悪夢となかよし
「まったく…これだからお前はめんどくさいんだ」
「あまり私たちに手間をかけさせないで頂戴」
父親、母親からともに陰湿な言葉が飛んでくる。またいつものやつか…。
「ごめんなさい」
「はぁ…そうやってすぐに謝ればいいと思って」
「もうしません…ごめんなさい」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ──
「なんだ、夢か…」
まだ6時だった。1時間半も早く起きてしまった。服は冷や汗でぐちゃぐちゃだった。また小学生の頃の悪夢を見てしまった。もう忘れられたと思ったのに。
やはり一度脳にしみついてしまったものはなかなか取れることがない。身をもって実感していた。
「汗だくで気持ち悪いな…時間はあるしシャワーでも浴びるか」
悪夢を見た後の汗というだけでどこか普通の汗とは違うような気がして、とにかく洗い流したかった。
シャワーを浴びた後はまたいつも通り学校に行くのだった。
■□■□■□■□
今日もいつも通り学校を終えて放課後になった。今日は悪夢を見たせいで一日中ずっと疲れていた気がする。早く帰って寝たいな、とも思ったが怒らせてしまったナダラのことが気にかかって仕方なかった。
謝りたい。いくら非日常が好きだからってナダラのことを気にかけずに突っ走ってしまった。これに関しては全面的に僕が悪いし、謝る以外の選択肢は思いつかなかった。
ただ──、さすがに呆れられちゃったかな…。よく考え直してみればあの行動はやばすぎた。縁を切ろうという選択をしてもおかしくない。
とにかくナダラになにかメッセージを送らなくては。そう頭では思っていてもいったい何を送ればいいのか僕には見当もつかなかった。人生でこういう仲たがいみたいなもの経験してこなかったしな…。
ナダラに送るメッセージが思いつかないまま、目的の駅に着いてしまった。電車は無情にもいつも通りの時間に止まる。
結局何て送ればいいのかわからないまま家に着いた。今日の疲れもあってかあっという間に寝てしまった。
目が覚めると21時30分。起きて脳がすっきりしたからか、自然とナダラにメッセージを送っていた。
「今から駅で会えない?
昨日のこと話したい」
起きて歯とかを磨いている間に返信が来ていた。
「わかりました。」
うーんやっぱり怒ってる。文末に"。"がついてると見えない圧を感じる。そりゃそうだろうと思ったけどさ。
返信が来た後僕はすぐに支度をして駅に向かった。こういう時は先に駅に着いとかないと誠意がないと思われるだろうしな。
駅に着くと辺りは閑散としていた。人通りもとても少なくて見通しがいい。そんな広い空間を街灯が頼りなく照らしていて、それが僕をより一層不安にさせた。
外の座れるようになっている花壇にぽつんと座って待つこと15分、ナダラが来た。
「マジでごめん」
開口一番謝罪した。
「昨日はさすがに度が過ぎていましたよ」
ナダラは少し不機嫌そうに言った。
「本当にごめん!人と関わりがなさ過ぎて配慮が足りなかった!でもこんな僕のバカみたいな行動で関係を終わらせたくないんだ!許してくれ!縁とかいろいろ切らないでくれ!」
僕なりに誠心誠意謝った。少し声を荒げて。僕は滅多に声を荒げることはないがこの時ばかりは感情が先制した。
「縁とかって何ですか、まったく…。許しますよ、許しますけど──」
「けど?」
「少しルールとかが必要じゃないですか?ミチルはあまりにも歪すぎます。ちゃんと決めないとこの先やっていけないですよ…」
ナダラがため息をついて首筋を搔きながら言った。
歪…。直球で言われたな。まあ昨日の行動を鑑みれば妥当だよな。しっかりと叱ってくれる人が僕には必要なのかもしれない。僕は社会にすんなりなじめるような価値観ではないのかもしれないからな。
「そうだよな…。ここで話すのもなんだし話しやすい場所に移動しないか?」
「まあ…そうですね」
僕はナダラを先導して話しやすい場所に向かった。ナダラを連れて着いたのは、バス停だった。バス停はベンチがおかれており、透明で臼灰色の屋根に覆われていた。
「へ?なんでバス停なんですか…」
ナダラがきょとんとした顔で言う。
「なんかさ、夜のバスに乗ってみたかったんだよね。せっかくだしさ!」
「あきれました…。こんな時でも非日常ですか…」
「すまん。でもこういう人間なんだよ…」
「私側も理解が必要なのはわかりますけどね」
ナダラは少し譲歩してくれるような何かを感じた。とにかく縁切られなくてよかった。
僕とナダラはベンチの両端にお互いに座った。
「ルールを決めるって言っても、僕にはどんなルールが必要なんですかね」
僕は恐る恐るナダラに尋ねる。
「度を越えた行為はしないでほしい、です。ミチルは非日常狂いなのはわかってますから、多少は目をつむりますけど円滑な関係を結んでいるためには犯罪に抵触しそうなものはやめる、そういうルールにしましょう」
「はい。反省してます」
「ただ私も楽しめるような非日常は積極的に誘ってください…ね?かなり私も楽しめてましたし…」
ナダラは少し照れながら言った。
自分の非日常好きに理解を示してくれたのがとてもうれしかった。その一言で救われるものがたくさんあった。
「わかった。非日常に付き合ってくれる変わり者はなかなかいなくてさ、めちゃくちゃうれしいよ。ありがとう」
「いえ…」
もうそこにピリピリとしたした空気はなかった。何とか仲直りできたみたいだ。一安心ではあるか。
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