第4話 家

「おじゃまします」

俺の家に着いた彼女は、少し緊張しているからか余所余所しくそう言いながら玄関を跨いだ。

「ごめん、ちょっと部屋散らかってるから少しの間だけそこで待ってて」

俺はそう言いながら先に部屋に入り、飲み終わったビールの空き缶や飲料水のペットボトルなどをゴミ袋に入れて、部屋の隅に移動させた。

「ごめん、お待たせ。もう入っていいよ」

数分で片付け終えた俺は、そう言いながらA子を部屋に招き入れた。

「ここがこばさんの部屋か。けっこう綺麗にしてるんだね」

A子は、部屋に入って早々に俺の部屋中を見回し、品定めを始めた。

「さっきまでゴミが散乱してたけどね・・・」

俺はこういう時に嘘をつけないタイプの人間だった。

「――だとしても、だよ」

「ありがとう」

その時のA子との会話はどこか浮ついたような感じだった。


”「――じゃあ、俺んち、来る?」"

土砂降りの雨の中行き場をなくした俺は、A子にいつの間にかそう提案していた。

どうしてそんな大胆な行動に出てしまったのか?――おそらくいろんな要素が絡み合ってそうなってしまったのだと思う。

ただ、一つだけ認めざるをえないのは、俺自身が女性に飢えていたことが挙げられる。

当時の俺は、彼女という存在はもう随分おらず、マッチングアプリを始めたそもそもの理由も気軽に異性と交流したかったのと、あわよくばそこでセックスができればという考えがあったからだった。

その日初めて会ったA子であったが、A子とはその前からも電話やラインなどで頻繁にやり取りするほど親しい関係だったからこそ、つい"ワンチャン"と可能性を感じて、自分の家に来ないかと提案してしまった。

そのような浮ついた気持ちと、まさかほんとうに家に来てくれるとはという驚き、予想外、非現実さだと思う気持ちがA子との会話に見え隠れしていた。


「ゲームでもしよっか」

異性が俺の部屋にいるという緊張から居ても立っても居られなくなり、俺は空気を変えようとそう提案した。

「いいよ。何する?」

「じゃあホラゲーやろう」

「おっけー」

俺は、A子の返事を聞くと、パソコンの電源をつけ、持っていたホラゲーの中から比較的初見でも操作が簡単なゲームを選んだ。

「これ、知ってる?」

知らないだろうとわかっていながらも俺はA子にそう訊いた。

「知らない。どんなゲーム」

「人形が主人公を殺しにくるんだけど、殺されないように人形を監視したり阻止したりするゲーム」

「ふーん」

A子はそう言いながら立ち上がり、すでにゲーミングチェアに座っている俺の膝の上に座ってきた。

この部屋には一人分しか椅子がなかったからだろう。

「やってみる」

A子はそう言いながら俺からマウスを奪い、ゲームを始める。

このホラゲーはいわゆるジャンプスケア系のびっくりさせて驚かすホラーの類だったが、A子は肝が据わっているのか嫌な表情見せずに連続でゲームをプレイした。

「怖くないの?」

「まあまあかな」

何回かゲームオーバーになりながらも次々とステージを進めていくA子だったが、難易度が高いと言われているステージで数回すぐにゲームオーバーを繰り返すと「もう飽きた」と放り投げた。

「初回でここまでやれたのならすごいよ」

俺は素直にA子を褒めた。

「違うことしようよ~」

A子はそう言いながら子どものように俺の膝の上で脚をバタつかせた。

「じゃあこれは?」

俺は、A子からマウスを奪うと先程とは違うゲームを起動させた。

「なぁにこれ」

「知らない? 壺男」

次のゲームは『壺男』と一時期話題になったゲームで、壺に入った男を操作してひらすら上へ上へと登るゲームだ。

「知らない。やってみる」

さっきと同様に俺からマウスを奪い返すと、再び集中してゲームに取り組み始めた。

「イライラするな、これ」

思い通りに動いてくれない壺男に次第にイライラを隠せなくなってきた彼女。

「そういうゲームだからね」

と言いながら、俺はイライラするA子をにやにやしながら眺めた。

「コツ掴んできたかも」

そう言いながら、マウスを大きく動かしたり小さく動かしたりし、壺男を操作する。

そして、俺が到達していた場所と同じところまでそう時間もかからないで辿り着いてしまった。

「やるじゃん」

再び俺はA子を素直に褒めた。

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