第36話 異世界

「ねえ、愛羅。気分転換にお出かけしない?」

最初は断ろうと思いましたが、彼女の悲しそうな表情を見たら断ることが出来ませんでした。

仕方なく了承すると、彼女は嬉しそうに微笑んでくれました。

そして、私をある場所に連れて行ってくれたのです。

そこは森の中にある小さな湖でした。

透き通った水面には青空と雲が映し出され、とても美しい景色が広がっていました。

私は思わず見惚れてしまい、言葉を失ってしまいました。

そんな私を見て、女性は微笑みながら言いました。

「どう? 綺麗でしょ? ここは私のお気に入りの場所なんだ」

その言葉に私は頷きました。

確かにこの場所は素晴らしい場所だと思いましたから……でも同時に不安も感じていました。

何故ならば、この場所にいると心が安らぐと同時に不思議な気持ちになるからです。

「ねえ、愛羅。今日はここでゆっくり過ごそう? 二人で一緒にさ」

そう言って彼女は私の手を取りました。

その瞬間、私の中で何かが弾けるような音がしました。

それはまるで鍵が開いたかのような感覚でした。

それと同時に私の脳裏にある映像が流れ込んできました。

それは、私が今まで経験したことのない記憶でした。

(これは……何……?)

私は混乱していましたが、それでも必死に思い出そうとしました。

そして一つの結論に至りました。

私はこの場所で誰かと会っていたのです。

しかし誰と会ったのか思い出せませんでした。

ただ一つだけ言えることは、その人物は私にとって大切な人だったということだけです。

そんなことを考えているうちに、徐々に記憶が蘇ってきました。

そうです!

あの時に出会ったのは彼女だったのだと理解しました。

ですが何故忘れていたのでしょうか?

それだけではありません。

「白崎愛羅、あなたは何者なのですか?」

私は彼女に問いかけました。

そうすると彼女は笑顔で答えてくれました。

「私はあなたの恋人だよ」

その瞬間、私の頭の中に記憶が次々と浮かび上がってきました。

それは私が忘れていたはずの思い出でした。

彼女との出会いや別れ、そして彼女が私に残した最後の言葉まで鮮明に蘇ってきました。

その途端、涙が溢れてきて止まりませんでした。

そんな私を優しく抱きしめてくれた女性は、耳元で囁きかけてくれました。

「おかえり、愛羅」

それからしばらくして落ち着きを取り戻した頃、私達は家路につきました。

帰る途中もずっと手を繋いで歩いていましたが、不思議と気まずさはありませんでした。

むしろ安心感さえ感じていたのです。

まるで昔からの知り合いのように感じていましたが、何故なのか思い出せません。

「あの、すみません。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

私は意を決して彼女に尋ねました。

そうすると彼女は笑顔で頷いてくれました。

「うん、いいよ」

と言ってくれたので、私は思い切って聞いてみることにしました。

それは、私が何者なのかということです。

白崎愛羅という名前は本名ですが、それ以外のことは何も分かりませんでした。

何故こんな場所にいるのかも分からないのです。

「だから教えてくださいませんか?あなたのことを……」

そう尋ねると、彼女は少し困ったような表情をしていましたが、やがて静かに口を開きました。

「そうだね……まずは何から話そうかな……」

そう言って考え込む仕草を見せる彼女を見て、私は不安になりましたが、

すぐに顔を上げて答えてくれました。

どうやら話す決心がついたようです。

そして彼女が口にした言葉は意外なものでした。

「えっとね、実は私は元々この世界の人間じゃないんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり固まってしまいました。

しかし、次の瞬間には冷静さを取り戻していました。

なぜなら彼女の表情を見れば嘘を言っているようには見えなかったからです。

私は彼女に確認するように尋ねました。

「……それはどういう意味ですか?」

そう聞くと、彼女は丁寧に説明を始めました。

まず第一にこの世界は私が元いた世界とは別の世界で、いわゆる異世界ということになります。

そして彼女の本名は白崎天音といい、私と同じ日本人だと言います。

年齢は20歳で、大学生をやりながら小説家を目指しているのだそうです。

なるほど、それで先ほど見せた知識量の多さに納得できました。

「ちなみに、どうやってここに来たのかは分からないの?」

と聞かれましたが、残念ながら覚えていませんでした。

気がついたら森の中にいたというような感じでしょうか?

とにかく何も思い出せないのです。

記憶喪失というやつでしょうか?

自分でもよく分かりませんでしたが、なぜか彼女に嘘をついてはいけないような気がしたので正直に話すことにしました。

そうすると彼女は、優しい微笑みを浮かべながら言いました。

その笑顔を見た瞬間、ドキッとした感覚が身体中を駆け巡ります。

それは初めての体験でした。

なぜ胸が高鳴るのか分かりませんでしたが、嫌な気分ではありませんでした。むしろ心地よいものでした。

(なんだろう、この気持ち……?)

戸惑いつつも彼女の話を聞き続けます。

「そっか、じゃあまずはこの世界のことを教えるね」

と言って、この世界のことについて教えてくれました。

まず最初に教えられたのは魔法についてでした。

この世界には魔術というものが存在していて、

魔力と呼ばれる力を使って様々な現象を引き起こすことが出来るそうです。

例えば火の玉を放ったり、風を巻き起こしたりすることができますし、傷を癒すこともできます。

他にも天候を変えたりすることも出来るみたいです。

他にも色々な種類の魔術があるみたいでした。

私は目を輝かせて聞いていましたが、同時に恐ろしさも感じていました。

もしも魔力を使い果たしたりしたらどうなるのか心配になったからです。

そんなことを考えていた時、不意に声を掛けられました。

振り向くとそこには複数人の美少女が立っていました。

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