03.同じ年代のメンバーを揃え
階層ボスのゴブリンとその取り巻きを倒したゲイリー達は、慣れた手つきで魔石を取り出してからあたし達の所に歩いてきた。
「皆さん済まねえ。ボスどもを先に取ったのは冒険者の習いで勘弁して貰いてえ。だが、倒すのに手間取って、ここでずい分待たせちまった」
「「済みませんでした」」
そう告げてゲイリーが頭を下げ、それに倣ってケムとガスも頭を下げた。
「気にしないで欲しい。我々もトレーニング目的で来ていたので、見学させて貰っただけだ」
あたし達が来る前にゲイリー達を眺めていたフレディが応じる。
その言葉にゲイリーはチンピラ顔を綻ばせ、口を開く。
「そう言って貰えるとありがてえ。俺はゲイリーって名だ。こいつらはケムとガスだ。冒険者ギルドとかで見掛けたら気軽に声を掛けてくれ」
「ああ」
そしてゲイリーはあたしに視線を移す。
「あと
「「ありがとうございやした!」」
「気にしないで。それよりあなた達、どういういきさつでボスに挑んでたの?」
「ご存じの通りオレ達は、相談役やジャニスの姐さんに仕切って貰って、王都の道場に入ったじゃないすか。ワザを習い始めたから手ごろな相手で実戦訓練をしてたんす」
鼻ピアスを閃かせながらケムが嬉しそうに告げる。
だがそれを聞いてあたしは脱力した。
「あたしが言うのはどうかと思うけど、お小言を言うわ。今回あなた達は習ってる武術を使ってというよりは、冒険者らしい戦術を使って倒したみたいじゃない?」
「「「そ、そうっすね」」」
「それってトレーニングに手ごろな相手だったの?」
「「「…………」」」
「ダンジョンでトレーニングするのはいいと思うけど、来る前に道場の先輩たちに相談するべきよ。実戦に偏ってヘンな癖がついたら、師範とかに怒られるわよ?」
あたしの言葉でゲイリー達はショボーンとしてしまった。
「ともかく、今回は軽い打撲ぐらいで大きなケガも無さそうだし良かったじゃない。気を付けて進みなさい」
「分かったぜお嬢」
「助かったぜお嬢」
「ありがとうお嬢」
そう言ってからゲイリーとケムとガスは、トボトボと第十階層の出口に向けて歩いて行った。
ゲイリー達が立ち去ってから、レノックス様が口を開く。
「それでどうする? 階層ボスが
「仕事とかならともかく、あたしは延々と待ち続けるのは好きじゃ無いわ」
あたしが応えるとキャリルやコウも順に口を開く。
「わたくしとしては挑んでみたい気持ちはありますが、この場でただ無為に過ごすのもどうかとは思いますわね」
「フレディさんとカリオはどうするんですか?」
そういえばフレディとカリオは、あたし達が来る前にここに来ていたのだったか。
カリオは放課後になったら寮で着替えて、直ぐに王都南ダンジョンに来た感じだろう。
共和国がダンジョン地上の街に転移の魔道具を置いているかは分からない。
でもカリオは収穫祭の時の特訓で第二十階層までは到達しているらしい。
身体強化して走ってきたとしても、ダンジョン地上にある転移の魔道具でこの階層に来たなら、あたし達より先に着くことも可能かもしれないな。
「ふむ。確かにこの場で待機するくらいなら、ここからなら第十一階層まで進んだ方が良いだろう。入り口近くで適当な魔獣を狩れば鍛錬になる」
「そ、そうですけど、
「難易度? ふむ、誤差だよカリオ殿。大丈夫だ、カリオ殿なら問題無く戦えると想定している」
そうか、カリオは自分が得意な
それなら確かに密林よりは、ここみたいな草原のように視界がいいところで戦いたいのかも知れない。
「誤差……かなあ……」
何やらカリオは肩を落としてるな。
少し励ましてやろうか。
「ねぇカリオ」
「何だよウィン……」
「ガンバレ」
あたしは努めて笑顔を作り、サムズアップをした。
「くっそー、なにニヤニヤしてるんだよ。俺の苦労がそんなに楽しいのか?!」
どうやらあたしの笑顔はカリオを煽ることになってしまったようだ。
「え、頑張ってあたし笑顔を作って応援したかっただけなんだけど、――本音が出たのかも」
「なんだとー?!」
あたし達のやり取りを真に受けたのか、フレディが冷静に告げる。
「カリオ殿、第十一階層くらいで苦労と言われると、小官としても困るのだが」
「……ハイ、ガンバリマス」
よし、カリオが頑張る気になったなら結果オーライだろう。
あたしはそう考えることにした。
「ところでみんなは誘い合って来たのか? もし王都南ダンジョンに良く来るようなら、俺も次回から混ざっちゃダメか?」
話題を変えるつもりだったのか、気軽な様子でカリオがあたし達に訊いた。
カリオ本人の人間性は少し迂闊なところはあるものの、性格的にはかなりまともである。
