第18話 出発
正式につがいになった俺達二人が家に着いた時、すでに陽はすっかり落ちていた。
あのあと何回イったのか……もう足腰がフラフラだ。だが、心は得も言われぬ幸福感に満たされている。それは星さんも同じ様に見えた。
「お帰りゆうた、あかりママ。って、ゆうた、何その顔。そんなにゲッソリして目にクマまでこしらえて……ははあ、あかりママに吸いつくされた?」
「はは、そうかもな……」
星さんは全身真っ赤になって、俺の後ろに隠れてしまっている。
「……よかったね。一年間離ればなれでも大丈夫なくらい、ちゃんとつがえたようで。それにしても、これは……」
プルーンが突然、体をくねらせてモジモジし始める。
「どうした?」
「いや、二人からエッチな匂いがすごくしてて……私まで発情しちゃいそう!」
うわ、やばいやばい。
俺達、まだフェロモン全開? 俺と星さんは、慌てて家を飛び出した。
そして、明日は出発だというのに、姉妹が寝付くまで、家の外でほとぼりを覚ますこととなった。
体は相当疲れているはずなのだが、夜半に藁床にもどっても、遠足前の子供のように興奮しているのか、眼が冴えて一向に眠れそうにない。
隣で寝ているプルーンも同様に寝付けないらしく、ため息をつきながら頻繁に寝返りを打っている。
「プルーン。何か気になるか? 俺、もう匂ってないよな」
「ううん、大丈夫。さっきはちょっと焦ったけど。いよいよ明日だと思うと、やっぱり興奮しちゃって」
「俺もだ」
「ゆうた……私たち、王都でうまくやっていけるよね?」
「何をいまさら。いままでもうまくやってきただろ」
「うん。でも、まあそれは家族としてであってさ。なんかさっきの匂いのせいか、今、私、あんたとのオス・メスをすごく意識しちゃってて……そっちもうまくいくのかなって」
「俺、お前の期待に応えられるよう頑張るよ」
「ほんと?」
「ああ、お前が俺を好きだって言ってくれたのがうれしいという気持ちは本当だ。
でも、人間の一夫一婦制の考え方がまだ染みついててな。すぐにお前を全部受け入れるのには、今はまだ、正直抵抗がある。だが、明日からは星さんともちょっと距離が離れるし、お前のいいところを、もっともっと探して行こうと思っている」
「……ありがと。ゆうた。明日から宜しくね」
そうは言ったものの、やはり星さんを裏切っているんではないかという背徳感が半端ないな。
プルーンは俺の右腕を両腕で抱きしめ、俺の肩に顔をくっつけ、やがて軽く寝息を立てはじめた。とにかく、当面は俺がこの子を守るしかないんだなと、プルーンの可愛い寝顔を見ながら俺は強く思った。
◇◇◇
翌朝は快晴だった。王都への門出にはふさわしいな。
家族四人での朝食を済ませ、みんなでキャラバンに向かった。
キャラバンは昨夜のうちに出発の準備を終えており、あごひげさんやキャラバンの人達が、村の人達とざっくばらんな会話をして別れを惜しんでいる。
「おう、ゆうた、プルーン。お前たちの馬車はこっちだ。喜べ、私といっしょだぞ」
そう言って、シャーリンさんが俺達を馬車に案内してくれた。そこへ荷物を収め、出発までは一緒にいようと、広場で星さんやメロンと話をしていたら、オキアやソドンも見送りに来てくれた。そこへエルルゥが現れて、ソドンの動きが急にぎこちなくなってしまい、思わず噴き出した。
エルルゥはプルーンの見送りにきたと言ったが、小声で俺に話かけてきた。
「ゆうた。プルーンは私の大事な妹なの。くれぐれもよろしくね」
「ああ、もちろんだ。俺にとっても大事な妹だしな」
「えー、妹? プルーンは、ゆうたとつがいになりたいって言ってたよ。あの子、まだバージンだから、最初の時は、優しくしてあげてねっ!」
「あっ、こら! エルルゥ。またろくでもないこと、ゆうたに吹き込んでるでしょ!」
そう言いながらプルーンがエルルゥにギュっとしがみついた。エルルゥも思い切りプルーンを抱きしめ返す。
「大変だと思うけど頑張んなさいよ。そのうち私も王都の学校に行くかもしれないから、そん時はよろしくね」
「うん、私頑張るよ。お姉ちゃん!」
そんな光景を見て、ソドンが、尊い尊いとつぶやいていた。
オキアが俺に話掛けてきた。
「この前、お前が見せてくれたバルアの剣な。あごひげさんにも確認したんだが、あれ、俺が貸してたやつより相当の業物らしいぞ。まあバルアもこんな事になって、草場の陰でびっくりしているしているかもしれんが、いざって時に娘たちをお前に託すつもりでこの剣を準備したんだと俺も思う。だから、王都でプルーンちゃんをしっかり守りながら、自分の夢に向かって頑張れ!」
「はい!」
「おーい、そろそろ出発するぞー。各自、自分の馬車に乗りこめー」キャラバンの指揮隊長の声が広場に響く。
俺は、星さんの前に行き言葉をかける。
「星さん。大好きです。はは、なんだろ。ここに来てなんだかいろいろ思い出してきちゃった……でも来年、元気で会いましょう!」
俺は眼から涙がこぼれるのを止められない。
「はい!」星さんが泣きながら満面の笑みでそう答え、その唇に俺はそっと口づけをした。
「しゅっぱーつ」
号令一過、馬車が順に移動を開始する。動き出した俺達の馬車をメロンが追いかけてくる。
「お姉ちゃーん。ゆうたー。私も来年絶対行くからー。二人とも元気でねー」
プルーンもわんわん泣きながら馬車の上から手を振っている。やがてメロンの声も聞こえなくなり、馬車は村を離れて森の街道に入った。
「あはは、見えなくなっちゃった。メロンもあかりママも……村のみんなも」
泣きじゃくるプルーンを抱きしめ俺は言う。
「馬鹿野郎。泣くんじゃない。新しい挑戦が始まったばかりじゃないか。離れていても四人の心は一つだ。みんなで力を合わせて、ここから頑張るんだぞ!」
「……そうだね。気合いれなきゃ」
そんな俺達を見ていたシャーリンさんが言った。
「お前たち、いい家族じゃないか。うらやましいぞ」
こうして俺とプルーンは、期待と不安が入り混じる中、何が待っているのか皆目見当もつかない王都へと出発した。
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