第11話 米屋
同じブロックの北の角、二件隣に米屋があった。
米屋なので米を売っているのは当然で、店内で精米をして、袋に詰めて販売していた。
私は米などには興味はなく、その片隅で販売されていたお菓子やおもちゃ、はたまた外のアイスと販売機のファンタやコーラなどに興味があり、時々小遣いでこれらのお菓子などを買い求めていた。
米屋では、ネズミ対策でねこを飼っており、そのねこが二件隣の我が家にも遊びに来ていた。クリーム色をしており、まるまると太ったオス。私と姉で「チビ」と名前を付けてかわいがっていた。
母親は家の中で裁縫の仕事をしていた関係で、ねこは飼えないと言われ、ショックだった。でも、チビは時々我が家の中に入ってきた。
いつかなどは、綺麗な障子を突き破って入ってきたので驚いた。
私と姉は、このチビにとんでもないいたずらをしてしまった。まだ幼稚園に入ったか、小学校低学年か位の頃だったと思う。
私と姉は、ねこであるチビのヒゲをハサミで切りそろえた。
何もわからない子供の遊びだった。
少しして米屋に行くと、米屋のオヤジが怖い顔をして私に言った。
「お前、うちのねこのヒゲを切っただろ。ネズミが獲れなくなって困ってるんだぞ。今度からは絶対にしないでくれよな」
「はい」
まだ小さかったので、米屋のねこが店の中のねずみを獲るために飼われているなんてことは、これっぽっちも知らない。
米屋の大将は怖い顔をして、かなり強い口調で窘められたので、はっきりと覚えている。店はなくなってしまったようだが、大変申し訳ないことをしたと50年後の今、猛烈に反省している。
この米屋では、あと、どこから仕入れてきたのか、季節になると、外の玄関先に置かれた「たらい」いっぱいにおたまじゃくしが泳いでいて、ねこのヒゲを切って怒られた主人の嫁が、「好きなだけ持って行っていいわよ」と言って、おたまじゃくしを子供に振る舞っていた。もちろん、家から洗面器を持ってきて、このおたまじゃくしをいただき、家の庭で飼っていた。
足が生えてきて、やがて小さなカエルになって、どこかへ行ってしまったと思うのだが、最後はよく覚えていない。
結婚して、カミサンにこの話をしたら、大笑いされた。
申し訳なかったと、こうやって反省している。
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