御覧なさい。素敵でしょ。
手のひらに並べられた指がランプの光に照らされた。灰色の指は土と血で汚れていて、断面から骨が少し飛び出している。俺を取り囲む者たちが事態を了解するまでにやや間があったが、すぐにざわめきが広がり、やがてその指は馬上の女に見せられた。
「これは指か!?・・・東の者の指のようだが、切り取ったのか?答えろ」
女は馬上から剣を向けてきた。
「え?指?なんのこと?」
「ふざけているのか?お前の、服から、今、指が、出てきたよな?」
切っ先が額に触れる。切っ先は女の言葉に合わせてかすかに上下し、そのせいで皮膚が切り裂かれるのではないかと不安になる。というか、切れて血が流れている感触がすでにある。
生温かい血が眉間の辺りを通って唇まで流れてきた。なぜ切っ先が額に触れているのだろう、と考える。切っ先というのは柔らかい喉に突き付けるからこそ脅威なのであって、硬い頭骨を突っつくことにどれほどの意味があるのかわからない。女に額を貫通させる腕力があるようには見えない。これでは威嚇として機能しないのではないだろうか。
威嚇にもならないのであれば。この流れる血にどのような意味があるというのか。俺と女を血を流す側と流させる側に対置することで、自らの権力を周囲に見せつけているのだろうか。パフォーマンスの一環で流血させられるのは不愉快だった。
俺は女の目を見据えた。
「あ、ちょっと痛いかもです」
「首を刎ねられたいのか?次はないぞ。どうしてお前の服から東の者の指が出てきたのだ?」
「そこら辺の死体から切り取りました。そしてそれをポッケに詰め込んだわけです」
「正気とは思えんな・・・そんなことをしてなんの意味がある。死者を冒涜してカミが恐ろしくないのか?この野蛮人を捕らえて牢に入れろ!」
「いやいやいや、そっちこそえぐいの着てますやん!皮剥いでますやん!ほいで、意味て!『なんの意味があるのぅ』ちゃうねん!無駄におでこ切ってきたのはおたくですやん!痛っ、乱暴しないでっ」
女の命令により俺は引きずり倒され数人がかりで地面に押さえつけられた。膝が背中に押し当てられ、そこに体重がかかり息が止まる。後ろ手に縛られ、首に縄をかけられた。膝の辺りに縄が巻かれ始めた。
「ひゃだっ、なにこの縄っ、引きずったりしないでよね?つうかおい!ザムザ!ハル!なにしてんのっ、こっち向けアホっ、助けろっ、さっき仲間つってたよなっ」
縄を巻く手が止まった。俺を押さえつけている者たちはザムザの反応をうかがっているようだった。
ザムザはこちらに背を向けて立っている。俺の声が聞こえていないかのように、微動だにしない。ハルは手を耳に当て、ザムザと同じ方角を向いている。
「この音が聞こえる?」
ザムザが女の方を向いて言った。
「音?」
「耳を澄ましてごらん。だんだん近づいてくる敵の足音だ」
「まずい!陣形を組め!」
遠くの闇の中から数十人の大男たちが姿を現した。咆哮し唾液をまき散らしながら獣のような速度でこちらに迫って来る。馬上から次々と矢が放たれたが、灰色の皮膚に弾かれ、あるいは空中で嚙み砕かれてしまった。
かなり距離があったように見えたが、もう大男の集団は数十メートルのところまで来ている。
「突撃!」
女の号令とともに騎馬隊が大男たちに向かって駆けていく。そして両陣営は衝突した。
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