第10話 琵琶法師かく語りき

 空斎は、峰本からTシャツをもらった。

それは、白地に楷書体で「鎌倉時代」と書いてある、なんだかお土産屋さんに売っていそうなTシャツだった。

 「これを着てコントをしよう」と声高らかに宣言した峰本は、目の薄い皮膚の下にナメクジを飼い始めたかのようなクマができていたし、まだらに生えたヒゲは巻き散らかした黒ゴマのように顎や鼻の下、頬までにもぽつぽつと生えていた。

 いかにも疲れていそうな将軍に心を痛める空斎は、将軍がやっとの想いで打ち出した案に否という権利などないと思っていた。

 琵琶法師として雲地出田うんちでたに追いやられた過去世でこそあったが、これが人生。ならば、もう一度!とどこに行きつくかもわからない道をひたすら進むことにした。

 これまで、空斎はあまり自分の身の上を語りたがらなかったが、衣食住の面倒を見てくれて、まつりごとについて寝食忘れて悩み、献身する将軍には、この地獄にいる理由を白状しようと決意した。

 「空斎めが、この地獄に堕ちた理由わけを聞いてくだサイ」

そうつぶやくと、空斎は琵琶を手に取り語り始めた

 

♬~

それは建保5年のこと

目が弱かった空斎は

琵琶法師としてアチコチソチコチ歌い語ったヨ

そこにウンチデタがやってきて

お客さん全部とられちゃった!

行く先々でウンチデタ

こっちでもウンチデタ

みなウンチデタばっかりいうノ

とうとう逃げた空斎は

崖から落ちて流された

流されても恨み言

渦に吸い込まれてもウンチデタのことばっかり考えて

とうとう地獄に着きましたァ



・・・幼稚園児が笑いそうな歌詞に

疲れ果てた現代人の心の琴線に触れる悲哀を含んだメロディ


もう少し磨けば使えそうだなと確信した峰本は、あくまでも一般化したストーリーコントに用いることにした。あいにく、それ以外は何も残っていない。

仕上がったコントは人生相談あるあるを歴史ギャグに変えてすっきりしようというコンセプトで作られた。

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