第2話

街には、仮装した人々が溢れかえっていた。どうして渋谷でハロウィンなのだろう。騒がしい街なら、池袋や新宿だってあるのに。そのような思考をかき消す雑踏は、渋谷という都市の特徴を表しているようにも思う。

「うぅ……寒い……」

 恵莉は露出が多い恰好をしているので、夜風に吹かれて寒がっていた。春香の方はというと、アツアツ

のカップルなのでそのようなことを気にしている素振りは無かった。

「仕方ないわね、これでも着てなさい」

 スーツの上着を脱ぎ恵莉に渡す。恵莉は「ありがと……」と何故かしおらしくなり上着を受け取り羽織った。

「あったかーい……ありがと、麻希」

「いいえ」

 上着を手放した私の方が寒くなったが、それを表情に出すと恵莉に心配されるのでいつも通りを取り繕う。

 それにしても、どこもかしこも仮装した人々で溢れている。私の服装はコスプレに見えているのだろうか。この街から浮いている気がしてならない。同じくスーツの修は全くそんなこと気にしてなさそうだが。


「ワクワクするね」

 恵莉がこちらに目線を合わせ言う。確かに、ワクワクしないといえば噓になる。だが、

「どちらかといえば疲れたわね……」

 本音はこれだ。恵莉は愛おしそうに目を細め、

「そお? 私はこの感じ好きだな。非日常って感じで」

 と言ってのけた。確かに、非日常感には惹かれる。私が今ここに残っている理由もそれだ。

「……そうね。非日常な雰囲気は私も好きよ」

「だよね!」

 間髪入れず恵莉は返答した。

「本当はさ、今日新も誘ったの。でも仕事が忙しいって断られちゃって……。でも、麻希と回れてるし、結果オーライ?」

 新というのは、恵莉の恋人だ。そして、私の部下でもある。確かにハロウィンを楽しむタイプではないだろう。一年ほどしか付き合いのない私でもわかる。

「そうね、ポジティブに物事を捉えるのは大切よ」

 私も巻き込まれてしまったことを、そう受け止めることにした。非日常でも、たまにはいいじゃない。

 明日からまた日常に戻るんだから。

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ハロウィンの渋谷で 景文日向 @naru39398

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