非日常が足りない

「♪~」


スマホから鳴り響く7時半のアラームの音。僕は画面も見ずにすぐにアラームを止めた。


「うーんまだ眠いな…」


近頃、だんだん朝も寒くなり始め、布団から出るのが億劫だ。だが今日は金曜日で学校があるので出ないわけにもいかなかった。


僕はうだうだと布団から出ると、いつものように支度をして学校に向かった。


そして午前の授業を受け終わり、アルムといつものベンチに座って昼飯を食べ始めた。


「ミチル、なんだか今日はずいぶんご機嫌だねぇ。なんかいいことでもあったの?」


「え?ああ、まあちょっと…ね」


図星だった。そんなに顔にでてたか?


普段アルムは適当でマイペースなイメージがあるが、こんな時はかなり鋭かったりする。


「教えろよぉ~」


「まぁなんだ、いつも求めていた非日常的な出来事に昨日遭遇できてさ。今かなり満たされている」


僕はアルムに昨日の出来事を一通り話す。アルムは「うんうん」と小気味よく相槌を打ちながら聞いてくれた。それが心地よくてかなり話し込んでしまった。


「はぇ~、電車の非常停止に他校の女子との遭遇かぁ。ずいぶんと濃い一日だねぇ」


「ああ、こんなに刺激的な出来事、久しぶりに味わったよ」


僕は興奮冷めやらぬ感じで言った。


「ミチルが楽しそうでよかったよ。なんか浮かない顔してたからさ」


「最近鬱憤が溜まっててね。それをようやく晴らせたよ。相談とか乗ってくれてありがとな」


「全然平気だよ~、というかあんまりいいアドバイス出せなかったんだけどね。

へへへ…」


「それでもだいぶ助けにはなったよ」


「そりゃ良かった。じゃあまたなんかあったらいつでも言っておくれよぉ」


アルムはぶんぶんと手を振りながら自分の教室へと戻っていった。僕もそれに軽く手を振り返した後、自分の教室に戻って授業を受けた。


学校を終えると、いつもの電車に乗る。


暇だ。今日は何だか外を見る気分ではなかったので目をつぶって昨日のことを思い返す。


楽しかったな…。次遊べるのはいつだろうか。そういえばナダラと連絡先を交換したのだった。聞いてみるか。


僕はポケットからスマホを取り出し、ナダラにメッセージを送る。


「昨日はありがとー

また遊びたいんだけどいつ空いてる?」


おお。人に遊びの誘い送るの、かなり久しぶりだなと思った。アルムはほぼ毎日学校で会うからメッセージで誘うことそうそうないしな。


そんなことを考えているとすぐに返信が来た。


「次の日曜なら全部空いてますよ!

行けそうですか?」


「いけるよー

集合は14時に駅前とかでいいか?」


「りょうかいでーす」


俺は休日はゆっくり寝たい人間なので集合を遅めにした。こればっかりは仕方ない。


僕はナダラとのメッセージのやり取りを終えた後、いつも通り帰宅した。




■□■□■□■□




日曜日。僕は昼過ぎに目を覚ますと支度をして駅前に向かった。


今日はかなり道を歩く人が多かった。4人くらいで仲良く歩く家族とかをよく見かけた。ほかにも高校生5人で歩いてた集団とか。


そうか、今日は休日だ。普段暗くなってからしか外出しないものだからもの珍しく感じてしまう。


数分ほど歩いて駅前に着くと、ナダラが立っているのが見えた。紺色の髪だからか、僕が知っている人だからかもしれないが、ナダラは群衆の中でひときわ目立っているように感じた。


僕はそんなナダラに声をかける。


「おまたせー」


「あ、ミチル!ちゃんと時間通りに来ましたね」


「え、僕、そういう感じに見えてた?」


「はい。なんだか時間にルーズそうというかなんというか」


「まぁあながち間違いではないかも…」


「やっぱりそうじゃないですか」


そういってまたナダラはころころと笑った。その仕草をみて前会った時のナダラと変わっていないという安心感を覚える。


「じゃあ行きますか!って今日何するんでしたっけ」


「そういや何も決めてなかったな」


「そこのショッピングモールとかどうですか?」


ナダラがわくわくした目で提案する。


「あぁー、そうするか」


ナダラの提案によりショッピングモールに行くことになった。ショッピングモール…。2つ隣の駅の近くにあるが、あまり用がなくて全然行ってなかったな。


そうして僕たちはショッピングモールで映画を見たり、ゲームセンターで遊んだりした。かなり遊んであたりが暗くなってきたころ、ちょっとしたカフェに入って休憩していた。


僕はコーヒー、ナダラはまたフルーツがたくさん入った何かを食べていた。…本当にフルーツが好きなんだな。フルーツ狂い過ぎてなんらかの病気になりそう。


いや、ナダラはかなり細身なのでもっと食べるべきなのかもしれない。食事バランスがかなり悪いけど…。


「病気とかに気をつけろよ…。なんかいきなりぱたりと倒れそうで怖くて…」


「大丈夫です!私は健康なので百五十歳くらいまでいけます!いや生きます!」


「その自信はどこから出てくるのか…」


まあ本人は幸せそうだしいいか。僕も人のこと言えるくらい健康ではないし。


そんなこんなで今日一日たくさん遊んだが、満ち足りない自分がそこにはいた。正直に言えば今日は退屈だった。


非日常。非日常が足りないのだ。こんなことを考えてしまうのはナダラに失礼だとわかっている。けれどいつもいつもこうなのだ。世間一般の休日の過ごし方でも最初の方は全然楽しめた。


だが、だんだん冷めていき、結果的にもっと強い刺激が欲しくなってしまう。人為的に用意された娯楽では満足できないのか…?あの日の緊急停車した電車のような、そういうものでないといけないのか…?


もう自分がなにで満足できるのかわからなくなっていた。いつからこうなってしまったのだろう。


もう限界だ。正直に言おう。


「なぁ、ナダラ」


「なんですか?」


「やっぱり俺、非日常が足りないよ」


「そういえばミチルってちょっと…というかだいぶネジがいっちゃってるんでした」


「僕は至って正常だ。人より少し刺激への探求心が強いだけで…」


「まぁわからなくもないですよ。私もちょっと刺激が欲しいし、この後どっか行って探しますかね」


「ありがとうナダラ」


僕の欲求がかなり歪んでいるのは理解しているつもりだ。そのせいで気味悪がられたりしたことも何度か…いやかなり…結構あった。だからこそナダラが理解をしてくれるのがとてもありがたかった。こんな人、滅多にいないし大事にしないとな。


その後、僕たちはカフェを出ると非日常を探して街を歩き始めた。


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