第12話 行きたい

 赤堤を引き払ってからも、何度か友人の家に行ったり、近くの親戚の家に行ったりはしていた。


 しかし、これも引っ越してから数年の間。


 今ではどうなっているのか、その後は足を運ぶこともなく、40年近くが経過してしまった。


 京王線で行き、下高井戸から玉電にでも乗って松原で降りて、ゆっくりと探索でもしたいなと思うことが何度かあったが、身辺がいつも慌ただしく、気持ちに余裕もなく、そしてとどめにお金もなく、長い間実行に移されていない。


 コロナの規制が厳しくなる少し前位に、自家用車で実家に帰った。


 カミサンと帰る時には彼女の手前もあり全高で帰るのだが、この時は節約モードだったので、はじめて前下、全て下道で帰った。


 国道4号線が日光街道と呼ばれるあたりになり、環状八号線との交差点を右折して、やがて国道20号線、ROUTE 20 甲州街道に入る。


 運転手の性なのか、この時は朝の5時前位に甲州街道の下高井戸付近を通過した。週末土曜日の朝5時はグッドタイミング。かつてのボーリング場横を抜け、松沢小学校に入る道に入ろうかと一瞬考えたが、その後の予定が詰まっていたし、睡眠時間を確保する必要もあったので、やめた。


 今度行くときには、寄ってみようかなと思っている。


 でも、やっぱり車ではなく、実際に足で歩いてみたい。


 この足も、いつまで動いてくれるのか、わからない。


 そして、時間も、お金も、精神的な余裕も、今の私にはまったくない。


 死ぬまでに一度、ゆっくりと歩いてみたいと思っているが、どうだろう、無理かもしれない。



 毎日の生活に、気持ちとおかねの余裕が欲しい。




 

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