だがあたしとしては王宮の転移の魔道具を借りている状態だ。
四人でパーティーを組んだことを話すのは構わないけれど、魔道具のことを説明するのはこのメンバーではレノックス様しか判断が付かない。
そこまで考えて他の三人を見るが、自然とあたしもキャリルもコウもレノックス様に視線が向いた。
そうしてレノックス様が口を開く。
「カリオが参加してくれること自体は心強い。ただオレ達もパーティーを組んだばかりでな、連携などを考える時間が欲しい」
「そうか。まあムリにとは言わないさ」
「無理では無いな。ただ、色々の事情があって、直ぐにはお前を受け入れる準備が整わないのだ」
カリオをあたし達のパーティーに入れるとなると、王宮や共和国大使館も絡む話になるかも知れないな。
だからこの場でレノックス様が即答するわけには行かないだろう。
「そういうことなら分かった。ところでパーティーって言ったけど、名前は何て言うんだ?」
「『
「へえ! いいパーティー名だな」
「ああ。ウィンの案でな」
レノックス様の言葉でカリオはあたしに一瞬視線を向けた後、口を開く。
「…………あ、うん。いい名前だ」
「ちょっと、今の間はどういう意味よ」
「いや、真面目にいい名前だと思っただけだよ(ウィンが付けたにしては)」
「聞こえてるわよ?!」
「何でもないです」
小声で本音を呟いたなカリオめ。
「……ところでパーティーってことは、全員冒険者登録しているのか?」
「そうだぞ?」
カリオの問いにレノックス様が即答した。
レノックス様にしても、“レノ・ウォード”という名で冒険者ギルドに登録済みらしい。
王族がいいのだろうかと思ったけれど、国王陛下の方針でレノックス様のお兄様方も登録してあるようだ。
ともあれカリオとそんなやり取りはあったが、結局あたし達はその場から移動して第十階層の出口に到達した。
そしてそのまま、第十一階層の入り口のところにある転移の魔道具に魔力を登録した。
「それじゃあボクたちはここで帰りますけど、フレディさんとカリオは気を付けて下さいね」
コウの言葉にフレディとカリオが応じる。
「ありがとう。貴殿らも気を付けて」
「じゃあなみんな」
あたし達はみんなで手を振って彼らを送り出し、ダンジョンの地上の街に戻った。
今は転移の魔道具で王都南ダンジョンの地上の街から王宮に戻ってきている。
キャリルも鎧を脱ぎ、みんなで応接室でお茶を頂きながら今日の反省会をしていた。
反省会といっても今日は移動だけだったし、パーティーとしての戦闘は無かった。
だからゲイリー達の戦いの感想をお喋りしていたのだけれど。
「――それでだな、まだ内々の話だが、オレ達のパーティーに指名依頼が来ることになりそうだ」
話題が途切れたところでレノックス様が告げた。
「指名依頼ですの? どんな内容でしょうか」
「詳細は秘されているが、依頼者はオレ達の学院であるようだ。内容は戦闘を伴う実験への協力ということらしい」
「学院がボクらのパーティーを把握していたのかい?」
「より正確にはオレの客が学院だったというべきだろうか」
「ああ、それなら多少は納得ね。でもレノだけじゃなくて、あたし達も指名を受けるっていうのどういう事かしらね」
同じ年代のメンバーを揃え、レノックス様を主体にして集団戦を行う。
この事で将来を見据えた何かが動いているのかも知れない。
ただ、いかんせん情報が足りないかな。
「その辺りは正式な話が来てからまた相談させてもらう。今日話したのはあくまでもそういう動きがあるという情報共有だ」
「分かったわ」
「了解ですの」
「でもそうなると、カリオがボクらのパーティーに参加したいという話はどうしよう?」
コウが指摘するけれど、確かにその問題はあるんだよな。
パーティーへの指名依頼という事になるなら、カリオも巻き込まれる。
「特に問題は無いだろう。王都南ダンジョンの、地上の街へ転移する魔道具くらいだな」
王宮内に色んな場所に向けた転移の魔道具があることは、他国の人間には明かせないか。
「それにしても、設置場所を別の部屋に移せば済みそうな気もするしな」
「その程度なのね」
「カリオでしたら攻撃役と斥候役が兼務できそうですわね」
キャリルはさっそくカリオを加えた時の動きを想像し始めたのかも知れない。
「あいつは攻撃役はともかく、斥候役は微妙に不安なのよね……」
「その辺りも含めて、オレの方で王宮に相談しておく。恐らく問題無く加わることになるだろう」
レノックス様の言葉にあたし達は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます