第17話 思い

 渡航費用のメドがついた事を、あごひげさんに報告しようと、プルーンと二人でキャラバンに向かった。

 行商も後半戦で、注文品を届ける仕事から、来年分の注文を受ける仕事に業務内容が変わってきている様だ。村の人達が、広場で懸命に注文書を書いている様子を眺めながら歩いていたら、ソドンに呼び止められた。


「おお、ゆうた。ちょうどよかった。これ、お前んちの注文品な。

 やった、届ける手間省けた」

「なによ! あんたが手間賃貰ってるんだから、ちゃんと家まで運んでよ! これ、すっごく重いじゃない」プルーンがソドンに喰って掛かる。

「はは、すまんソドン。俺達、これからちょっとあごひげさんのところに顔を出すので、すまないが荷物は先に持って行ってくれないか。家にはメロンがいるから」

「ちぇー」そう言いながら、ソドンはしぶしぶ、その荷物を抱えて行った。


「でも、何かしらね。ずいぶんと重かったけど……」

 プルーンに心あたりが無いということは、バルアが昨年注文したものだろう。

 あごひげさんに、資金繰りのメドが立った事を報告したが、彼はシャーリンさんが資金提供を申し出た事に驚いているようだ。


「私もずっと、彼女は他人の事など全く眼中にないのかと思っていましたが、そうではないのですね。ダークエルフという事で、彼女もいわれなき偏見や差別を経験しているでしょうし、それに近い境遇のあなたに、何かシンパシーを感じたのかも知れませんね」

 そうなのか。だとしたら、俺も最初は、彼女を外見で判断し、ものすごく怖そうな人だと思ってたので、それも偏見だよなと、ちょっと反省した。


 そうして家に戻り、例の荷物を開封したところ、服や狩りの道具などといっしょに、中から新品のソードが一振り出てきた。服は当然、バルアやプルーンとメロンのものだろうと思っていたら、どうやら俺と星さんの物も有るようだ。特に女物は、この間のエルルゥのワンピには負けるが、普段着ているこの村の民族衣装っぽいものとは異なり、どれも洗練されていて都会的なデザインだった。節約家のバルアも、さすがに年頃になった娘たちにおしゃれをさせたかったのだろうな。プルーンもメロンも、眼にいっぱい涙を溜めながら、いつくしむようにその服に頬ずりしている。


「それにしても、これ、かなり立派なソードだよな。バルアが新調したんだろうか」

「うーん、でもイメンジは普段大剣だったからねー。ゆうた用じゃない?」

「いやー、プルーン用だろ」

「でもこれ、私には重すぎるよ。まあ、これから王都に向かう訳でもあるし、ゆうたが使いなよ。イメンジからの餞別だと思ってさ」

「……そうか。それじゃそうさせてもらうよ」

 まさか一年前のバルアが、こうなる事を予測していたはずは絶対無いのだが、オキアに借りていた業物は返さないとならないので、全くもって有難い。

(バルア。この剣に誓って、俺はこの家族を絶対守るよ!)

 心に強くそう誓って、俺は渡航の荷造りを再開した。


 ◇◇◇


 こうして、俺とプルーンの王都出発の準備も整い、キャラバンの出発を明後日に控えた夜、プルーンが俺と星さんに言った。


「ゆうたとあかりママ。もう当分会えなくなる訳だし、明日は二人でデートしてきなよ。私もメロンといっしょに、後のことを宜しくお願いしながら、村の中の知り合いのところを挨拶に回ろうと思うんだ」

「あはー。プルーンちゃん。お気遣いありがと。それじゃ、お言葉に甘えちゃおうよ、ゆうくん!」

「はい!」


 そして次の朝、俺は星さんとともに家を出て、あの山小屋に向かった。

 もう最低でも一年は星さんと会えなくなると思うと、本能的に彼女を求めている自分がいるのがはっきり自覚できる。星さんは、俺のちょっと後ろを顔を赤らめ、恥ずかしげにうつむきながら付いて来ていて、多分、彼女も同じ気持ちなんだろうと感じている。


 川原の岩に二人で並んで腰かけながら、俺のほうから切り出した。

「星さん。必ず、戻ってきますから、待っててください。でも俺も正直、星さんと長い間離ればなれになるの結構つらいです。なので今日は、星さんの思い出で、俺の中をいっぱいにしたいんです」

「あはー。素敵なプロポーズありがと、ゆうくん。わかってる。私もそのつもり。今日こそは最後まで行こうね」

 そう言って、二人は小屋の中にはいった。


「ゆうくん。それじゃ。いくよ……」

 次の瞬間、俺は星さんと一つになった。そして、こっちの世界に来てからのお互いの募る思いを吐き出すかの様に、何度も何度も愛しあった。


 暖かい……なんとも言えない心持ちだ。

 そして二人で横になったまま余韻を分かち合いつつ会話をする。


「星さん。ありがとうございます。俺、星さんと繋がれて、とっても嬉しいです」

「うん、私もゆうくん成分たっぷり補給しちゃった。これで一年くらい会えなくても大丈夫かなー」

「それで星さん。今ここでする話じゃないかもしれないけど……星さん、おれとプルーンがつがいになるのを応援してるんですってね」

「あー。プルーンちゃんに聞いたー? 前にも言ったと思うけど、それ本気だよ。

 こんなおばさんは……まあ、私も性欲溜まっちゃうことあるし、ゆうくんとは、今はセフレという事でいいんで、将来は、灯かプルーンちゃんと幸せになってほしいな」

「そんなこと言わないで下さい。さっき俺と星さんがやったのは、性欲処理なんかじゃなくて、ちゃんとお互いに愛しあっての行為ですよね! プルーンは複数の女性と俺がつがいになっても気にしていないみたいだけど、万一元の世界に戻っても、俺、灯にちゃんと言います。俺は星さんが好きだって! だからこれからも俺の正式なつがいでいて下さい!」

「ゆうくん……」

 星さんが目に涙を浮かべている。


「まいったなー。娘の彼氏に本気でプロポーズされちゃったよ……でも、ありがと。

 一人の女として、最高にうれしいよ!」

「それじゃ……」

「うん……結婚しよ。ゆうくん」


 そうして俺達二人は、またお互いの影を重ねあった。

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