死ねボケカス
@MeiBen
死ねボケカス
ボケカスは道路でひっくり返っているセミを見つけました。ボケカスは尋ねました。
「ねえ君、なにかして欲しいことはある?」
ひっくり返ったセミは答えました。
「まだ死にたくない。もっと生きたい。なんとかしてくれ」
ボケカスは答えました。
「ごめん。それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス」
「他には?なにかして欲しいことはある?」
ひっくり返ったセミは答えました。
「そこの土に埋めてくれ」
ボケカスはセミを土に埋めました。土に埋めている途中でセミが言いました。
「お前のことは一生恨むぞ。呪い続けてやる」
ボケカスはハハッと笑いました。
「いいよ、僕は君に一生恨まれて生きるよ」
「死ねボケカス」
「ねえ、他にして欲しいことはある?」
セミはもう喋りません。
ボケカスは河原で叫んでいる子犬を見つけました。
ボケカスは尋ねました。
「ねえ君、なにかして欲しいことはある?」
子犬は言いました。
「お母さんがあそこで溺れてるんだ、助けて、早くお母さんを助けて」
ボケカスは答えました。
「分かった、いま助けるよ」
ボケカスは川に入って母犬のもとに向かいました。
でもボケカスは泳げません。
ぜんぜん母犬に近づけないままボケカスも溺れてしまいました。
溺れて川に沈む最中で、ボケカスは母犬の叫び声を聞きました。
「役立たず、死ねボケカス」
結局、ボケカスだけは助かりました。
母犬は下流に流されてどうなったか分かりません。
するとボケカスの元に子犬がやって来ました。
ボケカスは言いました。
「ごめん無理だったよ、ねえ他にして欲しいことはない?」
子犬は言いました。
「死ねボケカス、この役立たず、お母さんを返せ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス」
子犬は走り去りました。
ボケカスは道路の上で倒れている猫を見つけました。猫は車にひかれたのか内臓が外に飛び出していました。ボケカスは尋ねました。
「ねえ君、なにかして欲しいことはある?」
猫は答えました。
「もっと生きたい、死にたくない」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス」
「他にして欲しいことはない?」
猫は言いました。
「家に帰りたい。自分の家で死にたい。」
ボケカスは猫を引きずって猫の家まで連れていきました。でもその家には別の猫がいました。その猫は言いました。
「そんな汚いものを家の前に置くなよ」
「でもここはこの子の家のはずだよ」
「知らねえよ、早くどっかに持っていけ」
「でも」
猫が言いました。
「いいよ、裏の林に連れて行ってくれ」
ボケカスは猫を林の中に連れていきました。
「ねえ他に何かして欲しいことはある?」
猫は答えました。
「悲しんで欲しいんだ。俺の飼い主にオレが死ぬことを悲しんで欲しいんだ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス。分かってるよ、そんなこと。お前のせいだ。お前のせいでオレは」
ボケカスはまた尋ねました。
「ねえ他に何かして欲しいことはある?」
猫はもう喋りません。
ボケカスはツバメが地面に倒れているのを見つけました。
ボケカスはツバメに尋ねました。
「ねえ君、なにかして欲しいことはある?」
ツバメは答えました。
「子供たちを助けて」
ボケカスは近くの木の上を見ました。
巣があってツバメのヒナが鳶に襲われていました。
ボケカスは答えました。
「分かったよ、すぐに助けるからね」
そう言ってボケカスは木に登ろうとしました。
でもボケカスは木になんて登れません。
何度も何度も登ろうとしますが、途中で落ちてしまいました。
そうしているうちにヒナ達はみんな鳶に連れて行かれてしまいました。
ボケカスはツバメに言いました。
「ごめん無理だったよ、ねえ他にして欲しいことはない?」
ツバメは言いました。
「死ねボケカス、この役立たず、子供たちを返せ、私の子供を返せ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス」
「ねえ他にして欲しいことはない?」
ツバメはもう喋りません。
ボケカスは半分にちぎれた蛇が地面に倒れているのを見つけました。
ボケカスは蛇に尋ねました。
「ねえ君、なにかして欲しいことはある?」
蛇は答えました。
「オレの身体を元に戻してくれ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス」
「ねえ他にして欲しいことはない?」
「オレをこんな目に合わせたあの猫を殺してくれ」
ボケカスは答えました。
「だめだよ、そんなことできないよ」
「なんでだよ?できるだろ?やれよ」
「できるかもしれないけど、でもできないよ。他に何かして欲しいことはない?」
「無い。あいつを殺してくれ。オレの仇をとってくれ。頼む、お願いだ」
「だめだ、僕にはできないよ」
「役立たず、死ねボケカス」
蛇は最後の力を振り絞ってボケカスに噛みつきました。
「痛い」
ボケカスは叫びました。
「死ねボケカス」
「どうしてそんなに怒ってるの?」
「お前が役立たずだからだ、死ねボケカス」
