第6話*一緒に足湯
*蒼視点
夏休み。
今日の外は暑くてどうしょうもない。エアコンが効いてる部屋から出ない方がいい。
俺は高校の読書部でゆるく活動している。夏休み中の活動はとりあえず好きな場所で読書をすること。そして新学期に読んだ本の感想を他の部員四人に発表する。予定はそれしかなくて、結構ひまだった。
「咲良、夕方涼しくなってからお菓子買いに行くか?」
「うん、行くいくー」
六月に優香ちゃんと出会ってからは何回か駄菓子屋に行っていて、彼女との交流は続いている。咲良を駄菓子屋に連れていくというのは表向きの理由で、本当の理由は俺が優香ちゃんに会いたいから。
十六時ごろ、まだ暑かったけど咲良と店に向かった。店に着くとすぐに咲良は大好きなグミの場所へ向かう。
店の中は、相変わらず客が誰もいない。
そういえば、俺ら以外の人をここで見たことがないかも。
「ここって、あまり客見ないな。経営大丈夫なのか……」
「おじいちゃんが亡くなった時にお金も結構残していってくれたみたいだし。この店は趣味みたいなものだって、ばあちゃんが言ってたから、大丈夫みたい」
「そうなんだ……」
ちらっと咲良を見るとスナックコーナーで何を買うか迷っていた。
「そういえば、優香ちゃんって高校生? どこ高?」
なんとなく質問すると、優香ちゃんは視線を思い切りそらしてきた。無言になって何も答えない。そのタイミングで沢山駄菓子が入ったカゴを優香ちゃんに渡した咲良。優香ちゃんが咲良に「またグミ、当たりが出たらいいね」と話しかけ、話題を変えてきた。
プライベート、あんまり聞かない方が良かったか……。
でも優香ちゃんをもっと知りたい。
もっと、もっとたくさん話をしたい。
「ねぇ、この店、何時までやってるの?」
「十八時までだよ」
「そしたらさ、その後、足湯に行かない?」
「あっ、でもばあちゃんが夜ご飯作ってくれてるし」
「そっか……」
「……じゃあ、食べた後なら」
表には出さなかったけれど、断られそうになった時は落ち込んだ。でも今、すごく胸がはずんでいる。普段誰かをどこかに誘うという行為はしない。誘いたい人を誘って上手くいくと、こんなに嬉しいものなのか。
「じゃあ、俺もご飯食べた後、またここに来る」
「う、うん。分かった」
帰り道、咲良に「蒼にぃ、にこにこしてて楽しそうだね」って言われた。
*優斗視点
なんでOKしちゃったんだろう。
明らかに正体バレてないから、これは女装で行くべきだよなぁ。
高瀬が帰ってからすぐに、町に住んでる親子が駄菓子を買いに来た。そのあとはヒマだったからずっと、どうしようかな?って、考えていた。
高瀬とはここでちょっと話すだけだしなぁ。ふたりきりで何を話そう。
とりあえず、女装して行こう……お店以外で女装をしたことがないから、ちょっとドキドキする。
足湯って、長すぎないズボンの方がいいのかな? お湯に浸からない長さだったらスカートでも大丈夫かな?
今日は買ったばかりの、ふわっとした素材の白い水玉ワンピースを着て行くことにした。
***
高瀬が迎えに来てくれた時に、ばあちゃんも「行きたいな」って言ったから、三人で『ひょう花 』に来た。
ここがいつも高瀬が通っている足湯か。
入口前で建物を眺めていると「久しぶりじゃないかー」と突然後ろから声を掛けられた。
誰かな?と思って振り返ると、知らないおじいさんが立っていた。
「秋山さん!」
ばあちゃんが驚いた顔をした。
「ばあちゃんの知り合い?」
「うん、同級生なの」
「今日は足湯入りに来たのかー?」
「あぁ、孫と一緒にね」
「お孫さん、可愛いな」
「あ、ありがとうございます」
可愛いとか言われ慣れていないから、ちょっと照れながらお礼を言った。
中に入ると、靴箱の端にサンダルを入れる。受付を済ますとばあちゃんたちは別のくつろぎペースに行ったから、高瀬とふたりになった。
「ばあちゃん、楽しそう」
ばあちゃんは笑顔。
つられて僕も笑顔になった。
「良かったな」
「うん」
思ったよりも中は涼しくて気持ちが良かった。高瀬はメロンソーダ、僕はリンゴジュースを注文する。足湯の場所へ行き、並んで座った。夏に足湯?って、ちょっと思っていたけれど、別に、夏にお風呂入るし。足を入れてみると、想像よりもいい感じ。
足をお湯の中で軽く揺らしていると、視線を感じた。結構な至近距離で目が合うと恥ずかしいから気付かないふりをしていても、見られてる。
高瀬をチラ見すると、学校では想像出来ないくらいに優しい表情をしてこっちを見ていた。
「ど、どうしたの?」
「いや、可愛いなと思って」
可愛いってさっきもおじいさんに言われて、その時はちょっと照れただけだったけど……。高瀬に言われると、ドクンと心臓が強く波打った。さらに追い打ちをかけるように「肌も綺麗」と言いながら高瀬の顔が近づいてきた。
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