第13話 アリエルの生還 2
アリエルの帰還は突然だった。
ある日突然、前触れもなく王宮に豪奢な馬車が到着し、現れた異国の貴族は国王に謁見を求めた。
本来なら門前払いをするところだが、あまりにも高貴な装飾の馬車とその貴族の高貴な身分を示す衣装や振る舞いから門番は上に報告し、宰相がまず面会して国王に報告し、直ちに謁見が認められたのだった。
コベール国王に謁見を申し込んだ男は、黄金の竜の紋章を提示し、シャルル・ドラゴナと名乗った。
そして、コベール国の令嬢を救助し、これまで保護していたと告げた。
国王は、自国の貴族令嬢がドラゴナ神国で救助された縁がもとで懇意にしていると聞き、なんて幸運に見舞われたのだと喜んだ。
ドラゴナ神国。
海の上に佇む要塞国家で神話の国。
ドラゴナ神国は、その昔、神である竜神と人が結ばれ、その子孫が治めている国と言われている。
不思議な力を持つとか神竜が住むなど色んな噂、伝承は伝わるが実態はあまり知られておらず、各国と直接交流することがほとんどない。
幾つかの国の、領主と個人的に関係を結びそこを外交窓口として交易を行っている。またそんな数少ない外交においても表に出てくるのは大臣や文官であり、王族が他国の前に姿を現すこともあまりない。
人知を超えるような知識や技術と豊富な資源を持つとも言われており、世界でここでしか取れない奇跡の石と呼ばれている貴重な宝石を産出している。
その石は「竜の涙」といわれ、涙型で七色に輝き、身につけたものの願いを叶えると言われており、実際、どこかの国の王子の命が救われたとか、疫病がおさまったなど奇跡が起こったという話に事欠かない。しかしその稀少な石を手にする者も選ばれたものしか手にできないという。
何とかして強引にでも縁を持とうと船で近づこうとしても海流に阻まれる、無理に近づこうとしても海流の流れが変わり押し流されてしまうのだ。
大昔に一度、侵攻を企てた国があったが、武装した船団は壊滅し、それどころか船団を派遣した国が一夜にして滅んだという。
そのためドラゴナ神国は世界から恐れられ、不可侵で孤高の国とも言われている。
ともかく、世界がいろんな思惑から国交を結ぼうとしても結べない国、そんな国の王族自らがコベール国に足を運んでくれた。
国王は熱烈にシャルルを歓迎した。
そして当面、こちらの国に滞在して知見を得たいと言う申し出を、国王は喜んで承知した。
おまけに、お近づきのしるしにと、シャルルが秘宝の竜の涙を国王に献上すると、涙を流さんばかりに喜んだ国王は、アリエルと暮らすことも、屋敷を構えることも許可し、どのような支援でもすると約束したのだった。
シャルルがドラゴナ神国の王族だと知っているのは王家とその側近や近しい者のみ。シャルルと懇意にしているアリエルが悪意や野望を持つ者に利用されないためと伏せられていた。
それを知る立場の者は、外交が難しいドラゴナ神国と国交が結べるのではないかと期待に胸を膨らませる。
王族が姿を見せることはなかなかない中、わざわざ身分を明らかにしてアリエルの側に遊学してきたと言明し、一緒に暮らすなどアリエルに並々ならぬ関心があるに違いない。
このチャンスを逃すことは出来ない国王や大臣は神秘の国の王族をそうまでひきつけたアリエルもシャルルと同様に重要人物として目していた。
しかし、それらの事情を知らない者達の中には、奇跡の生還を遂げたアリエルに懐疑の目を向ける者もいた。
がけ下の急流に転落して二ヶ月も行方不明になっていながら無事に戻ってきた奇跡に疑惑の目を向ける。
特に学院内で、盗賊事件自体が自作自演だったのではないか、と言う噂が出始めた。
学院内で立場をなくしていたアリエルが、同情を買い再び社交界の花に返り咲こうと企んだのではないか。そして、二ヶ月も姿を隠している間に知り合った貴族とふしだらな関係になり、命の恩人ということにして一緒に戻ってきたのではないかと。
自宅に戻らず、一緒に暮らしていることがその証拠だと不名誉な噂がまことしやかに囁かれたのだった。
アリエルの事になると強い悪意が感じられる噂が流れだす。誰かが故意にそう仕向けているとしか思えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます