第8話 水素も燃えれば水になる

これまでのモノボケや視聴者参加型のお笑いはM-1では通用しない。コントを作らなければならない事態が向こうからやってきた。このチャンスを逃すまいと、峰本はネタ作りのために寝食をおろそかにし始めた。真夜中に突然ムクッと起き上がったかと思いきや、何やら書き留めていたり、カップラーメンにお湯を入れ忘れたことにも気づかず、むしゃむしゃ食べようとしていた。

 空斎は自分に何かできることはないかと懸命に考えたが、鎌倉時代からタイムスリップしてきた空斎が現代でできることなど、ほとんどないのが現実だ。ましてや将軍(峰本)の悩みがまつりごとのことだとすっかり思い込んでいるので、差し出がましいことはしたくなかった。

「されど、このままでは将軍の命が危ない…!」そうポツリつぶやくと、空斎は作曲を始めた。これでも琵琶法師の端くれ。将軍様を笑顔にしたい一心でポロロンと琵琶を鳴らす。教育テレビで身につけた知識を歌に乗せた。


♬~みなはご存じか?水素を燃やすと水ができるッテヨ。水素で水を作れば将軍様はカップラーメンにお湯を入れるのカイ?いやいや、将軍様はまつりごとのことでいそがしい。でも、念のため教えてくだせぇ。水素はどこにウッテイマスカ~


現代の言葉に不慣れな空斎が、不思議な日本語を使ってネタを紡ぎだしている。


その姿を見た峰本は、歌と紙芝居を使ったお笑いを思いついた。

もはやパペット人形を持ちながらでもいい、古今東西の笑いをすべて集結したコントでM-1に出ようと腹をくくったのであった。

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