第13話 王都移住計画

 プルーンが突然、来年俺と王都に行くと言い出し、みんな仰天したが、彼女がその理由をメロンにもわかりやすいように、ゆっくり説明しだした。


 そもそも、四人が家族でいる事と、俺と星さんが元の世界に帰るという事は、大きな矛盾を抱えている。現時点でプルーンとメロンは、俺達と一緒でないと生活が立ち行かない可能性が大きい。なのでプルーンは、自分が一人前になって独立出来るくらいまで……具体的にあと二、三年は、四人での生活をお願いしたいという事であった。確かに、子供が大きくなって親元を離れてしまっても、家族でなくなる訳ではないが……。

 だが、同時に彼女は、それから調査を始める事になって俺達の帰還が遅れるのも申し訳なく思っているらしく、それならば、出来るだけ早く四人で王都に移るのが最善ではないかという理屈だ。それはメロンも理解した様だったが、それで、なんで二人で行く話になる?


 彼女は続けた。


「実は……多分、四人そろって王都へ行けるくらいのお金はなんとかなりそうなの。

 うちの蓄えとイメンジの見舞金、それにゆうたが貰ってきた報奨金で、一人あたりの費用が百万ポンより多少高くてもなんとかなりそうなのよね」

 なるほど、昨日からその計算をしていたんだな。

「でも、それだったら、来年四人で出発したほうが良くないか?」

「でもね、ゆうた。四人で王都に着いた時点で、多分、手持ちの蓄えはほぼ無くなるわ。その状態で、就職や住居探しなんかがうまくいかなかった場合、村に帰ってくる事もままならず、そこで詰みよ」

「あ! なるほど。それで、二人で先に王都へ行って生活のメド付けてから、あとの二人が追いかけるのね!」

「あかりママ、ご名答!」

「なるほど。うまいこと考えたな。でも、それだと最低でも一年は、二人づつ、離ればなれだぞ」

「それは仕方ないわよ。でも、私たち姉妹だけになるよりよっぽどマシだと思う。ねえ、メロン。あかりママと二人で一年くらいお留守番出来ないかな?」

「えー、やだよー。お姉ちゃんとゆうたもいっしょがいいよー」

「うーん。メロンには、後でもう少し私から話てみるわ。

 ゆうたとあかりママはどう?」

「いい考えだとは思うが、俺もすぐに結論は出せないな。星さんとも話合ってみるけど、そういうの、村の協力も必要そうだし、里長とかにも相談したいな」

 星さんも俺の意見に同意してくれた。

「そうだね。行くとなっても半年後だし、それぞれ少し時間をかけて考えようよ。でも、ゆうた、あかりママ。私この冬から頑張って働いてもっとお金貯め始めるから、二人とも手を貸してね」

「ああ、それはもちろん!」


 こうして俺達の王都移住計画の検討が始まった。

 数日後、俺はプルーンの計画を里長に相談しにいった。ちょうどオキアも来ていたので、いっしょに話を聞いてもらった。

「ゆうた。わしとしてはその案には特に異存はない。自分たちで費用が賄えるのであれば問題なかろう」

「そうですか。長が認めてくれればプルーンも喜ぶでしょう。

 しかし、いいのですか? 村の人口が減ったりしますが」

 その質問に、オキアが答えた。

「大丈夫さ。大体、本来は村ごとに一定の兵を出す決まりなんだ。でもここは、近年の魔獣被害でオスが減っちゃってて、兵を出すのをずっと免除してもらってたんだ。だからお前の申し出は、村にとっても渡りに舟というわけさ。それにな。バルアがなんでケチケチして金貯めていたか俺は知ってる。あいつは、将来、娘たちを王都の学校に入れて、魔法なりを身に付けさせて、こんなド田舎ではなく、国のいいところで活躍させたかったんだよ」

