第50話 捕虜

「まったく……こんな夜中に呼び出しやがって……今度は一体何事だ?」

 睡眠中だったのを起こされたせいか、新王は不機嫌ながらもちょっとぼーっとしながらそう言った。


「先ほど複数名の賊が城内に侵入し、陛下の親衛隊二名が殺害されました」

 ナスキンポス将軍がそう報告したら、さすがに新王もはっきり目が覚めた。


「なんだと! それで賊はどうした!」

「申し訳ございません。その者たちはなぜか王城内の隠し通路に精通していたようで、二人を除いて逃亡中ですが、今我が軍が必死に捜索中です」


「ふんっ。どうせアスカの手の者だろう。それで世の寝首でも掻きに来たのか?」

「いえ、それが……どうも例のゲート室を目指していた様でして……捕らえた二名は、人間のメスとその子供と思われる幼児です。今、尋問中ですが、明日にはもう少し詳しくご報告が出来るかと存じます」


「はあっ? 人間のメスと幼児? そんなのに我が親衛隊はやられたのか? 

 それにしてもゲートとは……ああ、そう言えば将軍。お前、あのゲートの関係者をこっそり始末するって言ってたそうじゃないか。

 どうせ失敗して取り逃がして、その情報が表に漏れたんだろうさ。

 だから自分の世界に帰りたい人間が入ってきた……ははは、こりゃ傑作だ!」


「笑い事ではございません。親衛隊を斬った者たちは近衛の恰好をしていたとの事です。なぜそんな手練れの者たちが人間にくっついてゲートを狙ったのか……。

 もしや陛下があれで亡命されるのを危惧したのではと……」


「ふっ、冗談はよせ。

 仮にではあるが世がアスカに敗れても、亡命など無様ぶざまな事はせんぞ。

 あのゲートを残しているのはてっきり将軍の亡命用だと思っていたんだが」


 新王の言葉に将軍は押し黙ってしまった。


「おもしろい。

 その人間の親子、一度顔を見てみたいぞ。構わないからここへ連れてこい」

「いけません新王様。あの者は人間のくせに、神官が通訳せずとも我らと普通に言葉を交わしており、アスカ姫のスパイかも知れません。

 いきなりここでドカンという事も……」


「ふっ、はははは。女子供に爆弾を仕掛けるなど……もしそうならアスカの名声は地に落ちるだろうさ。いいから連れてこい!」

「ははっ、早速に……」


 ◇◇◇


 手を放してしまった。

 絶対離してはいけない手を放してしまった。

 息が続かず、後はとにかく必死だった。

 

 水に流されながら、手に当たったパイプのようなものに慌ててしがみついて耐えていたら、ほどなく水が引いた。

 背中の花梨がまったく動かず、慌てて背負い紐をほどこうとするが濡れて固くなっており、自分の爪がはがれかけたのも気にせず懸命にほどいたら、なんとかほどけた。


「花梨ちゃん。花梨ちゃん……」

 ゆすってみるが反応がない。呼吸もしていないように思える。

 あわてて両の頬をパンパン叩いてみたら、「ぐぉふっ」と汚水を吐きだし、元気よく泣き出した。


「ああ……よかった……」


 しかし、ホッとする間もなく、向こうから人が駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「花梨ちゃん。お願い。泣かないで……ごめんね……」

 星が懸命に花梨をあやしたが、ほどなく守備兵に囲まれてしまった。


 小さいテーブルと椅子があるだけの薄暗い小部屋に入れられ、花梨は女官に連れていかれてしまった。品の良さそうなエルフの軍人から尋問を受け、こちらの世界の人の事にはあまり触れない様気を付けながら、自分がここへ来るまでの経緯を正直に話した。自分は嘘が下手なのだ。

 変に取り繕っても馬脚を現して追い詰められるのは眼に見えている……。

 

 やがて尋問は休憩となり、しばらくここで待機せよとの事で、薄暗い部屋の中でうつらうつらしていたら、人の声で起こされた。はがれた爪の手当をしてもらい、花梨も返してもらえた。花梨はさすがに泣き疲れたのか、ぐっすり眠っていた。


「来い。新王様が直々に尋問なさるそうだ」

「えっ、新王様?」新王と言えば、あの第一王子を廃して、あっちゃんに横恋慕していた、あのアロン王子様のこと?


