第12話 アリエル生還 1
アリエルの行方が分からなくなり二ヶ月が経過した。
アリエルの生存は絶望視され、捜索も終了された。
また、襲撃者についても何の情報もなく、これに関して調査は続けられるというものの期待は出来なかった。
学院でもアリエルの事は、皆の口に上ることがほとんど無くなっていた。
アリエルがいないことが当たり前になった学院では、令息たちは相変わらずサンドラに侍り、サンドラを敵視していた令嬢たちの多くもいつの間にかサンドラの取り巻きになっていた。
アリエルという異分子がいなくなった学院は、一見平和に和やかな空気に包まれ、その中心にいるサンドラは学院で一大勢力を築いていた。
セドリックはそれを遠巻きに眺めていた。
今でもサンドラやその取り巻きがアリエルを失って失意のどん底にいるセドリックを慰めようとお茶会やお出かけを誘ってくるも応じることはなかった。
アリエルのいない人生に何の意味があるのかわからない。そしてこのような事態を引き起こした自分を許せず、遠因になったサンドラや級友にも好意的な感情を向けることが出来るはずもなかった。
セドリックは自責の念に苛まれ、取り返しのつかない後悔を胸にただアリエルへの贖罪の日々を過ごした。
しかし、父の事故死、母の行方不明に引き続き、学院での不当な扱い、そして自分への不信。
散々傷ついていたアリエルに、さらに追い打ちをかけるように盗賊にあうなど神はどこまでアリエルに辛辣なのかと恨まずにはいられなかった。
しかし、神はアリエルに慈悲の手を伸ばしてくれたのだ。
アリエルは奇跡的に生還した。
川に転落し、海のかなたまで流されたアリエルは奇跡的にも島に漂着し、倒れていたところを発見され保護されていたという。
セドリックは、アリエルが無事に戻ってきたとの知らせを父から聞いた。それは彼女の捜索に関わった者への王宮からの事務的な連絡だった。
セドリックは安堵の涙を流したが、婚約者だというのに、直接ワトー家から連絡が来なかったことにはひどくショックを受けた。
セドリックはすぐさまアリエルの屋敷に向かったが、不在だと会わせてもらえなかった。手紙を送っても返信はなく、届いているかどうかさえ不明。
襲撃現場を見ているセドリックは、アリエルがあの崖から落ちて無傷で済むとは思えなかった。
もしかしたらひどい傷を負い、精神的にも苦しんでいるのかもしれない。ずっと側について慰めたかった。
反面、こんなことになったのは自分のせいだと慙愧の念に堪えず、合わせる顔がないのも確かだった。
セドリックが会いたくてもアリエルに全く会えず、アリエルからも手紙一つもらえないことに落ち込み、焦っていると、
「アリエル様がご無事でよかったですわね。心配しておりましたの。もうお会いになられまして?」
関わらないで欲しいと言ったにもかかわらす、こうしてサンドラは取り巻きを引き連れてはセドリックに何かと近づいて来る。
「・・・いえ。」
「やはりあれは本当なのかしら?アリエル様はワトー侯爵家には戻らず、異国の方と暮らされているようですよ。ワトー侯爵でさえ自由に会えないそうですわ。」
「え?!どういうことですか?!」
そんなことは聞いていない。何度もワトー家へ行ったが門前払いをされるだけで、不在であるなんて教えてくれなかった。
「アリエル様を保護されていた貴族の御方がこの国にしばらく滞在されるそうで、その方の希望でアリエル様と別邸で過ごされていると聞いたのですが・・・セドリック様には報告されていると思っていましたの。」
サンドラは申し訳なさそうに言った。
「・・・そう・・・ですか。」
見も知らぬ男と一緒にいると聞いて、胸をえぐられる。婚約者の自分には連絡一つくれないのに。
それまでも二ヶ月一緒にいたというその貴族との関係は・・・考えるだけで恐ろしかった。
それに気をとられていたセドリックは、何故サンドラが自国の貴族たちでさえ知らない情報をいち早く知っていたのか疑問に思うことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます