第46話 失恋

あかりさん。ともり。聞いてくれ! 分かったんだ。

 俺達の世界に帰る方法が分かったんだ!」

 俺は大声で叫びながら家に飛び込んだ。


「えー、すごい。ゆうくん。やったじゃない。やっぱりあなたすごいわー。

 ほんとに突き止めちゃうなんて……。

 私なんかほとんどあきらめモードだったのに……」

 星さんが涙目で俺に話しかけた。

 灯も驚いたようで、俺の顔を真顔で見ている。


 俺は、システンメドルと話した内容を二人に聞かせた。


「うわ、結構ハードル高いね。

 あっちゃんが王様になる前に王城に入らないといけないんだ。でも……。

 ゆうくん、やっぱりすごい!」

 星さんが俺に抱きつきそうになったが、灯が見ているのに気づき、慌てて身をひねり、その場に派手に横転した。


「ぷっ! おかあさん。ぱんつ見えてる!」

 灯が久しぶりに口を開いた。だが無意識で出た言葉だったようで、また恥ずかしそうにだんまりになった。


 夜寝る時は、俺が星さんといると灯を刺激すると思い、近所の人に納屋を貸してもらっていて、俺はそこで寝泊まりしている。

 納屋での暮らしはトクラ村以来だが、この藁床の匂いがなんだか懐かしい。


 この世界に流れ着いて五年以上たった。本当にいろんな事があったな。

 ウォーウルフ・バルア一家・ゴブリンキング・あごひげさんとシャーリンさん・ミハイル夫妻・姫様……。

 大変だったけど、なんか周りの人に助けられてここまでこられたな。


 それに引き換え灯は……本当に孤独だっただろう。ひどい目にもあっただろう。

 今からそれをどうこうしてやる事は出来ないが、これから先は幸せに暮らしてほしい。まあ、今の俺に何か出来るという事ではないのだが。


 そう思っていたらそばに人の気配がした。誰かと思ったら灯だった。


「どうした灯。眠れないのか?」

「…………」

「いや、まあいいか。でも、そこじゃ寒いだろ。今夜は結構冷え込んでいるし。

 早く家に戻った方がいいぞ」


「ゆうちゃん……あのさ……ゆうちゃんは、もう私のこと嫌いになった?」

「えっ?」


「わたしさ。こっちに連れてこられてから、ろくな目にあってなくて……いろんなところで虐待され、無理やり犯され、酷使されてて……もう全然綺麗な身体じゃなくなっちゃったんだ……だから、ゆうちゃんが私にあいそつかしてくれたほうが、私も気が休まるし……お母さんの事も許せると思うんだ……」


「灯……おまえ…………馬鹿を言ってんじゃねえよ。俺がお前を嫌いになる訳ないだろ! 綺麗な身体なんてどうでもいいさ。お前の初めては俺が貰ってるしな。

 それに俺だってこっち来てこの方、全然綺麗じゃねえんだよ! 

 見た目とかじゃないんだ。心なんだよ! 俺はお前が好きだし、星さんも好きだ。どっちが好きかといわれるとちょっと困るが……本当に……本当に星さんを女性として好きになっちまったんだよ……すまん……」


「なによそれ。ほんとめちゃくちゃね……でも、ありがと、ゆうちゃん。

 それじゃ私、決めたわ」

「決めたって何を?」

「私、元の世界に帰ったらゆうちゃんと別れる。私があなたを振ってあげる。

 もっといい男探す。だから……。

 おかあさんとでも誰とでも、好きに付き合って結婚しなさい!」

「灯……」


「だから……だからね……この世界にいる間だけでいいからさ……。

 まだ私の恋人でいてくれないかなぁ……」


 ああ、灯だ。こいつやっぱり俺が好きだった灯だ。

 俺がはじめてエッチした大好きな幼なじみの灯だ……。

 俺は灯を抱き寄せ唇を合わせた。


 そのまま着ている寝間着を脱がせていき、俺も自分の着衣を脱いだ。

「結構寒いね……」

「そうだな。でも藁床の中ってあったかいんだぞ……」

「知ってる……」

 そう言って二人は生まれたままの姿になって藁床に潜り込み、朝まで藁床の中で抱き合った。


 翌朝早く、灯が家におらず星さんが慌てて探しに出たらしいが、俺のところにいたことに気付き、そっと家に帰って二度寝したと後から聞いた。



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