第28話 祭壇

まず、先程の戦闘で負った腕の傷が跡形もなく消えていること、

そして、失ったはずの腕が生えてきているのだ。

しかも、白くて自分がよく知っている見慣れたものが生えているではないのです。

これはまさしく私の翼によく似ている!

そう理解した瞬間、すぐに確信したのである。

今私が置かれている状況について……。

そうだ、私は、人間を辞めてしまったのだ、と。

それからしばらくして、私の身体は、人間から天使に変わっていった。

最初は少し戸惑ったが、今ではすっかり慣れて普通に生活しているくらいであった。

そんなある日、いつものように町中を歩いていると、

偶然通りかかった人物と目が合い、声をかけられたのである。

その人は、旅芸人で旅を続けながらも色々な国を渡り歩いているのだそうだ。

そこで、この国に滞在している時に私の噂を聞きつけて訪ねて来たのだそうだ。

そして、私の正体を知っているにもかかわらず、何も聞かずに普通に接してくれたことが嬉しかったため、

ついつい話し込んでしまったのである。

そんな時、ふとある疑問が浮かんだので聞いてみたところ、彼女は快く教えてくれたのだった。

彼女曰く、自分は本物の天使ではなく偽物の天使らしいのだ。

本物は、もっと大きくて美しい翼を持っているそうだが、今の私にはそんな立派なものはない。

それどころか、魔力が全くないのだという。

なので、今こうして存在していること自体が奇跡に近いのだと言われた時は驚いたものだ。

だが同時に納得もしていた自分がいたのも事実であった。

何故なら、この身体になってからというもの普通の人間とは違う何かを常に感じていたからだ。

それが何なのか分からなかったが、恐らくその正体こそが魔力だったのだろうと今では思っている。

そんなことを考えていたその時、突然頭の中に声が響いたのである。

(マスターの精神状態が不安定です! 落ち着いてください!)

(え? 何? 誰の声なの?  一体どうなっているの?)

混乱する頭を必死に抑えながら声のする方に目を向けるとそこには光の塊のようなものがあったのだった。

(一体何が起きたの!? 助けて!)

と言ったものの、やはり誰にも届くことなく私は意識を失ってしまった。

次に目を覚ました時、私はベッドの上で寝かされていた。

どうやら気を失っていた間に誰かに助け出されたらしいのだが、一体誰が助けてくれたのか気になるところだ。

だが今はそれよりも自分の身体の変化の方が気になっていたので、まず最初に確認したことは……、やはりあの翼だった。

どう見ても人間には見えないのだから、周りから見れば頭のおかしい人間にしか見えないだろうし、

下手をすれば迫害の対象になる可能性だってあるだろうと思ったのだ。

幸いにも、私は人間の言葉も理解できるし、読み書きや計算も問題なく出来るようになっていたので、

生活する分には困ることはないと思うのだが……。

それでも不安は尽きないものだ。

またいつ暴走してしまうか分からないのだから、自分自身が恐ろしく思えてきたその時、

突然頭の中で声が響いてきたのだ。

それは紛れもなく自分自身の声だった。

(マスター、ご心配には及びません。私が常に側におりますので)

その言葉を聞いて安心した私は、この力を制御することが出来るようになろうと決めたのである。

そして、それと同時にある決意を固めるのだった。

もう二度と暴走しないようにすることと、一刻も早く元の身体に戻れるように努力することを……。

その後も休むことなく鍛錬を続けた結果、何とか自分でも制御出来るようになったところで一息つくことにしたのである。

そして翌日からは本格的に調査を行うことになったのだが、未だに手掛かりすら掴めずにいたのである。

しかし諦めるわけにはいかなかったので、引き続き調査を続けることになったのだった。

あれから数ヶ月が経過したある日のこと、ようやく手がかりを見つけることに成功したのだ。

その情報とは、古代遺跡の情報でその場所は遥か東にあるとのことだったのだ。

早速その場所に向かうことにした私だったが、途中立ち寄った町で思わぬ出会いをすることになるとは思いもしなかったのである。

それは、この町で暮らしている旅人のような風貌をした青年に出会ったからだ。

彼女は私のことをじろじろと見てきた後、こんなことを言ってきたのだ。

「あんた、珍しい格好をしているんだな」

と言いながら興味深そうに見てくるので私はどうして良いかわからずにいると、更に話しかけてきたのだった。

彼女の言葉を聞く限り、どうやら異世界人のようだと判断した私は警戒を強めたのだが、

次の瞬間思いがけないことを言われて固まってしまったのである。

何と彼女は私に弟子入りさせてくれと言ってきたのである。

私は戸惑っていたが、とりあえず話を聞いてみることにしたのだった。

その提案には彼女も驚いていたが、何故か嬉しそうでもあったのだ。

理由を聞いてみると、どうやら彼女も旅の途中だったらしいのだが、

この辺りは初めてらしく不安になっていたところに私と出会ったことで安心したらしいのだ。

そして、一人で旅をすることに限界を感じていたところなのだという……。

正直言って断ろうと思ったものの、彼女の熱意に負けてしまい結局引き受けることになってしまったのであった。

こうして二人旅が始まったわけだが、次第に彼女とも打ち解けてきていったところで、

ついに目的地に到着することができたのである。

「ようやく着いたな」

と呟くと、隣にいた彼女も頷いた後で私にこう言ったのだ。

「ええ、そうね……ってあれ? ひょっとしてあんたもあの遺跡に行くつもりなのかい?」

まさか自分と同じ目的を持っているとは思わなくてつい聞き返すと、彼女はニヤリと笑いながら答えてくれたのである。

どうやら彼女の方も私と同じようにあの遺跡に隠された秘密を解き明かすつもりだったらしい。

だからこそ一緒に行動しようという提案をしてきたのだと理解した私は快く承諾することにしたのだった。

そして、私たちは揃って古代遺跡へと足を踏み入れたのである。

中は薄暗くジメジメしていて埃っぽかったが、

通路の奥に進むにつれて徐々に明かりが灯るようになっていったのだ。

そんな中を慎重に進んでいるうちに、やがて広い空間に出ることになったのだが、

そこで私たちを待っていたものは予想外のものだったのだ……。

「これは、祭壇?」

思わず口に出てしまった私の言葉を聞いて彼女も周囲を見渡した後で私に尋ねてきた。

「もしかして、これのこと?」

と、彼女が指差した先にあったのは、円形の台座のようなものであった。

そしてその中心には何やら球体のような物が埋まっているようであったが、

その表面はまるで生きているかのように脈動しており、時々脈打つような動きを見せていたのだ。

そんな奇妙な光景を目にした私たちはしばらくの間言葉を失ってしまったものの、

このままでは埒が明かないのでとりあえず調べてみることにしたのだが、その瞬間!

突如として私たちに襲いかかったものがあったのである。

それは今まで感じたことのない強烈な痛みだった!

あまりの衝撃に意識を失いかけたものの何とか耐え抜いた私たちは、改めて周囲を

見渡すといつの間にか無数の触手のようなものが地面から生えてきていたことに気がついてしまったのだ。

しかも、それらは意思を持っているかのように動いているではないか!

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