第2話 異世界ゲート
「さーて、時間は二十一時をまわったよ。全国の受験生諸君! 勉強の手を休めて少しラジオの音楽でリラックスしてね。今日は八十年代洋楽特集だよ」
受験生なので、夜も出来るだけ勉強するようにしている。
そんな中、このDJは一番のお気に入りで、いつもこの時間が休憩タイムになる。
※ いまなにしてる?
※ これからお風呂! いっしょに入る?
※ アホ
と、ぽちったその時だった。
突然、家全体が縦に一mくらい上にジャンプしたような衝撃が走った。
地震か! と思った次の瞬間、前後左右上下に部屋が激しく揺さぶられ、椅子に座り続けることもできず、そのまま床に投げ出され、本棚も倒れてきた。居間のほうでは、
ものの一分くらいで揺れそのものは収まったのだが、停電してしまっており、スマホを手にとって、その明かりを頼りに一階の居間に降りた。
「父さん、母さん、大丈夫?」
「おお、雄太。私たちは大丈夫だ。家具とかはみんな倒れちゃったがな。それにしてもすごい地震だったな。震源とかはどこなんだろう?」
「あっ、俺ラジオ付けてたから、持ってくるよ」
そう言いながら、ラジオを取りに二階に戻った。ラジオは充電できるタイプなのでまだ音が出ていたが、地震のことには触れておらず、クィーンの曲が流れている。
「あれ、MHKとかでないとだめかな」と、チャンネルを変えてみるがどこも地震のことに触れていない。
「父さん、なんかおかしいよ。ラジオで地震のことにぜんぜん触れていないよ」
「なんだって? そんなに局地的な揺れだったのかな。TVがつけばもう少し何かわかるかな。ちょっとブレーカーを見てくるか」
次の瞬間だった。
「キャーーーーー!」と、隣からものすごい叫び声が聞こえた。
「佐倉さんちだわ。誰か怪我でもされたのかしら」
心配そうな母に向かって「俺が様子見てくるよ」と言い、玄関で防犯用に常備している木刀を手に、急いで隣りの灯の家に向かった。
灯の家も明かりが消えて真っ暗だった。玄関には鍵がかかっていて、チャイムは当然鳴らないとして、戸を思い切り叩いてもなにも反応がない。気を失ったり怪我して動けなかったりしているのだろうか。気持ちは焦るが深呼吸だ。
「そうだ、風呂入るって言ってたっけ」
そう思いだして家の裏手の風呂場の窓へ向かう。灯の家の構造など、子供のときから百も承知だ。そっと風呂の窓を叩いてみる。
「灯、無事か? 俺だ、雄太だ!」
返事はないが、なにか中で動いているような気配がする。
ええい、迷っている暇はない。
「窓を割るぞ。破片に気を付けろ!」
俺は、手にもった木刀を思い切り振り、風呂場の窓をたたき割った。
暗くてよく見えないが、確かに人位の大きさの陰が動いている。
ガラスの残り破片を打ち払って窓から内部に入り、スマホの明かりをつけた。
……なんなんだ、これ?
風呂の脱衣所には、うしろから羽交い絞めにされ、もう一人に足を押さえられて、もがいている灯がいたが、その羽交い絞めにしているもの達が……豚?
