02.全員知ってる気配
呪いを検出する魔道具の件でマーゴット先生を訪ねた翌日、普通に授業を受けて放課後になった。
あたし達のパーティー『
キャリルが鎧の装備を済ませ、あたし達も装備の確認を済ませてから魔道具で王都南ダンジョンの地上の街に移動した。
いつもの手順でダンジョンに入り、転移の魔道具を使って第八階層入り口に辿り着く。
「さて、予定通り第八階層と第九階層を、魔獣を避けながら移動するぞ」
「「「了解」ですの」」
あたし達は移動を目的にするときの縦列の陣形で移動を開始する。
トレーニング目的で一時的に役割分担を入れ替える話も出ていたけれど、今回はボス戦があるので延期することにした。
すでに見慣れた春ころの草原の風景の中を、身体強化して気配遮断を行いつつあたし達は駆ける。
索敵や魔獣の迂回をしながら進むが、この階層でも普通に牧場が所々で営まれている。
生息する魔獣の種類は大きく変わらないし、各階層に転移の魔道具もあるから牧畜に適した土地を遊ばせておくのはもったいないかも知れない。
安全マージンを大きく取って魔獣に絡まれないことを優先して進んだけれど、その甲斐もあってか移動は順調だった。
程なくあたし達は第八階層と第九階層を攻略し、第十階層の入り口に到着した。
「ここまでは順調ですわね」
「みんなも周囲の気配をそれぞれ察知するようになっているし、よほどのことが無い限りこのあたりの階層で引っ掛かることは無いよね」
キャリルの言葉にコウが微笑んで応える。
「さて、休憩もそろそろいいだろう。先に進もう」
「そうね。ボスらしき集団を見つけたら止まるから、まずは索敵しながら行ってみましょう」
あたしがレノックス様の言葉に応えると、みんなは頷いた。
その後、危なげなく移動して、事前に得ていた第十階層の行程の半ばを過ぎたところであたしは停止をかけた。
「どうしたんですの?」
「ボスが見つかったのか?」
「そうね……。それらしき気配は見つけたわ。この方向に五キールってところかしら、今までは無かった魔獣の気配が感じられるんだけど……」
そう言ってあたしは進行方向を指さす。
ただ、どうにも魔獣以外の気配もあるんだよな。
「五キールか。カリオよりも遠くから探れる辺りはさすがだね。――それよりも、何か問題でもありそうかい?」
「たぶんだけど、ボスらしき魔獣の集団と誰かが戦闘をしているわ。それを距離を置いて動かない人間の気配が二人分あるかしら」
「ふむ。どうやらボスを取られてしまったんですのね」
「でも何となくだけど全員知ってる気配なんだよな……」
「距離を置いて、か。ボス狙いの冒険者がたまたま重なって待機しているのだろうか」
「距離を置いている方は気配を隠している様子は無いけど、殺気も敵意も何も感じられないわ。見学ってわけでも無いでしょうし、良く分からないわね」
「いちおう警戒しながら進んでみようか。冒険者同士のトラブルという可能性も、念のため考慮だけはしておいた方がいいかも知れない」
「そうね」
トラブルの現場には居合わせたくないなと思いつつ、今日の目的が階層ボスの撃破である以上近寄る必要もあるので悩ましく思う。
それでもここで待っていても仕方が無いので、あたし達は前に進むことにした。
身体強化と気配遮断を行った状態で近づいてみると、そこには草原に静かに佇むカリオとフレディの姿があった。
あたし達に最初に気づいたのはフレディだった。
「久しぶりだなウィン殿」
「こんにちはフレディさん。ご無沙汰しています。今日はカリオの特訓ですか?」
「そうだ。カリオ殿には
「ウィン、この人は?」
コウがあたしに訊いた。
「あ、そうね。紹介しておくわ。この方はプロシリア共和国の駐在武官でフレディさん。過去にキャリルが賊に襲われたときに助力してくれたの」
あたしの言葉にキャリルが目を丸くしてから口を開く。
「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。その節は大変お世話になりました。わたくしはキャリル・スウェイル・カドガンでございます。お陰さまで無事に学業に励んでおります」
「おお、キャリル殿。壮健そうで何よりです。立派になられましたな」
「はい。その後は自らを鍛えておりますの」
キャリルの鎧姿を見てフレディは目を細めた。
「それで、他の仲間を紹介します。こちらの男子二人は共にクラスメイトですが、まず彼はレノ・ウォードです」
そう言ってあたしはレノックス様を紹介した。
その名を耳にするとフレディはその場に片膝をつく。
彼は視線をレノックス様に送り、言葉を待っているようだ。
「初めまして、レノ・ウォードだ。いまはそのように呼んで欲しい。普通に接してくれると助かる」
「承知しました。小官はプロシリア共和国の駐在武官、フレディ・ヴァレンティーノと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
フレディはそう告げてから立ち上がった。
完全に王国の第三王子だってバレてるよな。