「そうだったんですね。であれば、姉妹の王都行きは、バルアの夢でもあったんですね。ますますやる気が出てきました」

「そういう訳なので、ゆうた。一つだけわしからの条件じゃ。プルーンも軍志望としてほしい。それで村も助かる」

「はい。プルーンに伝えます」


 家に戻って里長と話た内容をプルーンに伝えたところ、彼女はいきなりボロボロ泣き出した。

「おい、どうしたプルーン。軍は嫌か?」

「ううん、ごめんね……ゆうた、違うの。イメンジ、そんな事考えていたんだって……私とメロンは、小さい時から周りの子たちより貧乏くさい恰好してて、なんで私は綺麗な服が着られないんだろ、お母さんいないからかなって……まったく、あのクソおやじ。どおりで結構な額の蓄えがあった訳だわ!」

「はは、いいお父さんじゃないか。バルアの為にも王都行って頑張ろうな」

「うん、ほんと自慢のオヤジだわ……」


 この、俺とプルーンのやり取りを傍で聞いていた星さんが、俺に話かけてきた。

「ゆうくん。ゆうくんは、プルーンちゃんとの王都行きで、だいだい考えがまとまったみたいだね」

「あ、はい。でも星さん、寂しいでしょうけど、俺、絶対星さんのことを忘れたりは……」

「違う違う、そんなの気にしてない! 私はちゃんとお留守番できるよ。でもね、もうそろそろ、この村に来て二周年だなって……ようやくここまで来れたなって……ちょっと感慨深いかな」

 口ではそう言っているが、やっぱり星さんはどこか寂しそうだと思っていたら、星さんが口をひらいた。


「ゆうくん。明日、二周年記念デートしようか?」

「えっ、デート……ですか?」

「はは、大丈夫。今回はドッキリ無しだから……」

 うーん。それってドキドキ展開は無いって事? それとも本気で××していいって事? そんな妄想を抱いている俺に向かって、プルーンが言った。

「ゆうた、鼻の下伸びすぎ! でも、たまにはあかりママに、つがいらしい事してあげてもいいんじゃない? 私たちもいっつも邪魔しちゃってるし」

 おいおい、それってエッチして来いって事か? というか二年間、偽つがいだということは、ついに言えなかったな……。プルーンが本当の事を知ったらどうなるんだろ。多分ドン引きされるよな、などと考えたら大きくなりかけていたあそこが急速に縮んでいった。


 翌日、星さんの希望で、二人がこの世界に最初に来た時泊まった、川原近くの山小屋に来た。当時の小屋は、星さんが燃やしちゃったので、当然、その後新しく建て直されたものだが、ここからちょっと下流にいくと、バルアがゴブリンキングと戦った場所でもあり、色々な意味で因縁深い。


 川原の大き目の岩に二人ならんで腰をかける。

「なんかあっという間だったよねー。二年間」

「そうですね。でも、ようやく王都への道筋が見えたので、まだまだこれからですね」

「その事なんだけど、ゆうくん」

「あー、星さんは昨日もあんまり乗り気じゃなかったですよね。この計画には反対ですか? いや変な意味じゃなくて、俺だけはしゃいても申し訳ないですし、意見があれば星さんにも遠慮なく言ってほしいです」

「うん、じゃはっきり言うね。ゆうくん。あなた、プルーンちゃんとつがいになりなさい!」

「へっ? なななな、一体全体どこをどうするとそういう話が……」

「ゆうくんが鈍感なのは今に始まった事じゃないんで、今更なんだけど。

 プルーンちゃん、絶対、ゆうくんにぞっこんだと思う」

「ぞっこん? って何時代のことばですか。って、いやまさか、そんな」

「傍目から見てすっごくよくわかるよ。多分メロンちゃんも気づいていると思う。

 そうでなきゃ、二人で王都に行くとか、普通の女の子は絶対言い出さないから!」

「いや、そうは言っても……あいつは妹みたいなもんですし……おれのこの世界でのつがいは、星さんですから」

「義理堅いねー、ゆうくんは。こんな、一発もヤラせてくれないおばさんをつがいだなんて。でもうれしいな。いいよ、ゆうくん。そこまで言うなら私も覚悟できた。この世界にいる間は、私、本当にゆうくんのつがいになるよ」

