第26話 目覚めと戦闘と私

それは、自分の身体のことである。

いつの間にか、セーラー服ではなく真っ白なワンピースを着用していた。

いつの間に着替えたのだろうかと思い不思議に思っていると、声が聞こえてきたのだ。

再び声が聞こえてくる。

しかし、今度は何を言っているのか分からなかったので聞き流すことにしたのだ。

そこでふとあることに気づく。

自分の体が自由に動くことに驚きつつも嬉しくなった私は、色々なことを試してみることにしたのだ。

まずは飛び跳ねてみることにすると、何と軽々飛び上がることが出来たのである。

まるで空絶望的な状況の中、それでも尚も諦めずに抵抗を続けているようだが

無駄な努力であることは彼女自身がよくわかっているはずだ。

だからこそこんな行動に出たのだろうと推測できるが、

それを理解できたところで後の祭りだった。

こうなってしまってはどうすることもできないのだから受け入れるしかないのだから……。

そして遂に、体力が切れたのか彼女は崩れ落ちるように倒れた。

それと同時に意識を失った彼女だったが、その表情は何故か微笑んでいるように見えたのだった。

(あれ? 私は一体どうしたのだろう……?)

朦朧とした意識の中、目を開けるとそこは見慣れた部屋だった。

どうやらベッドから起き上がろうとしているようだが、力が入らず動くことすらできなかったのだ。

そこでようやく自分が風邪を引いていることに気づいたのである。

(ああ……そうか、私体調を崩して寝ていたんだっけ……?)

そう思い至った瞬間、私は再び深い眠りへと落ちていったのだった。

(ここは、どこ?)

目を覚ました私だったが、自分がどこにいるのか分からなかった。

(確か私は、魔王を倒すために旅立ったはずだけど……。

それなのにどうしてこんなところにいるんだろう……?)

そんなことを考えているうちに意識がはっきりしてきたので周りを見回すと、どうやら洞窟の中のようだった。

何故こんなところにいるのか分からず困惑していると、声をかけられたのだった。

「あら、目が覚めたのね?」

そう言って近づいてきたのは美しい女性だった。

その女性は私を見るなり安心した様子を見せた後、話しかけてきたのだ。

「良かったわ、無事に目が覚めてくれて」

そう言って微笑む姿は女神のようだったが、なぜか違和感を感じた私は警戒しながら尋ねたのである。

「貴方は誰なんですか? ここはどこなんですか?」

そう聞くと彼女は微笑みながら答えた。

「そういえば自己紹介がまだだったわね」

彼女は微笑みながらこう言ったのだ。

「私の名前はルミィ、このダンジョンを管理している者よ」

それを聞いて驚いたものの、同時に納得もできた。

(なるほど、だからこんな場所にいるんだな)

と思ったからである。

しかし、ここで新たな疑問が生まれたので思い切って聞いてみることにした。

それは、彼女が人間ではないと感じたからだ。

というのも、彼女の背中には蝙蝠のような翼が生えていたのだから……。

私は少し怯えたような表情をしながら尋ねたのだった。

「あの、失礼ですが貴方は何者なんですか?」

と……すると彼女は微笑みながら答えたのである。

「ふふっ、大丈夫よ? 別に取って食べたりはしないわ」

笑いながら言う彼女に警戒しながらも続けて質問してみたのだ。

「では一体どういう目的で私をここに連れてきたのですか?」

と言うと、彼女は笑いながら答えてくれたのだった。

「あら? そんなの決まっているじゃない……貴女が欲しかったからよ」

そう言われて私は思わず身震いしてしまった。

何故なら、彼女の目が獲物を狙う肉食獣のような目をしていたからだ。

私は怖くなって逃げようとしたのだが、身体が動かないことに気がついたのだ。

どうやら彼女が何らかの力で私を拘束しているらしかった。

私は恐怖に震えながらも必死に抵抗を続けたものの、結局は無駄な努力に終わったのだった。

その後、どうなったのかは分からないが次に意識を取り戻した時、

そこは見慣れない場所だったことだけは確かである。

そして目の前には微笑みを浮かべた美しい女性の姿があったのである。

その女性は、私を見ると微笑みながら声をかけてきたのだ。

「あら? もう起きたの?」

と言いながら近づいてくる彼女に対して警戒していると、彼女はクスクス笑いながら言ったのだ。

「安心していいわよ? 別に取って食べたりはしないわよ」

そう言ってまたクスッと笑う彼女に少し拍子抜けしたような感じだったが、それでも安心できないので尋ねたのだった。

「では一体どういう目的で私を連れてきたのですか?」

それを聞いた瞬間、彼女はニヤリと笑ったかと思うと、とんでもないことを言い出したのである。

「ふふふっ、簡単なことよ? 私が貴女のことを気に入ったから、貴女を攫ってきたのよ」

と満面の笑みを浮かべながら言う彼女に対して、恐怖を感じた私は逃げようとしたのだが、

やはり身体が動かないことに気がついたのだった。

怯えた表情を浮かべる私を見ながら彼女は続けたのである。

「別に取って食べるわけじゃないから安心してちょうだい?