後ろには冒険者の格好をしているとはいえ、警護の人たちも控えているし。
ともあれ、あたしはコウを紹介する。
「そしてもう一人。クラスメイトのコウです」
「こんにちは、初めまして。ボクはコウ・クズリュウと申します。よろしくお願いいたします」
「初めまして。フレディ・ヴァレンティーノと申します。クズリュウ家のご高名は共和国でも伺っています」
「ありがとうございます。でも高名は父や兄たちのものなので、ボクは普通に扱ってください」
「承知したコウ殿」
あたし達がフレディに自己紹介している間も、カリオはこちらを気にしつつも階層ボスと戦っている人たちの様子を伺っていた。
「それで、今はどういう状況ですか?」
「ようみんな。今日はダンジョンでトレーニングか?」
「そんな所よ」
あたしが訊くと、カリオがこちらに向き直って告げる。
「俺も今日はフレディさんに実戦の稽古を付けてもらうために、ここのボスと戦いに来たんだ。そうしたら先客がいてさ」
そう言ってカリオは前方で戦っている人たちを示した。
そこにはこれまた知った顔があった。
ゲイリーとケムとガスの三人組だ。
ゲイリーは噂通りスキンヘッドになっているな。
それぞれの武装も大剣や格闘用の小手、槍などに変わっているので、彼らもトレーニングで来たのかも知れない。
「あ、今ので取り巻きは全部倒せたね」
「そうなんだよ。……俺が言うのも生意気なんだけどさ、あの人たち結構危なっかしい動きなんだ。でも、基本的な魔法で雑魚集団を挑発して、逃げながら戦ってあそこまで数を減らしたんだぜ」
なるほど、自分たちは逃げ回ることで、敵のゴブリン達を縦列に伸ばしてから対処しているのか。
「けっこう地道にチクチクダメージを与えては逃げるのを繰り返して、あそこまで減らしたんだ。ある意味冒険者らしい戦い方だなって思ったよ」
カリオが感心した表情でゲイリー達を評した。
「ゴブリンゆえ通じるという面はあるが、面白い戦い方だな」
レノックス様がカリオの説明に興味深げな表情を浮かべた。
より賢い魔獣というか、連携することを前提に戦うような相手には、回り込まれて足止めされる危険はあるかも知れないな。
ただ、そういう敵はそういう敵で、別の攻略法を考えるのかも知れないけれど。
「いよいよボスとの戦いですわね」
キャリルがそう告げるが、完全に見物モードに入ってるな。
もしかしたらカリオとフレディも、同じような感じで見物していたのかも知れない。
そんなことを考えているとゲイリー達はゴブリンのボス個体に同時に突っ込み、一瞬でボスの長い金棒に蹴散らされていた。
『あー……』
あたし達は思わずため息が漏れるが、それでも自分で跳んでダメージを逃がしたのか、ゲイリー達は直ぐに起き上がって距離を取る。
そして突撃しては蹴散らされというサイクルを繰り返していた。
「どうしよう? 加勢した方が良くないかい?」
コウがそんなことを言うので、あたしは一つため息をついて返事をした。
「いちおう前にうちの旅団の関係で一緒に仕事をしたことがあるから、本人たちに訊いてくるわ」
「……ウィンは色々やってるんだね」
「今回はホントにたまたまよ……。ちょっと行ってくるから待っててね」
あたしはもう一回ため息をして、内在魔力を循環させてチャクラを開き、身体強化と気配遮断を行って場に化して移動した。
「おーいあんた達、大丈夫?」
ゲイリー達がゴブリンのボスに吹っ飛ばされつつ自分で跳んで、起き上がって距離を取ったタイミングで声を掛けた。
「「「
「加勢が要るなら手伝うわよ?」
「どうしてここに?」
ゲイリーが油断なくゴブリンのボスを見据えながら問う。
あたしの声がする方は見ずに、三人ともゴブリンのボスを見ているな。
こういう部分は戦い慣れている感じがする。
「トレーニングよ。それよりどうするのよ?」
「あとはこいつだけなんです。野郎の武器さえ何とかできりゃあ、おれ達で何とかできると思うんすけど……」
手の中の槍を握り直しながらガスがそんなことを言う。
見た感じゴブリンのボスの金棒は、中々頑丈そうなうえにリーチが長い。
確かにあれをどうにかすれば、彼らでも対処できるかも知れない。
「分かったわ。指を落としちゃうからちょっと待ってね?」
「「「え?」」」
魔獣を倒すのにその指を斬り落としたくらいなら、彼らの功績への影響は少ないだろう。
そう判断してあたしは
「グォオオオオオオ!」
指をすべて失ったゴブリンのボスは、振り回していた長い金棒を上手く持つことが出来なくなってその場に取り落とした。
もちろん痛みは感じたのだろうが、それよりも怒っている感じがする。
だがあたしの気配は追えないらしく、直ぐにゲイリー達を標的に定めて突っ込んでいった。
「かたじけねえ! お嬢!」
「やってやらああああ!」
「おりゃああああああ!」
その後はゲイリー達の攻撃が通り始め、数分後にはゴブリンのボスを倒すことに成功した。
あたしはみんなの所に戻り、彼らの戦いを見物していた。
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