 何を問いただされるのだろう。とはいえ私はあっちゃんたちの作戦のことなど何も知らないし……いや、Xデーがいつとかはわかっているか……。

 とにかく、ここで心証を悪くするのは得策ではないだろう。

 自分だけならともかく、花梨も一緒なのだから。


 ◇◇◇


「ほう、この親子か……おい人間。お前の家族はお前達を見捨てて逃げた様だぞ。

 可哀そうに。この子の父親もふがいないやつだな」


 新王の顔を見たのは初めてだが、存外若くてイケメンだ。

 あかりは気後れしないように踏ん張ろうと思った。


「ゆうくんは、そんな人じゃないです……うん。戦略的撤退? とかいうやつです!」

「ははは、難しい言葉を知っているじゃないか……まあいい。お前の調書は見させてもらった。人間界に帰りたかったのは、お前と旦那とその幼児ともう一人の娘か……なんだ、こっちの奴も一人行こうとしてたのか。酔狂な話だ。

 そんな事より、お前がゲートがここにあるのを知ったのは、ゲートの関係者に聞いたからで間違いないんだよな?」

「はい……」

 新王がそれ見ろと言わんばかりのドヤ顔で将軍を見下した。


「それと、それに手を貸したのはアスカで間違いないな」

「……はい。姫様の支援がなければ王城には入れませんでした」

「まったく、なんでアスカはこんな人間達に手を貸しているんだ? というか、やはり王城内にもアスカに組するものがいるのは間違いなしか……まあ、大体見当はついているが……おい人間のメス。名は何という?」

「あかり……です。この子はかりん」

「で、あかり。故郷に帰りたいか? もし今、おまえとかりん二人だけならゲートを使わせてやると言ったらどうする? その後で私はゲートを破壊するので、お前を見捨てた残りの家族は永久に元の世界に戻れんが……どうだ?」


「新王様。いったい何を試されているのですか? 

 私たちは家族全員でないと帰る意味がありません!」

「そうなのか? おまえの旦那はお前を見捨ててここを去ったのだぞ」

「ですから、それはさっきも…………。 

 いえ、でも……もしかしたらその方がゆうくんと灯にとっていいのかも……」


 星の態度に変化が生じたのを新王は見逃さない。

「ほー。その理由を詳しく話せ」


 星は、もとの世界では雄太と娘の灯がつがいの誓いを交わしていた事。ゲートの実験で自分と雄太がこちらの世界に漂着して苦労して生活し、そして愛が生まれ花梨をなした事。自分たちと同じころ灯がこちらに流されていたのに気づかず、ずっとさびしい思いをさせていた事。自分としては雄太への気持ちになんら迷いはないが、雄太と灯が幸せになれるなら外的要因で身を引かざるを得ない状況になるのも悪くないと考えている事を新王に説明した。


 その話を最初はおとなしく聞いていた新王だったが、途中からだんだん興奮してきているのが分かった。このまま話続けたらまずいかしら……でも、取り繕うことなんて私出来ないよ! 


 新王が突然立ち上がって大声で怒鳴った。

「それでは……世と同じではないか!」


「えっ?」

 星は新王の言葉の意味が分からずビックリしたが、どうやら将軍や周りの侍従たちも意味が分からず驚いている様だった。

 その様子に気付いた新王は我に返った様で、椅子に座り直し、押し黙ってしまった。


(このチビが、世と同じ境遇だと……姉からしたら妹でもあり、旦那の子供でもある……)


 しばらくして、新王が口を開いた。

「……まさか、あのゲートがそんなふしだらで不道徳な状況を生み出していたとはな。全く人間というやつは……もういい、この二人を下がらせろ。

 ただ……ああ、牢でなくていい、奥の私室を一つあてがってやれ」

「しかし新王。それでは……」ナスキンポス将軍が驚いて言う。

「構わん。そのゆうたとかいう奴がこれからどうするのか……ゆっくり見物してやろうじゃないか……」


 その後、星と花梨は女官に連れられ風呂で洗われ、着衣も綺麗なものに着替えさせられた。部屋に入ると、広くはないが綺麗な調度品や寝具の置かれている客間の様な造りだった。

