第18章 あたし美意識はあるんですけど
01.論文とかは未だ先です
一夜明けて、十一月の第五週になった。
いつもの日常を過ごし、授業を受けてお昼になる。
実習班のみんなと食堂に向かい料理を取って席に着くと、しばらくしてからライゾウが現れた。
「飯を食ってるときに済まない。ニナよ、おまえの知恵を貸して欲しい。今日の放課後、少しだけ時間を貰えないだろうか?」
どうやらニナに用事があったようだ。
放課後と言っているのは、食堂などでは話せない内容を含むのだろうか。
「ふむ、妾の知恵とな。何か面白いものでも見つかったのかの?」
「もしかしたら面白いものかも知れん。例のコロシアムの方の話だ」
「なるほどのう」
「他に部員も交えて話をしたいんだ。頼む」
そう言ってライゾウは頭を下げた。
その様子に苦笑いを浮かべながら、ニナが告げる。
「本当におぬしは頭を下げれば何とかなると思ってそうじゃの。……まあ、構わんのじゃ。行くのは妾だけで良いのかの?」
「何なら他の仲間も来てくれて構わんぞ」
そう言ってライゾウはあたし達に視線を走らせる。
「なあなあライゾウ先輩。部員て言ったはったけど、とうとう入った人が居るん?」
「ああ、前に商業地区で会った二人だよ」
「あ……、そうなんや。なるほどなあ」
ということはコウとエルヴィスだろうけれど、サラは名前を確認しようとしない。
二人の名前を今ここで口に出さなかったのは、意図があるかも知れないな。
以前の
コウとエルヴィスのファンの子が押しかけて入部したら色々起きそうだ。
「済まんなニナ。多めに茶菓子とお茶を用意しておくから、放課後に部室まで頼む。他の者の分も念のため用意しておくぞ」
「分かったのじゃ」
そこまで話をしてライゾウはあたし達から離れて行った。
「お茶菓子があるんやったらウチも行こかな」
「お話を聞くだけなら、私も付き合いますよ」
「あたしも相談事の方とお茶菓子が気になるわね」
お茶菓子を多めに用意しておくなんて言われた以上、顔を出さない選択肢は無いよなと思う。
そちらがメインという訳では無くて、環境魔力の妙な流れの話は気になってたしな。
お茶菓子目的だけでは無いんだ、うん。
「ウィンとニナが行くならわたくしも付き合いますわ」
キャリルがあたしを見て笑いつつそう告げた。
お茶菓子につられたと思ってそうだな、否定はできないけど。
「ふむ、では放課後はライゾウ先輩にお茶を頂きに行くのじゃ」
結局、満場一致で放課後に史跡研究会を訪ねることが決まった。
昼食後、実習班のみんなと別れて、あたしとキャリルは魔法の実習室に向かった。
定例になりつつある、
あたしとキャリルが先に着き、程なく他のメンバーが集まった。
「それで王都南ダンジョン攻略だが、今週は予定が入った。別件で指名依頼がパーティーに来たのだ」
レノックス様が開口一番そう告げる。
「指名依頼か……。その話を管理してるってことは、パーティーのリーダーはレノってことでいいんだよな?」
カリオがそう告げるが、あたしもキャリルもコウもレノの方を見る。
「そういえば、その点はきちんと話したことは無かったか?」
「そうかも知れないけど、今さらよね……。多数決を取りまーす。リーダーがレノでいいと思う人ー」
あたしが手を挙げると、レノックス様以外全員が手を挙げた。
「はい決定」
「一瞬で決まったねえ」
あたしの言葉にコウが笑う。
「こういうのって初めに決めるんじゃないのか?」
やや呆れた表情を浮かべてカリオが問う。
でもまあ、いままで何とかなっちゃったんだよ。
「別に誰も困りませんでしたからね」
キャリルもそう言うし、その通りだったりする。
あたし達の様子に苦笑しながらレノックス様が口を開く。
「本当に良かったのか? オレは別に希望者に任せてもいいが」
「ウィンが言ったけど、今さらだよレノ。ボクはキミでいいと思ってるよ」
コウの言葉にあたし達は頷いた。
「そうか……、分かった。それなら改めてリーダーとして話そう。指名依頼が来た件だ」
レノックス様は表情を引き締めてそう言った。
そもそも
そこに今回、あたしたちの学院から指名依頼が入った。
正確には、マーヴィン先生が管轄する案件での依頼らしい。
依頼の内容は、『特殊なスキルを持つ生徒と協力し、スキルの性質を確かめること』とのことだった。
「――詳細については、明日の放課後に附属研究所でマーヴィン先生から説明があるらしい」
「附属研究所、ですの?」
「ああ。今回の依頼は学院関係者で固めるつもりらしいのだ。詳しくは明日判明するだろう」
「了解だ!」
カリオが何やらやる気を見せて応えた。
「ところでカリオ。あなたは冒険者登録してあるの?」
「ああ、済ませてあるぞ」
