02.また会う気がするよ
「どうでしたのウィン?」
「そうねぇ。なんかあっさり終わっちゃったわ」
開口一番にキャリルが問う。
先に実技試験を終えて、試験会場近くのベンチでキャリルが待っていた。
お供の人たちもいる。
「そうですわね、あの魔法人形は我が家の一般兵くらいの動きでしたかしら。わたくしとウィンでは瞬殺なのだわ」
キャリルはそう言ってベンチから立ち、胸の前で右拳を握りこむ。
というかあれ、動いたの?
あたしの試験の奴だけ故障してて点数に入って無いとか無いよね?
「ま、まあ勝負はすぐ付いたわね。あたしの魔法人形は動かなかったんだけど、故障してたとかだとやだなあ……」
「ウィンのことですから気配を消して高速で攻撃をしたのですわね。仮に故障でも、学院側の問題ですわ」
「だといいなぁ」
そのあとあたしたちは、寮にいるはずのアルラ姉さんとロレッタを魔法で呼び出した。
時間的に少しお昼を過ぎていたので、姉さんたちの案内でみんなで学食に行った。
王立ルークスケイル記念学院の学食は構内にあるが、一般にも開放されているので利用ができるそうだ。
こういうところはうっすら覚えている日本の大学に似ているよなとおもう。
基本はビュッフェ形式らしいので品ぞろえを見て歩くが、留学生も受け入れているからか各国の料理があるようだ。
そしてあたしはテンプラをみつけてしまった。
エビ天と野菜の天ぷらがあったので、思わず取り皿に盛ってお盆に確保し、近くに置いてあった濃い目の天つゆをかける。
どうやら白米と味噌汁、しょう油もあるようだ。
「いきなりマホロバ料理をみつけて挑戦する辺り、ウィンはやっぱり目端が利くわね」
「なんか気になったんです」
あたしが応えるが、そういうロレッタは普通にバケットサンドとサラダを選んでいた。
「マホロバ料理はヘルシーで女子に結構人気なのよ。でもウィン、お箸とか使えるの?」
「たぶん大丈夫。ミスティモントで習ったことがあるわ」
アルラ姉さんに応えるが、盛大に嘘である。
箸の使い方はかつて日本人だった記憶でも、はっきり残っているものの一つだった。
姉さんとキャリルはパスタとサラダにしたようだが、元々はプロシリア共和国の料理らしい。
空いたテーブルを見つけ、みんなで遅い昼食を食べ始める。
ごはんや味噌汁の味はぼんやりと覚えている日本のそれと同じだった。
けれど、強く感動したというよりはホッとするような味だった。
「やあ、キミもマホロバ料理を食べてるんだ? 箸の使い方が上手だね」
食べ始めてからすぐに、近くの席に来た少年から声を掛けられた。
ややタレ目のその少年はクセ毛の赤髪で、あたしはその色をどこかで見た気がした。
だが、直後に彼の手にある料理に目を奪われた。
それは牛丼だった。
しかも肉増し、だと?
あたしが心を揺さぶられ始めていると、少年の保護者だろうか、やはり赤髪をした年上の男性が口を開く。
「こら、コウ。ここは地元じゃ無いんだ。いきなり女の子に気軽に声をかけるのはやめなさい」
地元ならいいのか?
