第3話
sideエルナ
ビビビビックリしたー!!
廊下を早歩きで歩く私の心臓はいつもの五倍は早く動いていた。
だがそれも仕方ないだろう。
今朝の挨拶を終え、暫く裏で泣いてから教室に戻ろうとすると突然声をかけられたのだ。
正直、久しぶりに新人の魔法少女に話しかけられて嬉しかった。
だけどそれ以上に私はやってしまったのだ。
「何が頑張ってねだ!!」
何様だ私は!!
情けなさのあまりに壁を叩きつける。
「エルナ様、きっとこの前の事件を悔やんでらっしゅるのね」
周囲から変なものを見るような目で見られる。
あぁ、私という人間はどうしてこんなにダメなのだろうか。
枯れた目から涙は出ず、仕方なく私は教室へと戻ったのだった。
◇◆◇◆
sideエナ
教室に入る。
舐められないように私は胸を張って前に出た。
結果
「あへぇ」
足を滑らせた。
「だ、大丈夫恵那ちゃん!!」
「平気平気、魔法少女って便利だね」
「だからって何もない場所で転ぶのはどうかと思うよー」
「でも見て周りを。完全に私に一目置いてる様子だよ」
「多分悪い方向な気がするけどー、まぁ恵那ちゃんがそれでいいなら」
スッと立ち上がり、今度こそ堂々と席に着く。
周りからは「こいつ、できる!!」という目線が送られている。
やれやれ、できる女は辛いぜ。
「おーい魔法少女エナ、遅刻したくせになに席に座ってんだ。ちょっと前に来い」
「あ、はい、すいみません」
説教を受けた私と何故か「頼んだぞ」と何かをお願いされた透ちゃんは今度こそ席に着く。
そして先生が真面目な顔になる。
「さて、諸君らはこれより本格的に魔法少女として活動していく。この意味が示すのは命を失う覚悟があるということだ」
全員が息を飲んだ。
「いいことを教えてやろう。去年私はこのクラスと同じように30人のクラスを担当した。そして今年、私のクラスメイトの数は」
半分を切っていた。
「まぁ別に死んだわけじゃない。今も病院で元気にしてる阿呆もいるさ。だが2割は死んだな。はっは、数字にすると気持ち悪ぃなぁ」
教室に大きな音が響く。
黒板には大きな穴が開いていた。
「血反吐吐いて、化け物と殺し合って、そして恐怖の中で死ぬ。それが嫌なら今すぐここからは出て行った方がいい。私は止めはせんよ」
先生のその言葉を聞き、いく人かが席を立った。
教室を去っていく彼女達に侮蔑の視線を送るものは一人もいなかった。
残っている者の中にもその顔には涙と恐怖が張り付いている。
「ふーん、どうやら今回は活きのいい自殺志願者が多いようだ」
自殺志願者か。
正にその通りだろう。
だけど、正しいことが一番じゃない。
私が目指すのは正しさではないのだ。
「先生、訂正して下さい」
「なんだ、初日遅刻少女」
「私はここに死ににきたんじゃありません」
私は
「奴らを滅ぼしにきたんです」
あの日ママを失いかけた苦しみ。
そんな中で守られるだけの何もできない無力な私。
3年前の惨劇を私が忘れることは決してない。
そして、奴らへの憎悪もまた決して消えることはないのだ。
「……」
私の言葉に先生は数秒黙り込んだ後
「ぷ」
「え?」
「あはははははははは!!」
突然笑い出した。
獣と戦いすぎてどこかおかしくなったのだろうか?
「あーいや、すまんすまん。少し懐かしくてな」
「懐かしい?」
「だってお前、あの時のアイツと同じこと言うもんだからな」
アイツ?
誰だという私の疑問に、先生は紛らわすように笑みを閉じる。
「少し脅かせ過ぎたな。そうだ、私達もまたお前達をただの自殺志願者にするつもりはない」
壊れた黒板が徐々に直っていく。
周囲から風が吹き、皆の体が一斉に浮かび上がる。
「学べ!!ここには奴らを殺す全てがある!!そして卒業を果たす時、私はお前達を自殺志願者ではなくこう呼ぶだろう」
その光景を普通の人はこう呼ぶのだろう。
「魔法少女と」
◇◆◇◆
sideエルナ
え、迷った。
嘘、本当に言ってる?
た、確かに去年中等部を卒業して高校生になったから少し容量が違うのは分かるけど……え?
3年過ごした学舎で迷ったの……私?
「私は……無力だ……」
絶望して膝が折れた。
かつてビルよりも巨大な獣と戦った時よりも深い傷が私に残る。
きっと教室では今頃私の悪口で盛り上がってる最中であろう。
『え、なんか一人いなくな〜い?』
『そういえば陰キャいないじゃん』
『もしかして迷ったとか?だっさ〜』
「うっ」
胸が苦しい。
かつて獣によって腹に風穴を開けられた時の数倍の痛みが心を抉る。
そうか、私はここで死ぬんだ。
潔く死のうと決意を固めていると、廊下の向こうから誰かが歩いて来る。
きっと私の命を奪う死神だろう。
安心して、私は潔く死ぬから。
だが、よく見ると廊下の先にいたのは死神ではなく別の存在だった。
「なんだ〜エルナ。堂々としたサボりだな〜」
「……先生」
そこにいたのは約3年、私の担任を勤めていた橘先生だった。
「ま、お前がサボりなんてするはずないか。十中八九今年の魔法少女を見に来たってところだろ?」
「……違いますよ」
「そっか」
先生がこれ以上は聞かないでおいてやるみたいな態度になっているが、本当に違う。
私は自分の教室が分からず迷っている弱者なのだ。
だから先生、その私は分かってるぜみたいな態度はやめて下さい。
そんな私の心の声など聞こえない先生は、優しく私の肩に手を置く。
「安心しろ。今年のは豊作だ」
「……」
「だからといって油断はできないってか?相変わらず真面目だな」
「……」
「分かってる。今年こそは誰一人として死なせんよ」
「それは……先生だけの仕事ではありません」
「はは、凄いな。私ですらお前の言葉にはどこか安心感を覚えるよ」
そう言って先生はゆっくりと手を離す。
「じゃ、お前も気をつけろよ。確かに獣との戦いも大事だが、勉強しねーといじめらっぞー」
そう言って橘先生は豪快に笑いながら去って行こうとする。
「あ、あの」
「お、そういえば」
先生はクルッと首を曲げる。
「私のクラスに、お前と全く同じことを言った奴がいたぜ」
「私と?」
「ああ。もしかしたらお前に並ぶ魔法少女になるかもな」
今度こそとばかりに先生は廊下を歩いて行った。
その後ろ姿を私は黙って見送った。
そして、心の中でこう叫んだのだった。
「道!!聞きそびれた!!」
魔法少女はクール系?いいえただのコミュ障です @NEET0Tk
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