第2話

 sideエルナ


 私は弱い。


 どれだけ弱いかと言えば、まず買い物にいけない。


 コンビニ店員と相対するだけで泡を吹いてしまうからだ。


 もちろん電話も出来ない。


 番号を打つだけで手が震えて全て0を打ってしまうからだ。


 唯一の長所と言えば何やら私の力は凄まじく、魔法少女としてそれなりに活躍していることだ。


 あ、もちろん世間の評価なんて見てないよ?


 だって誹謗中傷されてたら余裕で死ねるし、というか私が好かれるはずがないし。


 一応感謝されることは結構あるけど、多分助けられた人達は私以外の人が良かったんだろうなぁ。


 だってみんな私が助けると泡吹き出すもん。


 泡を吹かない人は手を合わせながら何かをぶつぶつ唱え始めるしでなんだか怖いし。


 とにかく私は決して社会に馴染めない、弱々しい生き物なのである。


 そんな私でも外に出ないといけない時がある。


 そう、学校である。


 この島国ジャポンに生まれた存在は、皆監獄へと強制送還される運命なのである。


 しかも、しかもだ。


 そんな地獄みたいな場所で、私は更なる苦行を味わうこととなる。


「それでは新入生への言葉を魔法少女代表、エルナさんお願いします」


 私は吐きそうな体を抑え、何故こうなってしまったかを思い出す。


 ◇◆◇◆


『代表挨拶ぅ〜?』

『はい、この中の誰が適任かという話しをしろ、だそうですが』


 皆の視線が一人へと降り注ぐ。


『まぁそりゃエルナだよね』

『え?』

『そりゃそうだな』

『皆さんそういうと思ったので無駄な時間だと言っておいたのですが』

『……え?』


 という感じで強制的に決まっていた。


 断ることが出来ない私をいいことに、みんなが嬉しそうに私を推薦する地獄。


 これを虐めと言わずなんと言うのだろうか。


 だけど当然私に「虐めだー」なんて言える気力もなく、遂にこの日が訪れてしまった。


 ちなみに話す内容は一ヶ月前から用意し、最終的に3徹して作り上げた力作。


 これならばきっと褒められるは言い過ぎずとも、後輩に虐められることがないはず。


 よし!!


 大丈夫!!


 今日の私はいつもと違うんだから


「………………あ」


 ヤッベ、台詞飛んじゃった。


 あー無理ー


 みんながすっごい注目してる。


 どうしよう、もう自殺するしかないのかな?


 自決用の魔法を唱えようとした次の瞬間


「嘘……」


 みんなが一斉に私の上を向く。


 急にどうしたんだろと思い、私も上を見上げると


「……」


 丁度私の真上。


 空間にヒビが入り、世界が揺れ始める。


 ゆっくりと顔を出した獣は、その巨大な目玉を覗かせる。


「異界レベル……5……」


 新入生の誰かが口を開いた。


 異界レベル、それは獣の強さを測る指標。


 1〜10までの範囲で表され、一番下は魔法少女成り立てでも倒せるが、10にもなると国全体で対処しなければ国滅びるとまで言われている。


 そして、今出た異界の獣のレベルは5。


 それがどれくらいかといえば


「街一つが壊滅するレベル」


 のはずなんだけど


「もしかして……」

「えーまっさかー」

「でももしかしたらもしかして」


 何故だか新入生が一斉にザワザワと喋り出す。


 それが恐怖によるものだとか、警戒の為ならまだしもどこか楽しそうな雰囲気すら出している。


 いや……確かに学校内でなら間違いなく安全だろうけど……気抜きすぎじゃない?


 異界の獣は怖いものってちゃんと認識してるのかな?


