07.もう見えてるよ
あたしたちは学院がある地区から王都内の乗合い馬車で中央広場までやってきた。
面積はそれなりにあり、地球換算でいえば客席まで含めたサッカー場くらいはあるかもしれない。
足元は魔法による舗装ではなく石畳になっているが、なにか謂れがあるんだろうか。
王都には中央広場以外に東西南北に四つの広場がある。
それぞれ東広場、西広場、南広場と王城前広場だ。
だが、中央広場がいちばん広いらしい。
「それで、ここからどこ行くん?」
いまあたしたちは中央広場の南側に立っている。
サラは周りをキョロキョロしているが、やがて北側にある大きな建物に目を止める。
「なあ、あれって教会やんな?」
「そうですわ。ディンラント王立国教会の本部ですわね。興味があるなら後で参りましょうか」
「そうね。サラ、どうする?」
「え、なか入れるんやったら見てみたいわ」
「じゃあ、あとで行こう」
「それで、わたくしたちの目的地は広場のこちら側ですわね」
「うん。……行ってみようか」
「むむ、どこに向かっとるんやろこの子らは」
「もう見えてるよ」
そしてあたしたちは大きな石造りの建物の前で足を止めた。
「……! ここってまさか!」
「うん、冒険者ギルドよ。ディンラント王国冒険者ギルド本部も兼ねてるけど、王国ギルド本部は職員とか王宮の文官とかが行くところね」
「そう、わたくしたちが来ましたのは、冒険者ギルドのディンルーク支部ですの」
「まさかウィンちゃんとキャリルちゃん、冒険者登録をするん?」
「「正解!」」
「はー……。いや、年齢的には行けるんか? そやけどなんでまた冒険者なんて……」
サラが当惑した顔であたしたちを見た。
「王都の学生で冒険者登録する人はけっこういるらしいわ。それに王都って、ある場所を除けば魔獣の脅威は徒歩圏内には無いでしょ?」
「ある場所を除けば?」
「王都とディンアクア市のほぼ中間に、『王都南ダンジョン』があるんですの。わたくしたちの目的はそこで鍛えることですわ」
「あとはお小遣い稼ぎね……」
あたしがボソッと補足する。
サラの目が『お小遣い稼ぎ』という単語に一瞬キラーンと輝いた気がした。
キャリルから学院受験を誘われた時、あたしはやりたいことも特に考えていなかった。
だが王都の学校事情を調べる中で、学生の中には冒険者登録してダンジョンに挑む者がいると知った。
そして、学生をしながら冒険者の経験をしておけば保険になるのではと思った。
それが学院に来ることを決めた理由の一つになったのだ。
「そういうことなんや……」
「あたしは実家で狩人やってるし、イノシシとかオオカミくらいなら一人で群れを片付けられるわ。クマも普通に狩ってたね。そういう経験が無い子はパーティーでの挑戦を勧めるわ」
あたしは一応クギを刺す。
イノシシとオオカミとクマのことを話したら、サラはすこしがっかりしたような表情を浮かべた。
小遣い稼ぎでもしたかったのだろうか。
「わたくしたちは今日の予定は登録するだけですわ。早く済ませて王都を散策しましょう」
「そうね、行こうか」
「まあ、ウチはギルド見学させてもらっとくわ。商人でも冒険者ギルドには依頼で来るやん」
「そうそう、王都内でアルバイトがしたかったら、商業ギルドに行くと単発とか長期とか色々あるってあたしの姉さんが言ってたよ」
あたしの言葉に、再度サラの目がキラーンと輝いた気がした。
そうしてあたしたちはギルドの中に入った。
朝の時間帯ということもあって、ディンルーク支部の中は冒険者らしき人たちで混みあっている。
その多くが依頼が張り出された掲示板を確認しているようだ。
冒険者ギルドの中を見渡してみると、入ってきた入り口のところからすぐに受付の窓口と掲示板が並んでいる。
階段も入ってすぐのところにあった。
外から見たら五階建てだったが、エレベーターみたいなものは無いようだ。
一階はそれなりの広さがあるが、奥の方に目を向ければ酒場が併設されている。
酒場の利用者はそれなりにいたけれど、呑んでいるわけではなくて朝食をとっているみたいだ。
酒場の向こうには通路があり、訓練場、解体場、厩舎などの案内板があった。
受付を観察すると、『冒険者登録・変更・抹消窓口』なんて書かれている場所を見つけたので、三人で向かった。
「あの、すみません。冒険者の登録をしたいんですが」
