まるで存在かのように

 戦いは一方的だった。


 騎乗した者たちは剣や斧で大男たちを切りつけていく。しかしケロイドで覆われた硬い灰色の皮膚は、刃を通さないようだった。振り下ろされた武器は筋肉の弾力によってはじき返されている。


 騎乗した西の者たちは、はっきりと無力だった。東の者は振り下ろした拳で馬の頭蓋骨を陥没させる。落馬した者は、あるいは頭を潰され、あるいは足を掴まれ地面に叩きつけられていた。骨と地面が衝突するとき、鈍い音がこちらまで聞こえるようだった。


 どれだけの時間が経ったのかわからないが、殺し合いに恐怖を感じるでもなくそこに立ち尽くしていた。不明瞭な雄たけびや悲鳴、血の匂いが意識から遮断されるほど、大男たちの動きに魅かれた。目が離せなかった。


 激しく身をよじりながら拳を振り上げ、体ごと突進していく姿は、生命そのものだった。次々と敵を殺していく姿を見て、戦いの為に洗練されている、という印象は不思議となかった。


 ただ、皮膚の向こうで筋肉が収縮を繰り返しため込んだエネルギーが、体を膨張させ破裂してしまいそうだから、それを相手に叩きつけて解放させているような動きだった。曖昧な輪郭のまま際限なく膨張する架空の身体ではなく、彼らの身体は確固たる境界線であり、確かな存在感を持っていた。そこには確かに腕があり、足があった。


 背中を弓なりに反らし咆哮する大男の喉が西の者の剣によって切り裂かれ、鮮血が噴き出す。大男はその相手の顔面に噛みつき食いちぎった。のたうち回る西の者の背中を踏みつけ背骨を砕いた後、もう一度咆哮するため息を吸おうとしたが、切り裂かれた喉が赤く泡立っただけだった。それでも大男は腕を広げ全身をしならせるように飛び跳ね、そして死んだ。


「美しいだろ」


 ザムザが言った。


「ん?まあ・・・」


「そうだ。彼らは美しい」


「彼ら?」


「僕がそう言ったらおかしいかい?」


「いや、別に」


「彼らの美しさはどこからやって来るんだろう?」


「知らねえよ」


「彼らには身体しかない。言語も、神話も、名前すらない。なにかを解釈するための道具が極端に少ない。だから『どのようにある』という発想がない。とにかく『ある』。そこに理由を求めるような小賢しさは彼らの世界にはない。形而上の世界に逃げ込めないその代わりに、皮膚を傷つけ身体の確かさを確認するんだ。彼らはひたすら身体がそこにあることを喜び耽溺し、あることを祝い続ける。そういう集団だからこそ、身体が失われたことへの憎しみはとてつもなく激しい。そして・・・おっと。あれ見て」


 

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