第3話 初デート

「細田守の新しい映画、気になる」

「なんだっけ? バケモノの子?」

「それは前のやつ。これからやるのは『竜とそばかすの姫』とかいうやつ」

「あっ! CMときどき観る。面白そうだよね」

「じゃあ一緒に観に行こうよ。いつなら予定空いてる?」

俺はそんな流れでA子との初デート(というよりは出かけるだけくらいの認識だったが)の予定を立てた。

俺は、この時点ではA子のことを好意の対象で見ていたわけではなく、ただの仲の良い異性の友達ぐらいの感覚を持っていた。

だから、あまり異性であることを意識せず、あくまで自然に友達と遊ぶ予定を立てるようにA子を誘った。


約束の日当日。

俺はそこで初めてA子とリアルで対面したが、茶髪だと思っていた髪は黒髪ロングストレートになっていて、黒や白などのゴシックカラーで統一された服装の彼女は、一見でもファッションにちゃんと気を遣っているヒトなのだということがわかった。

「A子ちゃん?」

俺はA子から教えてもらっていた事前情報を元にたくさんいるヒトの中からA子と思えるヒトに声をかけた。

「そうです! こばさん?」

「そうそう。茶髪だと思ってたから声かけるのにちょっと躊躇しちゃったよ」

「そっか、ラインのプロフィールは茶髪でしたもんね」

そう言ってA子はニコりと微笑んだ。

「服装もキレイ目系で雰囲気が違うね」

俺はついでにとA子の服装についても言及する。

「黒髪にしてから服装も嗜好を変えたんですよ」

たしかにラインのプロフィール時のA子の服装は、よりカジュアルな印象だった。

服装があのままだとたしかに黒髪は重すぎるなと、俺は合点が行った。


それから俺とA子は駅から10分程歩いたところにある映画館に向かい、あらかじめ予約していた両隣の席に二人座って、映画を鑑賞した。

鑑賞し終えた後、近くの飲食店でランチをしながら感想を言い合うなどをして、一緒の時間を過ごした。

「俺はめっちゃ面白かったと思う」

「そんなに?」

「うん。音楽が良かった」

「ストーリーは?」

「細かいとこを気にしなきゃ良かった」

実際、俺はあんまり細かい部分はいちいち気にしないで映画鑑賞することが多かった。

「そうなんだ」

A子はそれに対し、賛同も否定もせずにただただ話を聞いている様子だった。


1時間程だったろうか。

ご飯をゆっくり食べながらA子と談話し、店の外に出た。

「うわ、土砂降り」

店に入る前までは晴れとまでは言わなくとも雨が降りそうな天気ではなかったのに、いつの間にか大雨になっていた。

そして、雨雲に日光が遮られているからか、まだ夕方の時間帯だというのに辺りは夜と言っていいくらいの暗さになっていた。

「どうしよっか・・・」

時間的にもまだ遊ぶ余裕があり、俺は当然そのつもりでいたが、この大雨でいろんなところを出歩くにしても躊躇せざるをえない状況だった。

「近くにカラオケがあったはず」

俺はそう言いながら彼女の前を先導して近くのカラオケ店に向かう――が、他のヒト達も同じ考えだったのか、すでに満室で入ることができなかった。

「ほんとどうしよっか」

この時点での俺は、「じゃあ今日は帰ろうか」という考えは持ち合わせておらず、ただただA子と一緒にいられる時間を少しでも延長させたいと躍起になっていた。

土砂降りの雨、夜になったように暗い空、満室だったカラオケ――

多分、それら全ての要素が絡み合い、俺をある一つの行動に移させたのだと今なら思う。

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