それに、私は貴女のことが好きなのよ」

と言いながら抱きついてきたと思ったら、そのままキスをしてきたのだ。

(ちょ、ちょっと待ってください、いきなりこんなことされても困ります!)

などと思いながらもどうすることもできずに受け入れるしかなかった私だったのだが、

やがて唇を離したかと思うと、再び笑みを浮かべた。

そして今度は耳元で囁いたのである。

「貴女の身体、私が綺麗にしてあげるからね」

その言葉を聞いた瞬間、全身が粟立ったような気がした。

間違いない、この人は危険だと本能が告げていたのだ。

だが、私にはどうすることもできなかったのである。

そこから先はまるで悪夢のようだった。

抵抗することも許されず、彼女の好きにされるがままになっていたからだ。

最初は手脚を切り落とされるのではないかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしく、

その代わりに全身をマッサージし始めたのである。

最初は緊張していたためか気持ち良くはなかったのだが、

段々と身体がリラックスしてきたことで徐々に快感を感じるようになっていき、

遂には自分から求めてしまっていたのだった。

翌朝目が覚めると私はベッドの上で横たわっていたのだ。

どうやらあれは夢だったらしいと思いながら起き上がると、

目の前には既に朝食が用意されていたことにびっくりしたものの、とりあえず食べることにしたのだ。

その後身支度を整えて部屋を出て行くことになったのだが、その際、ルティアが声をかけてくれたのだ。

「ふふっ、よく眠れたかしら?」

そう言われて私は笑顔で答えた。

「はい、とても気持ちよく眠ることができました」

と答えると、ルティアは微笑み返してくれたので、

私はそのまま次の部屋へと向かって行くことになった。

部屋に入って最初に目に飛び込んできた光景は、だだっ広い空間のあちこちで、

人々が倒れている異様な光景であった。

(何だこれは……一体どうなっているというんだ)

思わず立ち尽くしていると、背後から声をかけられた。

振り返るとそこにいたのはルティアとよく似た女性であった。

彼女は私に微笑みかけながら言ったのである。

「あら、来てくれたんですね。嬉しいわ」

と言うと、私の手を取ったかと思うと、強引に引っ張りはじめた。

突然のことだったので驚いていると、彼女は笑いながら答えたのだった。

ルティアによると、どうやらこの部屋はダンジョンの最下層であり、

目の前に倒れている人達は、このダンジョンの最終ボスを倒した者たちなのだそうだ。

そして、倒した者だけが、彼女の加護を手に入れて、転移特典を得られ、街に戻って来れるらしいのだ。

今、この部屋に入ることができているのは私だけで、しかもその最後のボスを私に倒させているつもりらしく、

出るに出られない状況なのだった。

だから仕方なくここで待っているしかないのだ。

そんなことを考えながら、目の前で倒れている人物達を眺めていた時、

突然頭の中に声が聞こえてきたかと思うと、目の前にメッセージが現れた。

(おめでとうございます! 貴方のスキルが強化されます)

突然頭の中に聞こえてきた声に戸惑いつつも、私はメッセージの内容を読み始めた。

そうするとそこには、こんな言葉が記されていたのである。

スキルの強化が完了しました。

(身体強化)→(物理無効)→(魔法無効)

(絶対障壁)→(絶対領域)→(空間転移)

という具合で、とんでもないことになっていたのだが、

どうやらこれらのスキルを私に対して使うことで、私を弱体化させることができるということがわかったのだ。

つまり、このアナウンスを聞くことで、自分が強くなったことが確認できたということでもあるらしい。

まあ、だからと言って特にどうというわけではないのだが、とりあえず今できることをやろうと思い、

歩き出すことにした。

幸い、この辺りは人が少なかったので、思う存分戦うことができそうだったので、

ちょうど良かったのである。

そして早速遭遇した魔物との戦いが始まることになったが、とりあえずどんな戦い方をすればいいのか考えることにした。

まずはいつものように攻撃してみることにしたが、全く効かない上、身体が重くなったような感じがするので、

物理無効で強制的に食い止めようとしていることがわかった。

しかし、それでも相手の攻撃を止めることができずに傷を負ってしまったため、

一旦距離を取って魔法で応戦することにしたのだ。

しかし、いくら魔法を打っても効かなかったのだ。

その後も色々と試したものの、結局攻撃を防ぐことはできず、

相手の攻撃を受け続けることになったのである。

段々と意識が遠のいて行っているのを感じる中、薄れゆく意識の中で、私はある言葉を思い出していたのだった。

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