第1話 初めてのエッチ

「いいんだな。本当に」

「うん、それでゆうちゃんが頑張れるなら……と言うか、私も初めてはゆうちゃんがいい」


 外の気温が余りに高く、エアコンもロクに効いていない俺の部屋のベッドの上で、幼なじみの佐倉さくら ともりは、そういいながら両眼を閉じて、唇を俺の顔面にすっと寄せてきた。あわてないように深呼吸し、俺もそっと唇を合わせる。

 灯の舌が口の中に入ってきたと思ったら、思い切り後ろに押し倒された。チアリーダーなんかやってるせいか、小柄な割に妙に力がある。俺は口づけを終え、彼女の大きな胸に顔をうずめるようにしながら背中に手をまわす。

 

「あっ……」

 灯の反応がなんとも可愛らしい。ともりも俺にゆっくり触れていて、その刺激が優しく伝わってくるのが分かる。

「うわ、こんなになるんだ。昔いっしょにお風呂入ったり、お医者さんごっこしてたんで見慣れていたつもりだけど……こんなのほんとに入るのかな……」

「多分……大丈夫だと思う。ゆっくり気持ち良くなると結構広がるって聞いたことがある」

「……広がる? もう、馬鹿っ!」


 じゃれ合いながら確認すると、もう彼女の受け入れ準備も大丈夫そうだ。

 そして……


「いたっ!」

「あっ、すまん。痛かったか?」

「ううん、大丈夫……でも今、ゆうちゃんが入っているんだよね。なんか不思議な感じ」

「ああ、俺もだ」

「うん……」


 俺には、こうして二人が一体になっている感覚がなんとも幸せで心地よいのだが、今日はお互いに初めてだし、これ以上、無理に続けなくてもいいだろうと思った。

 二人は、そのまましばらくベッドの上で、会話もなくボーっとしていたが、やがて灯が「シーツ、私ん家でこっそり洗ってくるね」といいながら身支度をし、隣にある自分の家に戻っていった。


 こうして、十七歳の夏休みのとある日。俺とともりは、幼なじみから、一段上のステップに進んだのだった。


 ◇◇◇


 俺、柏木かしわぎ 雄太ゆうた佐倉さくらともりは、絵に描いたような幼なじみだ。歳はともりのほうが学年一個下だが、生まれたときからずっと隣同志。幼稚園も小学校も中学校も高校もいっしょだ。ともりが小学一年生の時、灯のお父さんが病死した。その後、お母さんのあかりさんが働いて灯を養っているのだが、ともりが小学生の間は、あかりさんが仕事から帰るまで、灯を俺の家で預かっていたこともあって、それ以降、ほぼ兄妹同然で過ごしてきている。

 そんな状況なので、お風呂はともりが中学に入るまでいっしょだったし、もちろんおままごとやお医者さんごっこも一緒にやってきたクチで、何をいまさら恋人宣言したかという事なのだが……お互い中学生になったころから異性として意識しだし、そしてともりが高校に入学してから、お互いに異性として好きなんだということを自覚した。うちの両親もあかりさんも、昔から、俺とともりで、将来いっしょになっちまえというスタンスなのだが、高校生の身であまり派手な交際はどうかと思っていたところ、俺が所属していた剣道部が先月県大会で敗退し、三年生は引退。受験体制にはいって鬱々としていた俺を元気付けようとしたのか、ともりから「ちゃんと恋人になろうよ」と言い出してきた。それには異存はなかったし、大学に入ったら、ちゃんと結婚前提で付き合おうかとも考えていた事もあり、二つ返事でOKしたところ、ともりが「それじゃこの夏はロストバージンまで……」と言い出した。

 聞けば、チア部の周りの子たちが続々大人の仲間入りをしているそうで、すでに俺とともりの仲も、その仲間内で公認なのか知らないが、なんでまだ清いのかと、すごい勢いで突っ込まれているらしかった。まあ、あいつ、もともと負けず嫌いなとこあるしな……。

 とにかく、俺自身はちゃんと責任取る覚悟が出来ているので、据え膳喰わぬは……というわけではないが、この度めでたく童貞卒業した。まあ、だからといって、今後もあまり調子にのって、あまりはめをはずすつもりはないのだが……。


 ◇◇◇


「あー、ゆうくん。こんにちはー」

 余りに暑いので図書館で受験勉強してきた帰りの、とある八月の夕方、家の前で灯のお母さん、あかりさんに会った。この人も三十代半ばのはずなのだが、どう見てもともりの妹位にしか見えない小柄な合法ロリで、しかも巨乳の美女だ。俺の母親とは俺が生まれる前から、職場での先輩後輩の間柄の友人でもある。


「ねえねえ、ゆうくん。最近、ともりとなにか進展あった? なんかあの子の前であなたの話すると、ちょっとよそよそしいのよね―」

 うっ、するどいな。でも、親に隠れた交際をする気はさらさら無いので、ヤッちゃったことはボカしながらこう宣言した。

ともりとは、ちゃんと結婚を前提とした付き合いをしようということになりまして……。あ、ほんとマジで」


 その時だった。

 あかりさんの動きがピタっと止まったかと思ったら、眼からボロボロ涙がこぼれてきて焦った。

「えっ、あっ、おばさん。一体どうしたんですか?」

「ううん、ごめんね。あんまりにうれしくて……あの子、小さい時からお父さん無しで、私も仕事に懸命であんまりかまってあげられてなくって寂しい思いさせ続けていて、それでもあんなに快活で明るい子に育ってくれて、ほんとに君とご両親達には感謝してるんだけど、あの子にはやっぱり将来も本当に幸せになってほしくて……だからゆうくんみたいなしっかりした人がお嫁にもらってくれたら、私も安心して成仏できるだろうなーっていっつも思ってて……」と泣き声を殺しながら、わらわらと心情を説明してくれた。

「そんな、成仏とか縁起でもない。でも、お気持ちありがとうございます。ちゃんとあかりおかあさんにも恥ずかしくない様な交際をしますので」

「うんうん、大丈夫だよ。私もあの子産んだの十九の時だし。今時の高校生なら、多少暴走してもそんなに悪目立ちしないって!」

「いや。はあ……そんなものでしょうか」

 そう言いながら、その場はあかりさんと別れた。


 そしてその夜、ともりからRINEが入った。

「お母さんにちゃんと説明してくれたんだ。ありがと! これで親公認だし、またエッチしようね♡」

 いやいや……でもまんざらでもないか。

 仕方ない。自分の両親にもちゃんと宣言しておくか。




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