第8話 大切な人
ある日の出来事だった。
俺とA子は、一つのベッドに一緒に横になってだらだらとしていた。
そこで俺は、A子がaiko好きってことは初めてカラオケに一緒に行った時に知っていたので、A子に「aikoの曲でイントロクイズしようよ」と提案した。
「いいよ」とA子は返事をすると、「じゃあ1問目ね」ととある曲を歌い出した。
「あなたを想うと~ 苦しくなるよ~」
「わたしだけがずっと 立ち止まったままのような 気がして~」
「どこに行こうと 忘れられない~」
「たった一人の 大切な人~」
「はい、なんでしょうか?」
A子は歌い終わると、そう訊いてきた。
「・・・んー、ごめん。わかんないかも」
俺は少しの間考えてみたけれど、ぱっと曲名が浮かんではこなかった為、そう返事をした。
「ヒントちょうだい」
俺は、なんとなく聴いたことはあった為、A子にヒントを求めた。
「え~、ヒント~? しょうがないなあ。ヒントはね、私が歌った歌詞にその曲名があったよ」
俺は、「どういうこと?」とA子の言った意図を理解するのに少し時間がかかったが、「あっそういうことか」とA子が歌った歌詞を思い出して、これだという答えを導き出した。
「――ってことは"大切な人"?」
「ピンポーン! 正解っ」
「けっこう簡単だったな」
「どの口が言ってんの~。全然わかってなかったくせに~」
「じゃあ次、俺ね――」
それから俺からもクイズを出し、お互いに2~3曲程ベッドの上でくっつきながらイントロクイズを出したりして遊んだ。
『大切な人』というaikoの曲は、それまでの俺にとってさほど印象にも残ってない曲だったが、この日を境に大きく変わった曲となった。
初日こそ大胆なことをしでかしてしまったけれど、A子とは趣味も波長も合っていたし一緒にいて安らげて落ち着ける関係だった。
それは俺自身もはっきりと自覚していて、俺の中でも次第にA子のことはaikoの曲の通り"大切な人"になっていった。
毎日連絡を取り合っていたし、毎週一緒に出掛けたりしていたし、1ヶ月先のaikoのライブも一緒に行こうと約束をしたりもした。
ほんとうに当時の俺は何処へ行くのにもA子と一緒だった。
――しかし、A子とはあの土砂降りの雨が降った日以降、一度もセックスすることも手を繋ぐことも俺はしなかった。
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