第3話 まずカケラについて語ろう
リンゼル・レイヴンハートは、男でも女でも使える名前だ。
いわゆる
そのせいか、今の名前で呼ばれることにあまり違和感を覚えることがない。ゲーム内での友人は俺のことを“リン”と呼ぶし、俺が生まれ変わる前の名前は
鏡の前で、自分の顔を見つめること3秒。ああ、可愛いなと思わず頬が緩む。
自分の顔を見てにやけるなんてただの変態なのだが、俺はリンのキャラクターデザインがとにかく好みだった。
ゲームプレイ中は、あの制服の下の身体を見てみたいと思ったものだが、こうして手に入れてみると思う。『自分自身を見たって一切欲情しない』と。
そりゃそうだ。自分の身体に欲情するヤツなんて、それこそホンモノじゃねーか。
「男の方の俺の身体、戻ってきてくれ~」
鏡に映った、少し憂いを帯びた表情をしている女のリンゼルもゾクっとするほど可愛いのだが、やはり俺は男として
同性の俺だってちょっと惚れちゃう顔面とボディに早くなりたい! それでもって、女キャラを口説き落としまくりたい!
あれだけ周回プレイをしたんだから、選択肢を間違えるなんて俺の辞書にはないからな。
「攻略が簡単すぎるぞ、この
思わず声に出してしまい、ここではっと我に返る。
「あー、そう言えば俺、男キャラのプレイは一周しかしてないや」
女性プレイヤーとして百合プレイばかり嗜んでいたばかりに、肝心の男性プレイヤーとして攻略対象と接したことが一度しかない。
正しい選択肢を選べるのか? 俺が男になったら。
急に不安になり、しおしおと力なくうなだれる。
そうするうちに、窓から陽の光が差し込んで来た。流石に素っ裸のままではさわりがあるので、NINJAの衣装をクローゼットに吊るすと、その近くに吊るされていた制服を手に取る。
クローゼットの中にあるケースの中から下着を取り出し、着替えながら初めて手にした“カケラ”のことを考える。
すでに肉体に吸収されてしまったからか、目覚めた時には最後の記憶にある“手のひらの鈍い光”は既に消えていた。
そもそもだ。俺が探している“カケラ”の元となる存在を思い出すのに、少々時間がかかってしまったのには理由がある。
ゲームの運営が性別を間違えて選んでしまったユーザーに対し、途中でプレイヤーの性別を変えられる【
俺はその頃、百合プレイに夢中だったし、最初に配信で詫び石のように送られてきたものをお試しで使ってみたことがあるだけで、ゲーム内でもかなり高価なこのアイテムを購入する気にはなれなかった。
そう、購入しか手立てがないと思っていたが、思い出したのだ。とある秘密の部屋の中に、隠しアイテムとして配置されていたことを。
そして、その隠しアイテムを取るためには――クソ、思い出したくもねえ!
俺は、思い出すだけでもゾッとする一連の出来事に身震いし、それを
汚点とも言えるあの出来事は、心の奥深くに沈めて鍵をかけて一生お目にかかりたくはないのだが……おそらく語らねばならないのだろうな。
着替えを終わらせた俺は、おもむろに冷蔵庫を開けて朝食となりそうな食材を漁って皿に盛り、そのままダイニングテーブル代わりに使っているローテーブルの前に座る。
悲しいかな、現代日本人のクセというのはなかなか抜けないもので、フローリングの床にじゅうたんを敷き、その上に置いただけの小さなテーブルの前に正座という姿だ。
「いただきます」
律義に食べる前に手を合わせ、慣れないこの世界の食事にありつく。
学園では朝食は各々部屋で取ることが多く、昼は学食で夜は仲間と一緒に食べに行くというルーチンがほとんどだ。
俺はいつも、朝食の時間にあれこれ情報整理をしている。そのほかの時間は、授業やイベントの発生などで、ほとんど一人になる事ができない。
クソいまいましいシステムのせいで、イベントが無ければ夜は決まった時間に強制的に寝ちまうし?
時間が決められているというのは結構メンドクサイが、朝は割と思ったより早く目を覚ますことができるので、自由な時間を取れると言うわけだ。
どうでもいいが、超健康的な生活なんだよな。
よくわからない物が挟まった、大して美味くもないサンドイッチにかぶりつきながら今後の対策を練ろうと思ったが、カケラがどこから見つかるかなんて持っている情報で分かるはずもなく……早々に諦める。
「無理無理! そもそも、最初のカケラがあんな気持ち悪ィのから見つかるなんて思ってねーもんな!」
深くため息をつき、オレンジジュースが入ったグラスを一気に飲み干すと、学習机のサイドチェストの中から一冊のノートを取り出して、昨夜の出来事を忘れないうちにメモしておく。
もちろん、レナの身体についてもしっかり書き記しておく。
忘れられない、忘れたくない、忘れはしないぜオマエのボディ!
鼻の下を伸ばしながらレナの
次の“カケラ”を手に入れるためにも、まずは俺の置かれた状況を順を追って解説しようか。
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