第5話*色彩のバース
*優斗視点
店に高瀬が来た日の夜、自分の部屋の畳に座りながら、期末テストの勉強をしていた。数学の練習問題が終わると、座ったまま足を思い切り伸ばす。部屋着のショートパンツを履いているから、足の露出している部分が畳に触れる。畳がちょっとひんやりしていて気持ちがいい。
保健体育の教科書を白いローテーブルの上に乗せて開いた。
虹みたいにカラフルで、補色がひと目でわかる円のイラストと共に『 色彩のバース』の説明が書いてある。
個人差はあるが、早くて十六歳辺りになると〝自分の色〟が現れる人がでてくる。それは自分とは正反対の補色の人、ひとことで言えばつがいのような、運命の相手と出会った合図。ちなみに明度が高い方が低い方を引っ張っていくとか。
なぜ運命の相手が補色なのかと言うと、凹凸で、お互いに無いものを補える関係だから。一緒になると生存率が上がったり、子を産む関係のふたりなら強い子孫を残せる確率が増えるからだと今は言われている。けれど精神的な理由である可能性が最近浮上してきて、現在研究中らしい。
恋人だけではなく、親友となる人や血は繋がってはいないが家族同然の人と出会って反応することもある。
色が現れた場合、太陽に手をかざすと指の周りにその色は見えてくる。最初はくすんであんまり見えないが、相手と心の結びが強くなると明るく、はっきりと見えるようになる。
本当に運命の相手かを確認する方法は、ふたりに色がそれぞれ現れて、ある程度ふたりの結びが強くなり、はっきりと色が見えるようになった時に手を繋ぐ。そして、その手を太陽の光に照らす。するとふたりの手の周りに、普段現れない輝きが現れるらしい。
その現象が現れるのは一部の人間だけで、現れないけれど仲良く一緒にいる人たちもいる。色の種類は実際沢山あるから、出会えないまま人生を終える人たちも多いのだと。
僕はまだ十五歳で年齢に達していなく、一切色は現れてはいない。そもそも僕の運命の相手なんて、一生現れない確率の方が高い。
お互いにはっきり色が現れた運命の相手と一回手を繋いでしまうと、一ヶ月周期で数日間、ある現象が現れる。それは、相手とずっと手を繋いでいたくなって、一秒でも離れるのが嫌になるらしい。それはどんな感覚なんだろう。
そう考えていると、白チワワのゆきちゃんが足元に来たから、ふわっと抱っこした。
この子とは高校受験の日に出会った。朝、受験会場に向かうと、雪が積もっている木の下に小さなダンボールがあった。
ダンボールを覗くと、くりっとした目でずっとこっちを見ていた。暖かい場所に連れていきたかったけど、これから大切な受験だし、連れてはいけない。寒いかなと思い、つけていた茶色のチェックのマフラーをかけた。そして「ごめんね」と謝り、そのまま会場まで行った。
帰り道、まだダンボールの中にいた。
捨てられたのかな?
なんでこんな寒いところに、こんなに小さくて可愛い子を置いて行けるんだろうか。
犬は抱いたことがない。しかも子犬。壊れないようにそっと抱きしめた。そのまま朝置いていったマフラーにゆきちゃんをくるみ、寒かったねと話しかけて、ちょっと泣きながら家に連れていった。家に帰るとばあちゃんに相談して、ゆきちゃんと暮らすために必要なことをすぐにした。
ちなみにこの子の名前の由来は雪みたいな白い毛で、雪の中で出逢い、そして雪みたいに性格もふわふわしてて可愛いから。
この教科書に書いてあることは人間だけに起こるのかな?
「ゆきちゃんが相手だったら嬉しいね」
ゆきちゃんは「クゥーン」と返事をした。
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