いや、なんか甲冑つけてるし、人だとは思うが何かのコスプレか? というより、まさかこれって凌辱寸前? その時、プチっと音がしたような気がして俺の理性のタガが外れ、次の瞬間、木刀でその豚人間たちをしたたか打ち据え、相手は気絶したようだった。
「灯、大丈夫か? いったいこれは……」
「ゆうちゃん! あ、ありがとう。でも私にも何がなんだかさっぱり……お風呂入っていて、いきなり大地震が来たと思ったら停電して、暗闇からこの豚人間が現れて私にとびかかって来たのよ」
「にしても、火事場泥棒にしては、不細工だし準備が良すぎるな」といいつつ仮面を剥ごうとするが取れない。
「これって、ラノベとかアニメにでてくる、オークとかいうやつ?」
灯も
灯のお母さん、
「灯。おばさんは?」
そう言いながら灯の方をみて、改めて灯が全裸であることに気が付いた。
「いいや、灯。まずは服を着ろ。それから警察に電話だ。おばさんは俺がみてくる」
「わかった。お母さんは、台所にいたはずなんだけど……」
とりあえず周りに怪しい気配は感じなかったため、その場はいったん灯と別れ、おばさんの安否確認のため台所へ向かったが、ここも何か怪しい気配がする。
剣道は小学生のころからずっと続けていて、達人とはいかないがそこそこの腕前である自負はあり、気配とかには一般人より敏感だとは常日頃思っている。
台所の冷蔵庫の向こう側に勝手口があり、裏庭に続いている。どうやらその方向に何等かの気配があるようだ。一応木刀は持っているが、賊が複数で人質もいるとするとかなり分が悪い。警察が来るまで待機したほうがいいかも知れない。
そう思いながらスマホを見てみると、あれ? 圏外になっている。さっきの地震で通信インフラにもダメージがあったのかも知れない。だとすると警察もすぐにあてにはならないか。そう思い直して、ゆっくり気配の方に近寄り、勝手口から表の様子を伺った。
……やっぱり、豚人間達が数人。そして……おばさんもいる。口に猿ぐつわを噛まされていてしゃべれないようだが、意識はあるようだ。それに、あれはなんだ?
あたりは停電で真っ暗なのに、二mくらいの光の輪が地上から三十cmくらい上の空中に光っている。
やはり、あの人数を一人で相手にするには分が悪い。せめて父さんでも呼んでこようかと思ったその時、光の輪の中から人が一人出てきた。それはとても美しい服を着た長身の男性で、回りの豚人間の反応を見るに、彼らの上役のようだ。
しかも、細かくはよくわからないが、耳が左右に大きくとんがってせり出している。あれって、エルフとかいうやつ?
もうなにがなんだかさっぱりわからん。さっきの地震で異世界とかと繋がっちゃったんだろうか……いや待て! 気づかれた! あのエルフ、勘が鋭い!
次の瞬間、俺は、数名の豚人間に囲まれ、槍を突き付けられていた。くそ。これは抵抗できない……。
『ふむ、お前は人間のオスか。抵抗しなければこちらも手荒な真似はせん』
念波とでもいうのだろうか、声ではなく、直接頭にメッセージが響いてきた。
俺は言葉で返す。
「お前たちは何者だ。何の目的で、佐倉家を襲っている?」
また念波が返ってくる。
『細かいことをお前に説明する必要はない。どうせこの世界の者たちはすべて我らにひれ伏すことになるのだ』
なんだってんだ、こいつら異世界から侵略にでも来たというのか?
結局俺は、灯のおかあさんの星さんと一緒に縄でくくられ、やはり猿ぐつわを噛まされた。
それからものの数分で、灯がやはり猿ぐつわを噛まされグルグル巻きにされて、裏庭に引っ張ってこられた。
『どうやらこの家にはこの三名しかいないようだな。今日のところはこれでいい。ゲートがわからないよう結界を張って撤退だ。こいつらを連行しろ』と言った思念が流れてきた。
くそ、あっちは侵略前の偵察でこっちは捕虜かよ……そうしていると、灯の首になにか金属製の鎖のようなものが掛けられ、ゲートの方に連行されていった。俺になにかできることはないのか! 必死に思考を巡らせるが、いい案が思い浮かばない。そしていよいよ灯がゲートに入れられようとした瞬間のことだった。
いきなり星おばさんが、すごい勢いで俺を引きずったまま、灯を引いていた豚人間に体当たりした。いや、まさに火事場の馬鹿力とはこのことだろう。
灯と豚人間はおばさんに跳ね飛ばされたが、替わりにおばさんと俺が、勢い余って光の輪に入り込んでしまった。
うわー、なんだ……この感触。すっごい気持ち悪いぞ。まるで三半規管が壊れてしまったような、天も地もわからない状況だ。
そんな中でまたやつの思念が頭の中に入り込んできた。
『馬鹿者が! タグ無しでゲートに飛び込むとは……まあ助かるまいが。急ぎゲートを再調整……』そこから後は聞こえなかったのか、俺の意識が飛んだのか……。
だんだん薄れていく意識の中、
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