第6話 二人の漫才

 峰本は空斎に天性のボケセンスを垣間見ていた。

たとえば空斎が眼鏡をかけて視力が調整された時、

「お天道様が空斎めをお許しくださった…!」と大歓喜したこと。

テレビやスマホをみたとき、閻魔大王えんまだいおうの道具と恐れて逃げまどっていたこと。

 そして、何よりも面白いのは、未だに峰本を鎌倉幕府将軍、源実朝だと勘違いしていることである。

 空斎がウンチデタと呼ぶ芸人は、テレビに引っ張りだこのピン芸人で、ギター片手に歌唱スタイルのコントで一躍スターダムへ躍り出た藤原雲海ふじわらうんかいであり、空斎に「この人は藤原さんだよ」と教えると、まだ生きておったのか!と大変驚いていた。どうやら空斎は、藤原さんという人がみんな死んでいると思っているようだ。大変失礼である。ただし、これも使える反応かもしれないと峰本は思った。

 峰本は自分がもともとやっているYouTubeチャンネル用にコントを考えた。安アパートの一室は、将軍と琵琶法師のコントをやるにもちょうどいいように思えた。

 空斎の世間知らずさを見ていたら、二人ともタイムスリップしてきた設定でいくことにした。ボケ続ける琵琶法師と知ったかぶって間違った講釈を垂れる将軍のコントである。

 かねてより温めていた案「視聴者参加型の漫才をしたい」を実現したい峰本は、SNS戦略を立てるべく、空斎が閻魔大王の道具として恐れてやまない文明の利器と向き合う時間が増え、空斎はますます畏敬の念を峰本に抱くのであった。

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