「はいはい。――キミ、食べてるところを話しかけてゴメンね」
「……お嬢さん、申し訳ない。愚息には後で言って聞かせておくので、不躾だったのはご容赦頂きたい」
年上の男性はそう告げてから“お辞儀”をしてみせた。
「いえ、気にしないでください」
「有難い。コウ、ここだとお嬢さん方にご迷惑だろうからあちらに参るぞ」
「はーい、じゃあね。――なんだかキミとはまた会う気がするよ。ヨロシクね」
そう告げてコウと呼ばれた少年はウィンクし、保護者らしき男性と別のテーブルに移動していった。
「……これがいわゆる“モテ期”という奴ですわね」
「良かったわねウィン。ああ言われた以上、あなたは受かる気がするわ」
「赤髪で“お辞儀”だったわね……。マホロバ領に縁がある人たちだったのかしら」
キャリルとロレッタからそんな感じで弄られ、アルラ姉さんはひとり分析を始めていた。
その後王都で数日を過ごし、まずはアルラ姉さんとロレッタの高等部入試の結果を見に行ったが、二人とも無事に合格していた。
その二日後、あたしは合格発表を見に来ていた。
相変わらず学院の構内は在学生が多くいてお祭り騒ぎになっている。
「じゃあウィン、行きますわよ!」
「うん。見に行こう!」
その場にはあたしとキャリルのほかにアルラ姉さんとロレッタ、父さんと母さん、シャーリィ様とさらにお付きの人が二人いた。
掲示板の前に移動し、自分の受験番号を探すがあっさり見つかった。
実技試験のことがあったので多少の不安はあったけれど、無事に合格できたようだ。
「合格したわよー!」
そう言ってキャリルの方を見ると、何やら右こぶしを突き上げて空を見上げている。
「キャリル?」
「うふふふふふ」
「どしたの?」
「もちろん合格ですわ!! ああウィン! ここからわたくしたちの伝説が始まるのですわ!!」
そう言ってキャリルはあたしに抱き着いてきた。
その場にいたあたしたちの身内は、そろっておめでとうと言ってくれた。
あたしたちのやりとりを見ていたのか、すぐにその場に上半身ハダカの筋肉集団がわらわらと現れた。
「おおッ! おめでとうッ! 我々在校生はッ! きみたちを歓迎するッ! 胴上げをさせてくれまいかッ!」
「あ、いや、そういうの結構です」
あたしは秒で断った。
「そうかッ! いつでも呼んでくれたまえッ!」
そう叫びながら筋肉集団は次の獲物を探しに行った。
やがて管楽器を持った女子生徒たちが現れ、あたしたちに祝いの曲を吹いてくれた。
古びた執務室でテーブルをはさんでソファに座り、二人の人物が向かい合っていた。
片方は壮年の男で、品のいいスーツを着込んでいる。
もう片方は女で、濃い色のスカートとジャケットを着込んでいる。
二人は目の前のテーブル上の書類を見ながら、なにやら話し込んでいた。
「今年は初等部が豊作だと思われます、学長」
「そうですね。――竜魔法がすでに実戦レベルの第三王子殿下と、
「ほかにも優れた子が来てくれました」
「
学長と呼ばれた男は、書類に目を走らせながら思考を続ける。
「ドイル嬢に関しては
「それでも、年齢からいえば
「“鱗の裏”からの情報は、現段階ではたしかに差し迫っているわけではありません」
「ええ。だからこそ、彼らやこの国を護るために我々ができることは、これまで通り変わりません」
「そうですね」
「備えましょう」
「はい」
そして二人はさらに資料に目を走らせた。
受験が終わってミスティモントに戻ってからも、あたしはそれまでの生活と大きく変わらずに日々を過ごした。
母さんからトレーニングを受け、父さんの狩りやリタの家の屋台を手伝ったり、キャリルの側仕え補佐などをした。
初回の聖塩の祝祭が終わって以降は、斥候のまね事はやらずに済むようになっていた。
どうやら制式に聖塩騎士団従者が持ち回りで情報を集めることになったらしい。
そしてあたしが春に十歳の誕生日を迎えると、街の教会でお祝いをしてもらった。
母さんによると、十歳の誕生日のタイミングで教会が住民のステータス情報を通例で集めるらしい。
もちろんあたしは教会に行く時、自身のステータスから薬神の巫女というのを隠した。
この時点での状態はこんな感じになっている。
【
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割:
耐久: 70
魔力: 120
力 : 80
知恵: 190
器用: 180
敏捷: 300
運 : 50
称号:
なし
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、手斧術、弓術、罠術、気配察知、魔力感知、二刀流、暗視、方向感覚、分析、立体空間把握、身体強化、反射速度強化、気配遮断、思考加速
戦闘技法:
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態)
創造魔法(魔力検知、鑑定)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風のやまびこ、巻層の眼)
水魔法で覚えた【
魔力の効率から範囲使用に向くけれど、部位欠損や失血には地魔法の【
【
鑑定の魔法を練習して極めると一生くいっぱぐれが無いらしいけど、本人の才能もあるらしいしそこまでいくかどうか不明だ。
身体の内在魔力の循環だとか、母さんの特訓で出ていた効果はスキル化したようだ。
じっさい、前よりも身体強化ほかの発動が内在魔力の循環でスムーズに発動している気がする。
数値に関しては正直、ほかの人のステータス情報をみる機会が無いのでどう解釈するものかと思う。
それを母さんに訊いてみると数値はあくまでも目安で、戦闘技法やら魔法なんかで上下すると説明された。
それに被せるように母さんからは「王都でもトレーニングをサボったらダメよ」とクギを刺された。
あたしの質問はヤブ蛇だったようだ。
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