第15話 中山ルリ子先生への反逆


 松沢小学校三年生の頃、音楽の授業は別の先生が行っていた。


 中山ルリ子先生だった。


 私は自分で言うのもなんだけれど、歌はそこそこ歌えたし、リコーダーもクラスの中では上手な方だったと思う。


 「ふくしま、お前は上手いね」


 テストの時、中山先生に何度か言われたことがある。



 音楽祭だか何だかの出しもので、学年全体で「おばけなんてないさ」を歌うことになった。


 体育館に集まり、中山ルリ子先生指導の元、学年全体での練習があった。


 「おばけなんてないさ」は、ルリ子先生によって、少し編曲がなされていた。


 だけどちょっとだけどちょっと が合計で三度繰り返され、ぼくだってこわいな の所でフェルマータする感じの編曲だった。


 合唱でテノールだったので、私の歌うメロディーは旋律ではなく、ぼくだって から半音ずつ上がるような、おばけなんてないさ、ならではの気味の悪いものだった。


 何がきっかけだったかは忘れてしまったけれど、私は指導方法に異議を唱え、突然暴れ出した。


 何人かの同級生が賛同した。


 暴れると言っても暴力ではない。体育館に持って行ったオレンジの防災頭巾に、マジックで「ブリ子死ね!」などと書きなぐって、それを掲げながら主張を繰り返した。本当に何に対して怒ってしまったのだかは覚えていないのだが、反逆したことだけはハッキリと覚えている。


「言う事を聞かない生徒は放っておきましょう」


 中山先生はそう言いながら、合唱の指導を続けた。


 買ったばかりのオレンジの防災頭巾は、マジックで真っ黒になってしまった。縫製が得意な母にお願いして、白と青のチェック柄の布でカバーを作ってもらい、それを使い続けた。


 今の時代でいうなら、これは逆パワハラと言われても仕方がない。どうしてここまで暴れてしまったのか、その理由が思い出せないのも自分では辛い。


 おばけなんてないさ、の私のパートは、今でも覚えていて、歌うことができる。中山ルリ子先生に申し訳ないことをしたと、50年後の今、こうしてこの場で謝罪を申し上げたい。


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