第13話 大切な人
あれから3年の歳月が経った。
俺は、3年経った今でもA子に対しての罪悪感や未練を抱えていた。
安易な気持ちでA子と行為をしてしまったこと。
それなのに、俺自身の不甲斐なさが原因で女性として――彼女として大切にできなかったこと。
それが原因で、A子が離れていってしまったこと。
そして何よりも、離れていくA子にどこか"これで良かったんだ"と安心感を覚えてしまったこと。
"もうこんな結末は二度と起こしたくない"とこの3年間でいろいろ考えた結果、俺は今後異性とは誰とも親しくならない方がいいのではないかという結論に至った。
そうしたら、悲しい結末を迎えることは絶対になくなる。
俺みたいに結婚願望もない、誰かと真剣にお付き合いしたいとも思えない、誰かを――好きな人を――"大切な人"を自分の手で幸せにできるともしたいとも思えない――そんな奴は、誰にも関わらず一人で死んでいった方がいいのだ。
だって、真面目なお付き合いを望んでいないのだから、真面目にしようとしてもそれができずに関係は破綻する――そして相手も自分も不幸になる。
"気軽"な気持ちで異性と仲良くなったとしても、その後に必ず訪れる"真面目に考えなくてはならない"未来が、"気軽さ"をいずれ必ず終わらせ、"気軽さ"を担保に続いていた関係は破綻してしまう。
そして何より、"気軽さ"を求めていた精神は関係が破綻し終わってしまったことにすら安堵する。
――そのあまりの愚かさを、俺はもう絶対に二度と繰り返したくない。
己の愚行にこれ以上被害者を――いずれ"大切になってしまう人"を巻き添えにしては絶対にいけないのだ。
だから、ずっとヒトリでいよう――それが、絶対に正しいんだ。
それが、この3年間で行き着いた結論だった。
それからまた月日が経ち、時は現在に至る。
俺は今、再来月にピアノ弾き語りの演奏会に出演することを少し前に決め、日々練習に励んでいた。
そこで俺は、ピアノの伴奏に自身の歌を乗せて出ようと思っている。
歌おうと思っている曲はA子との思い出の曲――aikoの『大切な人』だ。
「あなたを想うと~ 苦しくなるよ~」
「わたしだけがずっと 立ち止まったままのような 気がして~」
「どこに行こうと 忘れられない~」
「たった一人の 大切な人~」
俺は、このフレーズを歌おうとすると必ず泣いてしまった。
狭い布団の上でクイズを出し合ったことを思い出して、どうしようもなく切なくなるんだ。
でも、この歌を歌う度、俺の中に確かにA子は存在した。
そのA子は、俺の手で傷つけない距離で大切に愛することができる。
俺は、そうやってこれからもずっと、A子のことを大切にしながら一緒に生きていこうと、そう思うのだった。
~続く~(?)
大切な人 こばおじ @k0ba0jisan
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