第33話 目的地

しかし、そう簡単に事は運びませんでした。

何故なら彼女の母であるエルネシアに協力を頼んだものの断られてしまったからです。

なんでも危険すぎるとの理由でした。

それでも引き下がるわけにはいかなかった私はどうにか説得を試みようと思ったのですが、思うようにいかず半ば諦めかけていました。

そんな時に助けてくれたのが彼女でした。

なんとアレシアの方から母さんを説得してくれたのです。

もうこれ以上黙っているわけにはいかないと思った私は覚悟を決めることにしたのです。

さて、うまくいけば良いんだけど……そう思いつつ翌朝を迎えると、当然村の代表達に怪しまれてしまった為にその場でばらすことにしました。

うん、その方が後々面倒にならないからね!

ということで、噓偽らずすべてを話したうえで協力をお願いすることにして、

「でも、こんな私が言うことなんてやっぱり信用してくれないよね」

って、いうと、皆少し困りながらも、笑顔に戻ってくれました。

(あ、やっぱり笑った方が可愛いね)

それから皆と一緒に、将来の目標についての計画を練ることになるのだけど、まずは皆のスタンスが大事なのだと思いました。

だからこそ私がまず最初の一歩を踏み出していこうということで、村の方に話してみることにしました。

「すみません、少しお話よろしいでしょうか?」

と声をかけてみると、ちょっと渋い顔をしている人達や、汚物を見るような目で睨んでくる方もいましたが、

無視して話を切り出してみました。

「実は皆もわかっているだろうけど、水がない場所に住んでいる以上……私たちは決して豊かな生活ができないことを心にしっかりと刻んでおいて欲しいです。

それでも救いなのはまだ希望はあるということなの

「そうそう、この蜂蜜はとても栄養価が高くて疲労回復にもいいそうですよー」

などと聞かされると、

「わーい、お菓子がいっぱい……」

などと答えていた。

私は、そのお菓子のおいてあるテーブルを眺めて、涎を垂らしながらも、こっそり拝借してみたりした。

もちろん後でいただくためで、別に泥棒をしたいわけではないのだが、誘惑に負けてしまったせいだ。

そんな私を、温かく咎めずにいてくれる。

アレシアの存在がまるで神様のように見えてしまい、思わず拝みたくなったほどだ。

だが、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。

突然、私達のいる部屋に誰かが入ってきたのだ。

その人物こそ、この村を統治している村長だった。

彼は険しい表情でこちらに近づいてくると、こう言ってきたのだ。

「君たちは一体何をしているのだ?」

私は、慌てて言い訳をしようとしたのだが、上手く言葉が出てこない。

すると、代わりにアレシアが答えてくれた。

「私達はただお菓子を食べていただけですよ」

と平然と答える彼女に対して、村長は呆れた様子で溜息をつくと、続けてこう言ったのだ。

「いいかい? 君達は今置かれている状況を理解しているのか? この村の食料事情は非常に厳しい状況にあることは知っているだろう?」

そう言われると、確かにその通りだと思ったので素直に頷いておいた。

だが、それでも納得できない点があったので尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきたのである。

それは……なんと私達に救いの手を差し伸べてくれるという提案だった。

これには驚きつつも感謝の気持ちでいっぱいになった私だったが、同時に疑問も湧いてきたため質問してみたところ、

彼はこう答えたのだ。

「実は、君たちに頼みたいことがあるんだ」

そう言われて、私は思わず身構えてしまった。

一体何を頼まれるのかと不安になったからだ。

だが、そんな心配をよそに彼は意外な言葉を口にしてきたのである。

それは、私達がこれから向かう場所に同行して欲しいという内容だった。

なぜそんなことを頼むのか不思議に思ったのだが、詳しい話を聞いてみると納得がいった。

どうやらその目的地というのはこの村から少し離れた場所にあるらしく、そこに向かうためにはどうしても護衛が必要らしいのだ。

しかし、この村の自警団だけでは心許ないため、腕の立つ冒険者を雇うことにしたのだという。

そこで白羽の矢が立ったのが私達ということらしいのだ。

もちろん断る理由もなかったし、むしろ渡りに船だったので二つ返事で引き受けることにしたのだった。

「それで、その目的地というのはどこなのですか?」

と聞くと、村長は地図を広げて指差しながら説明してくれた。

その場所とは、この村から北の方角にある山岳地帯らしい。

険しい山道が続いているため、あまり人が立ち寄らない場所のようだが、

そこに自生している薬草がとても貴重なものらしく、どうしても手に入れたいのだという。

しかし、そこまでの道程が非常に険しく危険であるため、誰も近づかないというのが現状なのだそうだ。

その話を聞いた私は、ある疑問を抱いた。

(あれ? それって私達が行く必要あるのかな?)

と思ったのだ。

というのも、この村には腕の立つ冒険者がいるはずであり、

わざわざ私達を雇う必要はないのではないかと思ったからである。

だが、村長は首を横に振って答えたのだ。

どうやら事情があるらしく、詳しい話は聞けなかったようだが、

とにかく困っているようなので協力することにしたのである。

それに報酬も出るというし、悪い条件ではなかったからだ。

こうして私達は目的地に向かうことになった。

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