「はい、こちらの窓口ですね。そちらの三名様ですか?」
受付のお姉さんが応対してくれるが、その落ち着いた口調に安心する。
「ええと、あたしと」
「わたくしの二名ですわ」
「分かりました。冒険者登録は十歳以上の方か、本年王都にある学校の初等部に入学された方が対象になります。失礼ですが、身分証になるものか保護者などからの紹介状をお持ちでしたら提示をお願いします」
あたし達が学生証を提示すると、必要書類への記入を促された。
近くにあった記帳台で記入を済ませて提出する。
「それではこれから冒険者登録証を準備いたしますので、こちらの木札を持ってしばらくお待ちください。準備出来たらお呼びします。……それとヒースアイル様」
「はい?」
「当支部の相談役からお話があるようです。あちらの階段から二階に上がっていただき、第四会議室に入ってお待ちください。好きな席で掛けてお待ちくださいね」
「お話ですか、どういう話でしょう?」
「詳しくは存じませんが、すぐ済むとのことでした」
「わかりました、行ってみます」
「お願いします」
キャリルとサラには一階で待ってもらうことにして、あたしは会議室に向かった。
途中、思わず視線をギルドの入り口の方に向ける。
「隠れてないで出てこればいいのに」
そんなことを呟いてから階段を上った。
あたしが会議室に向かうと、まだ相談役は来ていなかった。
受付のお姉さんに言われた通り、通路に近い席に座って待つ。
程なくノックがあり、地味なジャケットを羽織った黒髪の男性が部屋に入ってきた。
どこにでも居そうな特徴のない顔をしている。
「待たせたな。お嬢ちゃんがウィン・ヒースアイルだろうか?」
「はい、そうです」
「ウィンの嬢ちゃんの母ちゃんは、ジナ・ヒースアイルで間違いないか?」
「そうですが、失礼ですがあなたは?」
「済まねえな、自分はデイブ・ソーントンだ。ジナの姐御からウィンという娘が今日訪ねるから相談に乗ってやれと言われている。
「母と知り合いなんですね」
「同門の弟弟子だ。腕前は並みだがね」
そう告げてデイブは右手を出した。
握手してから手を放そうとすると、デイブが告げる。
「ちょーっと魔力を回して身体強化してみせてくれねえか」
「あ、はい」
言われた通り身体強化をしてみる。
「ほかの強化もできますけど?」
「いやいい」
デイブは手を放し、【
「気休めだが盗聴対策だ。座ってくれや」
あたしが椅子に座ると、デイブは斜め隣に椅子を持ってきて座った。
「技はどこまでできる?」
「絶技・
「マジで……?」
デイブが死んだ目になる。
「えーと、今年初等部に入学ってことは十歳だわな。何歳から始めた?」
「五歳からですね」
「五年でそこまでやるか?! 詰め込んでも八年はかかるだろ。……お嬢は苦労したんだな」
そう呟いてデイブはその瞳に涙をにじませる。
この人は子ども相手には感情が出やすいんだろうかとふと思う。
「はじめの一年くらいは大変でしたけど、途中から何ていうか興味が出てきて。父さんが狩人だから、たまに狩りでワザを使うように言われてたら少し楽しくなって来ちゃったんです」
あたしはそう言ってからテヘっと自分の頭をかくと、デイブは再び死んだ目になった。
「お嬢はやっぱりジナの姐御の娘なんだな……。まあいい、だいたい分かった。今後月転流のことで分かんないことがあったり、組手の相手が欲しい時は連絡してくれ」
「ありがとうございます」
「おれは表の顔は『ソーン商会』って武器商人をやってる。売るのとメンテナンスがメインだが、同門には実費だけでやってるから武器や防具なんかの装備で困ったら必ず来てくれ」
「わかりました。……あの、表の顔って?」
「ん?
「月輪旅団て何ですか?」
「おいおいそこからかよ姐御……。まあ今日は時間もねえし、簡単にいえばジナの姐御の実家が幹部をやってる傭兵団だ。常設ってわけじゃ無くて、普段はみんなふつうの生活をしてる。実体は月転流を使う連中の互助会だ」
デイブが脱力した様子で告げた。
「そうだったんですね」
「詳しく知りたくなったらソーン商会まで来てくれ。このギルドの建物から南に二本行った通りで店をやってるから」
「ありがとうございます」
そのあと、デイブと【
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