「ごめん、でも誰かを殺すなんてできないよ、ねえ他に何かして欲しいことはない?」
蛇はもう喋りません。
蛇の毒が身体中に回って、ボケカスはもう歩けなくなって道の上に倒れ込みました。そこに子犬がやってきて言いました。
「死ねボケカス」
「はは、たぶんもうすぐ死ぬよ」
「早く死ね、今すぐ死ねボケカス」
「はは、大丈夫だよ。きっと君より先に死ぬよ」
でもそこに大きな熊がやってきて子犬は身体を引き裂かれてしまいました。
ボケカスは血まみれの子犬に尋ねました。
「ねえ、何かして欲しいことはある?」
血まみれの子犬は答えました。
「お母さんに会わせてよ、お母さんに会いたいよ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、それは無理なんだ。僕にはそんなことできないよ」
「死ねボケカス、早く死ね、今すぐ死ね」
「はは、大丈夫だよ、きっと君より先に死ぬよ」
ボケカスはまた尋ねました。
「ねえ、なにかして欲しいことはある?」
子犬はもう喋りません。
すると今度はカラスが子犬の死体を食べにやってきました。
ボケカスはカラスに言いました。
「ねえ君、その子はまだ生きてるかもしれないんだ。やめてあげてくれないか」
「うるせえボケカス、もうとっくに死んでるよ」
「でも、もしかしたらまだ生きてるかもしれないだろ」
「うるせえなボケカス、お前ももう死ぬんだろ。こいつのことなんかより自分の心配をしろよ」
「でも」
「うるせえ、死ねボケカス、早く死ね。お前の死体もオレが食うんだからな」
「うん、いいよ、だからその子はそっとしといてくれないか」
「嫌だよ、オレはこいつの死体もお前の死体もどっちも食うんだ」
その時、パァンと何かが弾けるような音がしました。そしてカラスが倒れました。
「どうしたの?」
「撃たれたな、こりゃ。お前のせいだぞ。お前が早く死なねえからだ」
「ごめん、本当にごめん」
ボケカスは倒れているカラスに尋ねました。
「ねえ何かして欲しいことはある?」
「うるせえ、お前に何ができんだよ、自分も死にそうなくせに、何もできねえだろ?」
「そうだけど」
「なんでお前はそればっかり聞くんだよ、いつもいつも同じセリフばかり、馬鹿みたいによ」
「優しくありたいんだ」
「はあ?優しく?お前のどこが優しいんだよ。何もできないくせに、子犬もヘビもツバメも猫も母犬もセミも、その前もその前もその前も、誰も助けられなかっただろうが。お前のどこが優しいんだよ」
「分かってるさ。僕は優しくなんかない。だから僕は優しくあろうとしないといけないんだ」
「はあ?」
「ねえ、何かして欲しいことはある?」
「またそれか。本当にボケカスだな。じゃあ羽を治してくれよ。また飛べるようにしてくれ」
ボケカスは答えました。
「ごめん、そんなことできないよ」
「クソッタレめ、死ねボケカス」
「ねえ他にして欲しいことはない?」
カラスはもう喋りません。
人間が歩いてきて、カラスの死体を掴み上げて言いました。
「やったぞ、初めての獲物だ」
ボケカスは言いました。
「ねえ君、その子に乱暴しないで。まだ生きてるかもしれないんだ」
人間は言いました。
「なんだこいつは?変な生き物だぞ。こいつを剥製にすりゃ金になるかもしれないぞ」
「剥製?いいよ、僕はもう死ぬから、剥製にでもなんでもしていいよ。だからその子をそっとしてあげてよ」
人間は言いました。
「まだ少し動いてるな、頭を撃ってトドメをさそう」
再びパァンと乾いた音が響きました。
ボケカスはもう喋りません。
ねえ、なにかしてほしいことはある?
うるさいよ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
もういいでしょ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
もうじゅうぶん頑張ったでしょ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
君の言ったとおりにさ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
優しくあろうとしたよ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
たくさん恨まれてさ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
たくさん憎まれて
ねえ、なにかしてほしいことはある?
もういいでしょ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
役立たずだもん
ねえ、なにかしてほしいことはある?
なにもできないよ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ごめん
ねえ、なにかしてほしいことはある?
もうゆるしてよ
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ねえ、なにかしてほしいことはある?
ねえ、なにかしてほしいことは
ねえ、なにかしてほし
ねえ、なにか
ねえ
ねえ、おつかれさま
うん
おわり
死ねボケカス @MeiBen
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