第7話*恋か――。
*蒼視点
「あっ……」
そう言いながら優香ちゃんは顔を逆側に向けた。明らかな拒否反応だ。
今、無意識に優香ちゃんの顔に自分の顔を近づけていた……。俺は何をしようとしてるんだ。優香ちゃんを怖がらせてしまった。
「ご、ごめん」
「う、うん。大丈夫」
優香ちゃんの表情は大丈夫そうではない。
ちょっと気まずい空気が流れていたけれど、少し経つと優香ちゃんのおばあさんがこっちにやってきた。
「ゆう、足湯気持ちいかい?」
「うん。ばあちゃんも入ってみな?」
「長いズボン履いてるけど大丈夫かな?」
優香ちゃんのおばあさんが首を傾げている。優香ちゃんは自分の足を持ってきていたタオルで拭くと、おばあさんの足元にしゃがんだ。そして「こうしたらいいよ」と言いながらズボンを折ってあげていた。
優香ちゃんは柔らかい表情になっていて、俺は安堵する。
「はい、出来た!」
「ゆう、ありがとね」
おばあさんがお湯に足を入れると、それを確認した優香ちゃんも再び足を入れた。
「ゆう、これ気持ちいいね」
「でしょ? 今日来てよかったね。また来ようね!」
満面な笑みでおばあさんを見つめる優香ちゃん。咲良に対してもだけど、この子は誰にでも優しいんだな。
その笑みを、俺にも向けて欲しい――。
***
帰り道。
優香ちゃんを家まで送ったあとも、もっと一緒にいたかった。おばあさんは先に家に入っていく。
「今日はありがとう、またね」
「優香ちゃん……」
優香ちゃんが家に入る直前に、呼び止めてみたけれど。特に何も話すことは無いから「じゃあ、また」と、彼女に背を向けた。
「あ、そうだ! ちょっと、玄関で待ってて?」と後ろから声がして再び振り向いた。玄関に入って待っている間、白くて小さな犬が足元に来て、クンクンと俺の足の匂いを嗅ぎだす。
この犬、優香ちゃんみたいに白くて顔立ちがはっきりしていて、可愛いな。
犬の頭を撫でていると、ピンクのリボンで入口が結ばれている、水色の小さな袋を持って優香ちゃんは戻ってきた。
「あのね、これ、プレゼント。ひょう花に連れていってくれたお礼」
「お礼なんて……」
「こういうの、迷惑だったかな? ごめんね」
うつむく優香ちゃん。
「……いや、ありがとう」
優香ちゃんからのプレゼント、迷惑なわけがない。嬉しすぎる。
「本当にありがとう。じゃあまた」
「うん、こっちこそありがとう! ばいばい」
「あ、あの優香ちゃん! また一緒にひょう花に行きたい」
「うん」
優香ちゃんは笑顔でうなずいてくれた。
「じゃ、ばいばい」
「帰り道、気をつけてね!」
また一緒に足湯入れることと、プレゼントの嬉しさで、自分の笑顔が鳴り止まない。
帰りにプレゼントの中を覗くと、チーズ味のスナック菓子ふたつとひんやりする飴、咲良の好きなグミが入っていた。
このスナック菓子の小袋は、こないだ食品表示の欄を店で読んでたやつだ。
ひとりになると、ひょう花で過ごした時間を思い出す。優香ちゃんは足湯を気に入ってくれたみたいだ。誘ってみてよかった。人の気持ちとか、どうでもいいやと思うけれど、優香ちゃんに関してのことだけは些細なことでも気になる。
今日もまた、優香ちゃんが俺の心の奥に入ってくる。日に日に奥へ。
優香ちゃんと駄菓子屋で初めて出会った時。その瞬間から、優香ちゃんが頭の中から離れなくなった。こうしてどんどん優香ちゃんを知るほど俺は、優香ちゃんのことを――。
その気持ちは、本を読んでも得られない。
その気持ちは、優香ちゃんにしか感じない。
特別な感情だ。
これは多分、恋だろう。
――生まれて初めての恋。
見上げると、空の星は満開。
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