そう応えるカリオの表情はどこか得意げだった。
「そういうことなら今回の依頼は、あたし達が学生だろうと冒険者としての立場に対する依頼ってことになるのね
「その通りですわね。ぜひ依頼達成したいものですわ」
「確かにそうだけど、まずは詳しく話を聞かないとね」
あたしとキャリルの言葉に、コウが慎重そうな目をしながら告げる。
マーヴィン先生が管轄する依頼とはいえ、達成困難な依頼を受けたくは無いな。
あたし達は揃ってコウの言葉に頷いた。
その後、明日の放課後に附属研究所の入り口に集まることをみんなで確認して解散した。
昼休みが終わって午後の授業を受け、放課後になった。
食堂でライゾウから誘われていたので、あたし達は揃って部活棟に移動して史跡研究会の部室に向かった。
部室の場所はニナを部活棟に案内したときに覚えていたので特に迷わなかったが、あたし達が到着したときにはコウが部室に居た。
「やあみんな、来てくれて嬉しいよ」
「まさかあなたが入部するとは思わなかったわ」
「ライゾウ先輩はマホロバ出身ですし、コウもマホロバからの移民の子孫ですから波長が合ったんですかね」
コウがあたしとジューンを相手に話し込んでいるあいだ、サラとキャリルとニナは部室内を物色――もとい、見学し始めた。
部室の広さは普通の教室ほどはあり、ライゾウとエルヴィスとコウの三人だけでは広すぎるかも知れない。
それでもすでに打合せに使えるような大きな机と椅子が用意され、奥のスペースには本棚が並んでいた。
「ライゾウ先輩が設立したばかり言うたはったのに、結構備品が充実しとるね」
「本棚も歴史書を中心になかなか充実した蔵書になっていますわ」
「ライゾウの奴が部員が居ないのをいいことに、足を使って集めまくったんじゃろうのう。マメな奴じゃ」
サラとキャリルとニナは思い思いに部室内を観察していたが、おおむね評価が高いようだ。
「備品に関してはニナが言った通り、ライゾウ先輩が学院内を歩き回って貰って来たらしいよ。机や椅子は附属病院で使わなくなった奴だって言ってたかな」
コウが説明するが、ニナが頷いていた。
なるほど、そういうところで手に入れてきたのか。
この世界ではエコという概念はないけど、マホロバでは“もったいない”は常識らしいし、そういうところからも思いついたのかも知れないな。
「蔵書に関しては、マーヴィン先生のコレクションとわたしの読んじまった奴をくれてやったのさ」
入口の方から若い女性の声がしたので視線を向けると、勝気そうな雰囲気の女性があたし達を伺っていた。
女性はすたすたとあたし達の方に近づくが、その後ろにはライゾウとエルヴィス、そして何故かレノックス様が居た。
そして女性が口を開く。
「初めましてお前さん達。わたしはアーシュラ・フォークナーという。史跡研究会の副顧問を任されることになった。マーヴィン先生の元教え子だ、よろしくな」
健康的で勝気な印象を与える女性だが、職員室では見かけない顔なんだよな。
そうなるとマーヴィン先生の教え子って言ってたし、附属研究所の研究員だろうか。
年齢としては二十代くらいじゃないかなと思う。
「専門は魔法文献学だが、史跡やダンジョンなんかにも潜ることがあるんで白羽の矢が立った。好きなものはステーキとワイン、得意技はアッパーカット、普段は附属研究所に居るが彼女を探してるいい男が居たらいつでも呼んでくれ」
アーシュラ先生はそう言ってサムズアップしてみせるが、みんなは苦笑いを浮かべていた。
その反応というか空気を読んだのか、アーシュラ先生は何事も無かったかのように澄ました顔を浮かべる。
「……まあ、男云々は言ってみただけだから気にしないでくれ。ええとライゾウ、今日は重要な話があるんだったか?」
「はい、例の植物園の方の調査はレポートにまとめましたよね?」
「ああ、読んだよ。レターとして論文に出せそうな話ではあった」
「論文とかは未だ先ですよ。そもそも公開には王国の許可が要るでしょう。――それはさておき、植物園と対になるものが見つかったと思うので、その検討をしたかったんです」
そこまで説明してライゾウはあたし達の近くにやってきた。
「おまえたち、ありがとうな。茶菓子は買ってあったが、いま購買で買い足してきた。食いながら話そう。あと、コウとクラスメイトだっていうレノが見学に来てくれた」
そう言ってライゾウはレノックス様に視線を向けるが、彼はあたし達に手を振った。
「それで、まずは座ってお茶にしないかい? 後でマーヴィン先生も来てくれるみたいだし、のんびり始めよう」
エルヴィスの言葉にライゾウとアーシュラ先生が頷いていた。
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