第5話 キス

家に移動する前にコンビニで買っていたお酒は底をつき、俺もA子もほろ酔い程度にはアルコールが回っていた。

だからなのか、どっちが先だったのは覚えていないが俺とA子はいつの間にかお互いにベッドに腰掛けていて、恋人繋ぎをしながらお互い肩を合わせていた。

手を先に繋ごうとしたのは俺で、A子の手に触れた時、「汗でベトベトしてて恥ずかしい」とA子は抵抗を示したが、俺は「大丈夫だよ」と無理やり繋いだ。


「すごくドキドキしてる・・・。ねえ、心臓の音、聞こえてない?」

「手汗もやばい・・・。ごめん・・・」


A子は、先程ホラゲーをしていた時の飄々とした態度とは打って変わってしおらしい女の子女の子した表情を見せた。


「――ねえ、キスしても、いい?」


その様子が可愛いなと思った俺は、酔いが回りブレーキを失ったことで無意識にキスを求めていた。


「――えっ、でも・・・」


少し戸惑いを浮かべるA子に「嫌だったらやめるよ?」と俺は確認をする。


「――いやってわけじゃないけど」


「けど?」



「――いなくならないでね?」



「大丈夫」と俺はA子を安心させようと囁き、そしてキスをした。

数秒間一つになっていた口がゆっくりと離れた後、吐息に混じりながらA子の口から「こんなつもりじゃ、なかったのにな」という声が聞こえたような気がした。

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