僕は全力で走った。久しぶりの非日常とスリル。僕は楽しくて仕方なかった。顔から笑みが張り付いて離れない。


少し寒い外の空気を全身で浴びて、肺が裂けそうなほど走った。手のひらの傷口も寒さと風邪で多少の痛みを感じたが、そんなことは些細な問題だった。


すごい遠回りをして家に着くと、僕は泥のように眠った。

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