「いやいや星さん、どうしたんですか? またドッキリ?」

「ううん、本気だよ。別にゆうくんの帰還の決意を否定するつもりはないけど、正直、この世界から元に戻れるかどうかまだわからないし、二年もたって向こうの世界もどうなっているのか分からない。灯の事が心に引っかかってゆうくんと一線超えてなかったけど、もし元の世界に帰れたら灯を幸せにしてやってほしいし、帰れなければプルーンちゃんと幸せになってほしい。どっちにしても、この移住計画がうまくいって王都で落ち着く頃には、多分私アラフォー通り越すんだよね。だから、ゆうくんの将来は娘に任せるけど、今だけは、もっと自分の思いを大切にしてもいいかなって……私も一人の女として、もう少し人生を楽しんじゃだめかな?」

「いえ、ダメじゃないと思います! 二年間、いっしょに過ごしていて、俺の気持ちはとっくに星さんを一人の女性として見ています。元の世界に帰って灯に会ったとき何もなかったように振舞えるかは正直自信ありませんが、俺も星さんとエッチしたいです」

「ゆうくん。ありがとう。とっても嬉しい」

「それじゃ……ここで……」とおれは服を脱ぎかける。

「あー、でも。やっぱ、心の準備が……」

「うわー、ここまで来てじらさないで下さいよー」

「はは、わかった、わかった。それじゃ小屋に入ろうか」


 俺と星さんは、小屋のむしろを上に上げ中に入った。そして、お互いを求めあったのだが……まさにこれからというところで、何と俺のほうが先に果ててしまった!


「あー、ゆうくん、おしい! もうちょっと我慢していれば……まあ、ドンマイ」

 灯のときは、ちゃんと合体出来たのになー。なんか、情けなくなってきた。


「ゆうくん。疲れちゃった? もう一回いけるかなー」

「あ、はい。すぐに復活できると思います」

 とはいうものの、さすがにすぐには復活してこない。

「……ゆうくん、もしかして童貞だった?」

「あ、いや。灯とは……いや、あれ?」

「あはー、そうかそうか。ちゃんとやることやってたんだ我が娘よ。お母さんは安心したよ。娘の彼氏の童貞まで奪ちゃう心配はいらなかったかー。でも、今日はここまでにしよ。灯の怒った顔が見えてきちゃった」そう言いながら星さんは、頬を紅潮させ、眼を閉じてくったりと俺に寄り添っている。

「あはー、こんなにドキドキしたの何年ぶりだろ。前の世界でも結構ご無沙汰だったしなー」

「あのー、星さん。星さんさえよければ、俺いつでも……」

「うん、ありがと。でも私はこれで当分満足かな。もう十分、ゆうくん成分、吸収したし。本番はまた、そ・の・う・ち・ね」

 はは、最後まで結ばれなかったのは残念だが、次も期待していいみたいだし、その時こそ。


 ……こうして俺と星さんの異世界転生二周年デートは終了した。


 夕方、家に帰ったらプルーンが夕食を作って待っていてくれた。

「おかえりー、ゆうた。あかりママ。って、あかりママすごくツヤツヤしてるねー。

 これはー、ちゃんとつがいが出来たんだね。ゆうたもご苦労さん!」

「あはー、プルーンちゃん…‥照れくさいー」

 プルーン。つがいって……何して来たかわかってるのかな。でも、あの素振りは、絶対わかってるよな。この子が俺にぞっこんだって? そう思ったら、なんだかプルーンの体がひどくエロいような感じがしてきて、俺はたまらず家の外に出た。


 そうしたら、メロンが近づいてきてこう言った。

「ゆうた。今日、王都の件、お姉ちゃんと話したんだ。それでね。ゆうたがお姉ちゃんとつがいになるんなら、二人で王都に行ってもいいよ。わたし、あかりママとお留守番出来るよ」

 おいおい。プルーンとメロンはいったいどんな話をしたんだ?

「あのさー、メロンちゃん。つがいって何するか知ってるの?」

「うん、子供つくるの!」


 そしてその夜、いつものように四人川の字で、藁床のベッドに横になったが、俺の両隣が、星さんとプルーンで、なんとも悩ましく、興奮してあまりよく眠れなかった。

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