第2話 マッチングアプリ
3年前――
当時マッチングアプリが流行していて、気軽に異性と出会えるというコンセプトにまんまと乗せられ、俺もマッチングアプリたるものを始めた。
きっかけは日常生活において全く異性との出逢いがなかったからだった。
当時勤務していた会社は男女比率9:1以上の男社会で、数人いる女性も自分より10歳以上歳上だけという状況で、だからといって社外で異性と交流のある場に出向いたりすることも俺はしない人間だった。
そんな状況だったからこそ、気軽に異性とコミュニケーションが取れるマッチングアプリは俺にとっても魅力的なツールに映ったのだ。
俺は、マッチングアプリをインストールすると、最初にプロフィールを作成し、顔写真をUPし、準備ができたら今度は同じ趣味や価値観を持つ異性を検索条件を設けて探し、気に入った異性にいいねを押していった。
そのなかの数人の相手からいいねが貰え、相互マッチになり、やり取りが始まった。
そのうちの一人が、俺が3年前に仲良くしていた女性だった。
「いいねありがとう。嬉しいです!」
俺は、まず最初に相手がいいねを送ってくれたことに感謝を示すことが多かった。
その後に自分が相手のどういう部分に好感を持ったのかを簡単に説明し、その共通点があるからとこれからよろしくねと話を繋げた。
3年前仲良くしていた女性(以後、便宜上『A子』と呼ぶ)は、俺よりも5歳歳下で俺がメッセージを送るとすぐに既読がついて返信をくれるような気さくで親しみやすいヒトだった。
マッチングアプリ上で確認できる外見は、背丈が低めで落ち着いた色の茶髪で肩下まで長さのあるロングヘアで、顔こそ隠されててわからなかったけれど、ぱっと見て小さくて可愛らしい女性だと俺は感じた。
共通の趣味はアニメや漫画で最初はその話題で会話を続けていたが、次第に話題がなくてもやり取りが続くようになった。
だからなのか、マッチングアプリでのやり取りからラインでのやり取りに切り替わるのはそう時間がかからなかった。
「A子ちゃん、ライン教えてよ!」
「いいよー!」
A子とライン上で改めて自己紹介と挨拶を交わし、俺はその日の夜のうちにマッチングアプリを退会した。
「ねえ、マッチングアプリやめたの?」
それから何日か経った頃だろうか、もしくは次の日だったろうか、A子からそう質問された。
「やめたよ」
「どうして?」
「そろそろやめようかなってちょうど思ってたとこだったんだ」
「そうだったんだ」
別にA子に誠実さをアピールしたいとかそういう意図ではなかった。
ただ、月額費用もそこそこ掛かることへの抵抗感や、数ヶ月マッチングアプリをして、マッチングアプリを継続すること自体に疲れを感じていたのだ。
でも、退会することで少しでも自分の身に他の女の影がないことを証明できるのなら悪くはないだろうと当時少しは思っていたかもしれない。
マッチングアプリを退会し、A子以外の女性との繋がりが一切なくなった俺は、それから躊躇いなくA子との仲を深めていった。
俺は、それまでの人生でどんなに仲が良いヒトとも電話でのやり取りを一度もしたことがなかったが、A子とは自然に自分から電話をかけられるほど親しい関係になった。
A子も俺のことを信頼していたからか、学生時代のアルバイトの失敗談などを話してくれた。
だから、俺とA子がリアルで会う約束をするのにはそう時間はかからなかった。
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