 そこで女官が、花梨を朝まで預かると言う。

「あの……できればこの子と一緒に居たいのですが……これは一体?」

 星が怪訝そうに尋ねると女官が答えた。


「光栄に思いなさい。これからあなたは新王様のお情けを頂戴するのです。

 粗相のないよう、くれぐれも心を込めておもてなしなさい」

 そう言って女官は花梨を抱いて部屋を出て行ってしまった。


 へっ? お情け……それって……新王様とエッチするって事だよね……。

 やだやだ、どこでどうするとそうなるのよ! 

 何をどう言い間違えて気にいられちゃったのかしら……。 

 わかんないよー。助けて、ゆうくん!


 星の願いもむなしく、やがて新王が部屋に入ってきた。


「あ、あの、王様……私、人間ですし……こんなおばさんですし……王様のような若くてお美しい方にはまったく不釣り合いで……」星があたふた話をする。

「なんだ、嫌なのか。お前が人間でもおばさんでも、世は全く構わんぞ」

「王様! 私さっき説明しましたよね。私の最愛の人はゆうくんなんです。

 もし王様が無理にでもとおっしゃるなら、私はここで舌を噛みます!」

「そうか。好きにしろ。そうしたらすぐにお前の娘も後を追わせてやる」

「くっ! …………わかりました。どうぞお好きになさって下さい。

 ……でも、娘の……花梨の安全は保障して下さい!」

「うんうん。母親ならそうでなくてはな……それでは、そこで着衣を全部取れ。

 下着もな」


 星は覚悟を決め、一糸まとわぬ姿になって、新王の前に直立した。

 その裸体を隅々まで舐めまわすように眺めて新王が言った。


「ふん。さすがは人間だな。エルフにはいないタイプの、豊満でみだらな身体だ。

 これなら娘の恋人でもイチコロだっただろう」

「そんな言い方はやめて下さい。

 まず心がつながって、体がつながったのはその後です」

「そうか。それでは世は、まず体からつながるとしよう……」


 そう言って、新王は手を星の腹に当て、そのまま下に滑らせていった。

 星は眼をつぶって身を固くするが、じっと耐える。


 そしてもう少しで股間に手が届くというところで、突然、新王が笑いだした。

「くっ、はははははっ……すまんすまん。母親の覚悟、しかと見せてもらったぞ」

「えっ? えっ?」星は何が起こったのかまったく分からない。


「いや、お前と二人きりで話をしたかったのだが、それにはこうするしかなくてな。

 お前の反応は世の予想通りというか、いい方に裏切ってくれたというか……。

 お前は信用するに値する母親のようだ」

「あのー……」

「ああ、お前は何もわからなくていいし、誰にも話さなくていい。私個人の話なのでな……それとも何か? ここまでやっておいて生殺しだとでも感じているのか? 

 それならば最後まで付き合ってやらんでもないぞ」

「いえ、決してそのような事は……人間でもエルフでも不倫はいけません……」


「ふむ。お前の体つきは確かにいやらしく性欲をそそる。不倫でなければたっぷり味わいたいところだが……それにしても乳臭いな」

「あー。子供が乳離れしても母乳って結構後まで出続けるんですよねー。

 以前より大分減ったんですけど、いまだに……ほら」

 星がそう言って自分の乳房を強く握ったら、乳首から母乳がピューっと勢いよく飛び出し、新王の顔にかかってしまった。


「あっ、あーっ、王様。大変な失礼を……この状況でこんなに飛ぶとは思ってなくて……」星は、あわててそばにあったタオルで新王の顔をぬぐった。

「ふっ、ははははは。お前は本当に面白いやつだな。よかろう。世が直々に吸い出してやろう」

「えっ? 王様! えっ?、えーーーーーーーー!」


 新王は星をベッドに横たえ、上から覆いかぶさりながら、楽しそうに星のおっぱいを吸い始めた。



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