第49話 作戦開始
夜になって俺達は、目立たない様数人ずつに分かれ、クローデルさんの指定した集合場所に集まった。例のさびれた酒場の近くだ。
すでにクローデルさんの仲間と思われる人達が周りを警戒してくれていて、俺達は何もトラブる事無く、姫様に教えてもらった通路三号に入る事が出来た。
人一人がやっと通れる位の通路だが、花梨も、もうほとんど眠っているようで、星さんの背中に
先導してくれているクローデルさんが言った。
「それでは皆様、ここから城内になります。気を引き締めて続いて下さい!」
通路の外は、食料倉庫か何かのようで、ガイド役の人が待っていてくれた。
ここで一度点呼をとる。
エルルゥも灯もシステンテンメドルもちゃんとついて来ている。
途中、警備もいたが、ガイド役の人がすでに手をまわしているのか、クローデルさんとプルーンが近衛の恰好をしているため不審に思わないのか、すんなり通れた。
そして、いよいよ難関の一階通路だ。ガイド役の人はここまでだ。
通路に出る手前のところに俺達を待機させ、クローデルさんとプルーンがそっと外の様子を伺う。
そしてしばらく警備の様子を観察していたクローデルさんが言った。
「歩きながら巡回してますね……うん! 皆さん、駆け込む階段の位置は頭に入ってますね? 私が合図したら全力でそこを目指して駆け込んで下さい…………三・二・一、はい!」
クローデルさんの合図で皆が一斉に走り出す。
突然コケたりされると困るので、俺が星さんの後ろを走った。
そして次々に階段の入り口に飛び込み、しんがりのプルーンが飛び込んできた。
(やった! うまくいったぞ)
その時だった。
星さんが急に動いたせいか、花梨がむずかって泣き出してしまった。
「まずいわ。皆さん、早く階下に!」
クローデルさんがそう言ったか言わないかのタイミングで、下から男が二名上がってきた。
「お前達、何者だ!」
「落ち着いて下さい。近衛の者です」
一応、見つかった時の想定もしており、クローデルさんとプルーンが前に出て堂々と振舞っている。大抵の従者や警備ならこれで引っ込むはずだが……。
「近衛だと? ふざけるな。その後ろのガキ連れはなんだ!
俺達は親衛隊だ。全員拘束させてもらうぞ」
そう言いながら男が笛を吹いた。周りの警備を呼んだのだろう。
「押し通りますわよ!」
そう言ってクローデルさんが、親衛隊を名乗る男の一人に切りかかった。
プルーンも同時にもう一方に切りかかる。
親衛隊の二名は沈黙したが、一階廊下から警備が複数走って近づいてくる気配がしたため、俺達はとりあえずそのまま階段を下った。
「どうします? ゲートまで強行しますか?」
プルーンの問いに、クローデルさんが答えた。
「いいえ。ゲート室に入る手前で発覚してしまっては、この作戦は失敗です。
ここからなら九号通路の方が近い……。
皆さん! 残念ですが命あっての物種です。今日のところは撤退しましょう」
くそっ、残念だがクローデルさんの言う通りだ。星さんが必死にあやしているが花梨も一向に泣き止まないし、こちらの居場所はバレバレだろう。
俺達は泣く泣く、脱出用の九号通路に向かった。
◇◇◇
「ええっ。ここに入るの? これって下水でしょ? すっごく臭いんですけど……」
エルルゥがすごく嫌そうに言った。
「えり好みしている訳には参りません。とにかく飛び込んで、まっすぐ南を目指して下さい。私が最初に降りて先導しますから、皆さん続いて……」
クローデルさんに先導され、順に汚水管の中に降りて行き、下で全員いる事を確認した後、南を目指した。ほとんど真っ暗で、クローデルさんとシステンメドルが魔法で指先に灯したわずかな光だけが頼りだ。
ようやく花梨も落ち着いた様で、また星さんの背中に括られ眠っている。
俺はそのまま星さんの手を引きながら慎重に進んでいた。
「ねえ、なにか聞こえない? 地鳴りみたいの!」
後について来ていた灯が叫んだ。
「えっ?」しんがりのプルーンが後ろを振り返ったのとほぼ同時だった。
俺達が歩いてきた方向からものすごい勢いで大量の水が流れこんできた。
汚水管の内部は一瞬で水に満たされ、俺達は呼吸も出来なくなり、そしてそのまま下流に向かってものすごい勢いで流されていく。
(くそ……意識が遠のく……だが……)
必死に歯を食いしばって意識を保とうとした。
その時、俺の顔に何かかが当たった。何だったのかは判らないが上流から流されてきたものだろう。そして俺は星さんと繋いでいた手を放してしまった。
(しまった!)
俺は、なすすべもなく水流に翻弄され、もう限界かというところで、ポーンと外に放り出された。
「はあっ、はあっ……」
ここはどこだ! みんなは大丈夫か?
周りを見渡したら、直ぐそばで灯とシステンメドルが口から汚水を吐きながら苦しそうに息をしていた。ちょっと遠くには、クローデルさんとプルーンが立ち上がっていた。
「なによー。人をトイレのうんちみたいに流すなんてー」
エルルゥの元気な声が聞こえた。
「多分、汚水管洗浄のため、定期的に水を流しているのよ。まったく、タイミングが悪い……でも、ここ。どうやら中央公園近くの運河にかかった橋の下みたいね。 ダウンタウンまですぐそこだわ……全員無事?」クローデルさんが声をかけた。
「……おかあさん。お母さんがいないの! 花梨もいっしょなのよ!」
灯が大声で叫んだ。あわてて皆で周辺を探したが見つからなかった。
「中に取り残されたのか……別のところに流されたのか……。
とにかく俺、下水管
俺が流されてきた下水管に戻ろうとした時だった。
「ダメ! もう守備兵がこっちに来てる!」プルーンに制止された。
確かに足音や話し声が近づいてきているが、それが何だ! 俺が星さんと花梨を探しにいかないと! 制止するプルーンを振りほどいて下水口に手をかけたその時、クローデルさんの手刀が俺の後頭部を直撃し、俺は意識を失った。
「ダーリン、ごめんなさい……あなたまで失うわけにはいかないの……」
「ちょっとあんた何してんのよ! お母さんを助けないと!」
灯の言葉をシステンメドルが訳してくれたが、クローデルさんは耳をかさず、プルーンに灯も拘束するよう指示した。
「クローデル様……」不服そうなプルーンをクローデルさんが一喝した。
「あなたも軍人でしょう! 引き際の判断を誤ってはいけません!
システンメドル。あなたがゆうたさんを担いで下さい!」
そうして、脱出した者たちは、急ぎダウンタウンの家に退却したのだった。
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