第18話 転校生
松沢小学校三年生のクラスに、転校生の吉田くんがやって来た。
いつもなら担任の先生が、新学期の朝に紹介するのだけれど、その時は何故だか黒板に「転校生の吉田くんです。みなさんなかよくしましょう」と書いてあるだけで、先生はいなかった。
しばらくすると先生がやってきて、吉田くんを紹介した。
吉田くんは紹介されると立ち上がり、あいさつをした。
「前のぉ~ 学校のぉ~」
吉田くんがこう切り出すと、クラス内はざわついた。
バリバリの関西弁だったのだ。
私もとなりに岩手のゆきおくんは住んでいたものの、今回の吉田くんのような関西の言葉を直に聞いたのはこの時がはじめてだった。今でも歳を取っただけで同じだが、クラス内でも何か面白いことがあるとはしゃぐ方だったので、人一倍反応した。
吉田くんはクラスの反応を聞いて、びっくりしていた。
そりゃそうだろう。今まで使ってきた言葉を話しただけで、こんな風になってしまうなんて、小学校三年生には理解できないはずだ。
一言目の反応はこんなだったけれど、やがてお互いに馴染んできて、吉田くんはクラスに溶け込むことができた。吉田くんがいじめられることはなかった。
子供は素直なのだ。
今はこのような事はいけないと教育がされているだろうから、こんな風な反応はないのだろうけれど、50年以上が経過した今でも、吉田くんの第一声、
「前のぉ~ 学校のぉ~」
を、ハッキリと覚えている。
小さい ぉ にアクセントがある。
東京弁は頭が強い場合が多い。
ビートたけし 「なんだこのやろう」は、な にアクセント。
今の私 「なんだっ、このぉ~」は、だ にアクセント。
日本語も奥が深い。
おあとがよろしいようで。
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