 仕方ない、ここは説教だけして帰ることにしよう。


 いくら私がコミュ障と言っても人の命が関わるならそうはいかない。


「私からは……一つだけ」


 パチンと指を鳴らすと、獣も人も動きを止める。


「獣相手に……気は抜かない」


 そして獣の体を貫き、赤い氷の華が咲く。


「以上」


 そして場には静けさだけが響く。


「グスン」


 私はちょっとだけ泣いた。


 ◇◆◇◆


 sideエナ


 私の名前は恵那。


 かつてとある魔法少女に命を救われ、いつかあの人に並び立つ魔法少女になると決心した新人である!!


 そう、いつか


「いつか……辿り着けるかなぁ」

「あはは、今朝のあれ凄かったねー」


 私は入学式で隣の席だった透ちゃんと共に歩く。


 今朝のこと、それはもちろんあの最強の魔法少女エルナさんの力を目の前で見たことにある。


 指を鳴らした。


 たったそれだけで魔法少女達が命がけで戦う異界レベル5を瞬殺した。


 しかもそれだけじゃない。


 その所作、魔法、言葉遣い。


 それら全てがどうしようもなく美しく、それでいて涼しげであった。


 その余裕の表れが、いつだって私達にエルナさんならどうにかしてくれるという安心を覚える。


「あんな風になりたいなぁ」

「だねー」


 エルナさんは全ての魔法少女の憧れと言っても過言じゃない。


 その強さはもちろんのこと、綺麗で、クールで、それでいて飾った様子もない。


 その超然とした仕草が、エルナさんならなんとかしてくれるという安心感を人々に与えてくれる。


 正に魔法少女が目指すべき頂きに立つからこそ、人々は彼女を最強と呼ぶのだろう。


 そして私はそんな人に追い付きたい。


 いつか横に立って、あなたに救われたと伝えたい。


 その為にも、この魔法少女育成学校を生き抜いてみせる!!


「頑張ろう、透ちゃん」

「おー」


 と、元気よく歩き出したのも束の間


「……どうしよう」

「どうしよっかー」


 私達は道に迷ってしまった。


 うん、でも仕方ないんだよ。


 だってこの学校広すぎる。


 同じような廊下、同じような部屋だらけのこの場所で地図もなしに目的地に辿り着けという方が無茶である。


 まずい、先生の後ろをついて行かずに喋ってたのが災いしてしまった。


「うわぁあああああああん!!どうしよう透ちゃん!!このまま私達ここから出られないのかな!!」

「それはないと思うよー」

「でもでも、ホームルームには間に合わないよね?」

「だねー」


 どうしよう!!


 そ、そうだ!!


「つ、次に会った人に場所聞いてみよ」


 すると丁度よく、曲がり角から足音が聞こえる。


 怖い先生とかじゃなきゃいいけど、背に腹は変えられぬ!!


 ええい!!


 行っちゃえ!!


「あの、すみません」

「!!!!」


 私が声をかけると、その人物は大きく目を見開いた。


 そして同じように私も目を見開くどころか


「どっひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 勢い余って3回転くらい後ろに転がってしまう。


 だけどそれも仕方ないと思う。


 というかむしろ窓ガラスから飛び出さなかったことを褒めて欲しい。


 何故なら私が声をかけた人物は他でもない


「エ、エルナさん!!」


 まず最初に私の頭をよぎった言葉は


「顔ちっさ!!」

「恵那ちゃん……」


 どうしよう、興奮しすぎておかしくなっちゃう。


 な、何を喋ればいいんだろ。


 尊敬してます?


 助けてくれてありがとうございました?


 えっと、えっと、えっと


「が、頑張ります」


 何言ってんの私ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!


 絶対変な人って思われる。


 た、助けて透ちゃん。


 なんで笑ってるの助けてよ〜。


「す、すみません。今のはその〜」

「……うん」


 エルナさんは小さく笑い


「頑張ってね」


 そう言ってどこかに行ってしまった。


「恵那ちゃん、大丈夫?」


 駆け寄った透ちゃんを見て、私は改めて思うのだった。


「一緒に小顔トレーニング頑張ろう」

「恵那ちゃんは将来ビックな魔法少女になるねー」

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