第2話 俺に惚れるなよ?
今夜こそ“カケラ”が手に入るかもしれないと、小さな悲鳴を頼りに屋根伝いに走り、跳躍しながら風と一体になる。
跳躍したほうが華があるからな、特に今日は衣装に付属していた赤いマフラーをどうにかしてなびかせたい!
流星のように縦横無尽に走る俺を追従する一筋の赤、なかなか絵になるよな。ヒーローは常に格好良くなくっちゃな。
前世ではコネコ一匹助けるのに身を挺するしかなかったが、今の俺は誰よりも速く強いため恐れるものはない。
「確か、このあたりから聞こえたような……?」
耳をすませて辺りの様子を覗う。
「嫌、こっちに来ないでッ」
この声は、ゲームのメインストーリーに係わってくる女子「レナ・シルヴァンテ」のものだ。
はて? 彼女はものすごく気が強く、大抵のことは男勝りで自ら成し遂げるタイプのはず……その彼女が、助けを乞う?
元々レナは隠しルートで、本来のストーリーとは違う派生ストーリーを段階を踏んで全てクリアすると、ようやく最後の選択肢に出てくるタイプのキャラだ。
そんな彼女が、こんな時間に助けを求めているのは明らかにおかしい。という事はこれは派生ストーリーなのだろう。
レナはストーリーに絡むキャラのため、見た目は極上なのだが……ツンデレが過ぎて攻略するのが少々面倒くさい。低身長のスレンダーボディは少し触れた程度で悲鳴を上げ……俺はここでハッとする。
もしかしたらすごく……感度がいいのか? これは早く確かめておかねば。
ごくりと生唾を飲み、鼻の下を伸ばしながら窓から中を覗くと、シャワーでも浴びていたのかタオル一枚で身体を隠しながら、壁に張り付いている彼女が見えた。
あんな薄布で隠したつもりなのか、よし俺が抱いてやるから待って……
…………。
前言撤回ィィィィィ!
血液が集まり始めた股間の滾りは一瞬で霧散した。怪物がレナの前に居る。言葉に出すのも悍ましい、八本足のアイツのボディは象ほどの大きさがある。
どこから入ったんだよぉ、アレさぁ~? 転移でもしなきゃ部屋に入れねーじゃねえか。
悲鳴を上げたいのは俺の方だよ。さっきまでテンション上がってヒャッホー言ってたけど、スマン!
何度でも言おう、あれは無理だ。
もう悲鳴さえ上げられなくなったレナの犠牲は忘れないと誓い、その場を去ろうとしたところで気付いてしまった。アイツの後頭部に刺さっているのは“カケラ”じゃないのか?
嫌々もう一度窓から部屋を覗き込むと、巨大な名前を言いたくもないアレが吐き出す乳白色の糸に全身を覆われたレナが、意識を失いそうになっているところだった。
野郎、なんてことをしてくれたんだ。せっかくのレナの裸が堪能できないじゃないか!
よく見ようと目を凝らすと、やはりあれは“カケラ”だと本能で強く感じる。非常に不本意ではあるが、ガチャーン!と窓を派手に割り部屋に侵入する。
普通に登場するよりそっちの方が格好良いし、まだレナの意識があるうちに俺の存在を強く植え付けておけば「あの方にお会いしたい」「恋しちゃったみたい」ってなるだろ? なっちゃうヤツだろ? ならない方がおかしいだろ?
飛び込んだ勢いのまま、帯刀していた日本刀を腰から引き抜くと、一気にヤツの頭と銅をつなぐ節に叩きこむ。良く研がれた刀で斬られた部位は、斬られたヤツが気付く間もなくするりと地に落ちた。
部屋中に体液が飛び散ったが、それは仕方がないと諦めて欲しい。
ピクピク動く毛だらけの足が非常に気色悪い死体に近付き、埋まっていた“カケラ”を思いっきり引き抜くと、次にレナの身体に巻き付いた糸を切ってやる。
ぐったりとしたレナはしばらく潤んだ目で俺を見ていたが、ショックが大きかったのかそのままくたりと力を失い、意識を閉じてしまったようだ。
流石に意識のない女を襲う趣味はないが、身体を隅々までじっくり観察して脳内に焼き付け、部屋でゆっくりお楽しみタイム……と思ったところで、脳に何かが刺さったような衝撃が走る。痛みで目までかすみ出した。
「だめだ、このままこの部屋に居たら……世間的にも俺は死ぬ。早くここから出ないと……」
レナをこのままにしておくのは申し訳ないが、どうせ朝になれば全て元通りになっているはずだ。今までも騒ぎを起こしても翌日にはすっかり直っていた。この事象をゲームの世界の『ご都合』と俺は勝手に呼んでいる。
慌てて転移魔法陣をスクロールで呼び出すと、自室に戻る。握っていたカケラは、いつの間にか俺の身体に吸い込まれ、掌の中で鈍く光を放っていた。
痛む脳内にカケラのカウントが刻まれる。
1/10
残り九個のカケラを探すのに一体どれほど時間がかかるのか……俺が活動できるのは満月の夜だけ。しかも普段はノンプレイ
少なくとも全て集めるのに十カ月は必要ということか。
ズキン!
頭痛が更に酷くなり、考えることを止めろとシステムに言われているかのようだ。意識が混濁する……嫌だ、せめてレナの身体を覚えているうちに自分を慰め……
ハッ!
目が覚めると朝だった。どうやらそのまま倒れていたらしい。
緩くなった
銀髪に力強い黄金の瞳。整った顔立ち、すらりと長い手足と身長にイケボ。そしてたっぷりとした大きな柔らかい胸に引き締まったウエスト。
鏡に映るのはデュアルシステムの……女の方のリンゼル・レイヴンハートだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます